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2017-2020, SORCERIAN Next Team
0 舞台は江戸から京へ移り、時は${文久|ぶんきゅう}2年(1862年)4月。 京の旅館『寺田屋』に集う薩摩藩の${尊王攘夷|そんのうじょうい}派志士を薩摩藩藩主の父『${島津久光|しまづ ひさみつ}』が厳しく取り締まったことにより、京での薩摩藩の評判は高まり、治安も一時的に回復していた(寺田屋事件)。
その様相が変わってきたのが、翌年の文久3年(1863年)のこと。 島津久光が京から江戸へと向かったのをよいことに、尊王攘夷派の長州藩が京で活発に動き始めたのだ。 長州藩は、京で人斬り(天誅)を繰り返すだけに止まらない。 朝廷と幕府の協力関係を望む${公武合体|こうぶがったい}派の公卿『${岩倉具視|いわくら ともみ}』を朝廷から追放した尊王攘夷派の公卿『${三条実美|さんじょう さねとみ}』と協力関係を結んだのである。 しかし、長州藩と三条実美ら尊王攘夷派の公卿は、それだけ過激なことをしていたのだ。 事はそう上手い具合に運ぶはずがなかった。
同年8月18日。 長州藩と三条実美ら公卿の存在を危険視した会津藩と薩摩藩、公武合体派の公卿、そして孝明天皇の力により、長州藩と尊王攘夷派公卿は京から追放されたのだ。 この『八月十八日の政変』により、尊王攘夷派の公卿ら7人が長州藩と共に長州へと落ち延びたことを『${七卿落|しちきょうおち}』という。
月日が流れ、${元治|げんじ}元年(1864年)6月。 京で息を潜めるように活動していた尊王攘夷派の志士達は、恐ろしい計画を企てていた。 それは、「京の町に火を放ち、『八月十八日の政変』に加担した者を暗殺・幽閉し、天皇を長州へ連れ去る」というものだった。 だが、その計画のために京の旅館『池田屋』に集った尊王攘夷派の志士達は、京都守護職御預り『新選組』の討ち入りに遭い、30人以上が捕殺された(池田屋事件)。 尊王攘夷を掲げる志士達の謀略は、新選組の活躍により未然に防がれたのであった。
京の堺町御門警護の任を解かれての追放。 新選組による尊王攘夷派志士の捕殺、並びに、天皇誘拐計画の失敗。 追い討ちに次ぐ追い討ちに激憤する長州藩の『急進派(武力によって朝廷に無罪を訴えようとする一派)』は、味方内の制止さえも振り切り、京への進軍を開始するのだった。
そして、**元治元年(1864年)7月19日。** **『禁門の変』**または**『${蛤|はまぐり}御門の変』**と呼ばれた長州藩の御所襲撃事件は、こうした経緯で始まったのである。 ![禁門](baku03-01.png) [これまでのあらすじ](1) 1 ### これまでのあらすじ ペンタウァの勇者と名高いソーサリアンの『君』は、幕末期の日本に渡っていた。 それも全ては、日本に潜入して暗躍する"魔"の企てを探り、阻止するためであった。
安政7年(1860年)。 江戸の町に着いた君は、刀を盗まれ困っている男『${広岡子之次郎|ひろおか ねのじろう}』に出会った。 君は広岡に事情を聴き、刀を盗んだ三人組を懲らしめると、無事に広岡の刀を取り戻すことができた。 君の強さにいたく感心した広岡の誘いに乗り、その日の夜、待ち合わせた広岡に連れられて一件の長屋に赴く。 そこに居たのは、独断で鎖国を解いた大老『${井伊直弼|いい なおすけ}』を討つべくして集まった旧水戸藩士達であった。 彼らが言うには、井伊は魑魅魍魎を使役して天皇の命を狙っているのだという。 話の途中で噂の魑魅魍魎に襲撃され、いよいよ"魔"の関与が現実味を帯びてくると、君は広岡らに力を貸すことを約束した。 井伊直弼との対決の日。 井伊の乗った籠が護衛をともない行列を組んで桜田門から外に出てきたところを襲撃すると、護衛の正体が魔物だと発覚する。 全ての魔物を打ち払った君達の前に井伊がその姿を現し、彼が手刀で横に薙ぐと、旧水戸藩士達は骨と化して動かなくなった。 井伊と対峙した君は、そこで初めて井伊の凶行とも取れる行動の全てに意味があることを知ったのだ。 片腕を"魔"将軍配下**『${貪|むさぼ}るものアメミット』**に蝕まれていた井伊は、アメミットの目的を語った。 **『鎖国を破壊し、その混乱に乗じた"魔"将軍ガッシュらを日本に引き込み、その活動を助けるために江戸を破壊する』** つまり、井伊はアメミットの目的を知り、"魔"将軍達に打ち勝つ見込みのある異国人ソーサリアンという風を日本に導くために、あえて鎖国を解いたのである。 君は井伊から託された想いを胸に、アメミットに取り込まれた井伊と戦い、激闘の末に勝利した。 邪悪に身も魂も蝕まれ、喰われようとも、最期まで日本の未来を憂い、遺志を君に託した井伊直弼。 その魂が散りゆく様は、まさに新しき風に舞い踊る桜の花びらのようであった。
"魔"の軍勢も今や日本に入り込み、『黒船来航』以降は行方の知れぬ<黒真珠>を探しながら、日本を戦禍に巻き込むべく暗躍しているのだろう。 だが、良からぬことを企んでいるであろう"魔"の者共に、この国を、この世界を好きにはさせない! 晴れ渡る青空の下、編み笠を被った旅装束姿で街道を歩く君は、固い決意に燃える炎を瞳に宿し、拳を強く握り締めた。
『桜田門外の変』から4年の時が流れた。 今は、元治元年(1864年)の5月。初夏である。 **幕末ソーサリアンのステータス強化ルール(簡易版)** ①次にプレイする幕末シナリオを開始してScene 1を開いている間のみ、 幕末ソーサリアンシナリオの実積率に応じてステータスを強化できます。 ②強化ルールの詳細は、BattleSheetを開いてご確認ください。 ### 現在の実積率 + 序:${result_rate?baku01} % + 弐:${result_rate?baku02} % + 参:${result_rate?baku03} % + 肆:${result_rate?baku04} % + 伍:${result_rate?baku05} % + 陸:${result_rate?baku06} % [本編開始](2) [▶▶『田浦勇之助』の設定紹介を飛ばす](5 "r01:baku03") [▶▶ルート選択まで飛ばす](34 "r05:baku03") 2 **『日本の地理と文化を知ることは、 総じて調査や交流、更には戦闘にも役立つじゃろう』** 遠方のペンタウァに身を置くエティスと、日本に潜伏する君とを結ぶ唯一の連絡手段<王杖の貝殻>を介したエティスの助言もあり、君はこの日本に来航して以降、日本各地を旅していた。 しかし、この時代の日本では、異国人がそこら辺を出歩こうものなら、悪目立ちするどころか切り捨てられてもおかしくはない物騒な世の中である。 そのはずなのに、異国民の君が切り捨てられることなく日本を旅して回れているのは何故なのか? 答えは『変化』である。 魔法という神秘の力が存在するペンタウァであれば――そう${易々|やすやす}と使えるものではないが――姿形を変える魔法や魔法の道具も存在する。 そんな神秘の国の出身である君の今の姿はというと、俗に言う世を忍ぶ仮の姿というやつだ。 つまりは、君は今、魔法の道具で日本人の青年に変身しているため、日本で比較的安全に旅ができている、という訳なのだ。 [そんな『君』の名は?](3) [▶▶『田浦勇之助』の設定紹介を飛ばす](5 "r01:baku03") 3 君の名は、山奥の田舎にある剣術道場の三男坊**『${田浦勇之助|たうら ゆうのすけ}』**といった。 母は早世し、浪人で道場主だった亡き父の跡を継いだ長男と、彼を補佐する次男の背を見て育った君は、鍬で畑を耕すよりも、木刀を振るった方が性に合っていた。 その剣術の名は**『${七清流|しちせいりゅう}』**。 日本の剣術に西洋の剣術を組み入れ、日本刀でも扱えるよう考案された風変わりな剣術だ。 七清流は、現在主流となっている風美で見栄えのする剣術とは違い、体術や籠手による反撃や受け流しなどといった実用的な技も多い。 己が見栄えを第一とする『お作法』などではなく、誰かを救い、どんな時でも生き残るための『手段』。 これこそが七清流剣術、その本質である。 [次へ](4) [▶▶『田浦勇之助』の設定紹介を飛ばす](5 "r01:baku03") 4 幼くして剣術に慣れ親しんできた君は、若い頃から兄達が舌を巻くほどの剣術の才を見せた。 10代も半ばとなる頃には、既に免許皆伝の腕前へと成長し、兄達を凌ぐ実力を身につけていたのである。 しかし、此処は日本。世は幕末。 西洋人や西洋の文化に反感を持つ者や畏怖する者が多い今日の日本で、あえて西洋の流れを汲む七清流を習わんとする者はいなかった。 『このままでは七清流の伝承者が絶えてしまう。 それに、この混沌とした時世であればこそ、 世のため人のために刀を振いたいではないか』 君はそう言って兄達を説得し、僅かな手荷物を提げて旅に出た。 旅の途中で食糧が僅かとなり、ひもじい思いをしたこともある。 雨風に晒され、凍えるような夜を過ごしたことも一度や二度の話ではない。 だが、君の強固な意志の前では、そのような障害など膝を屈するほどのものではなかった。 君の意志は強く、その肉体は鋼の如し。 そう、君は用心棒や下働きで日銭を稼いで各地を旅し、門弟探しに精を出す血気盛んな日本男児なのだから。 [次へ](5) 5 ……という設定で君は旅をしている。 やたらと細かい人物設定と背景設定だが、これも此度の"魔"将軍絡みの騒動を受けて日本で活動する、かつてペンタウァから日本へ渡り土着したソーサリアンの末裔『倭の一族』が一人**『${政四郎|せいしろう}』**と、一族の次期棟梁**『${土方歳三|ひじかた としぞう}』**の全面協力により考案されたものだ。 そもそも、何故そんな設定が必要なのか? それは先にも述べた通り、今の時代が大いに関係していた。 幕末というこの時代は、異国人が問答無用で切り捨てられてもおかしくはない、そんな理不尽な時代なのである。 いくら君が魔法の道具で日本人に変身できるにしても、それだけでは現地人としての土台が心許ない。 その点、日本人としての『設定』、いわゆるバックボーンがあれば、だ。 何か不測の事態が起きて現地人に怪しまれたとしても、切り抜けられることも多いだろう。 ……ということのようだ。 こんなにも真に迫った設定を考えてもらって、いやはや、政四郎さんにも土方さんにも頭が上がりませんな~。 [そんなこんなで目的地へ](6) [▶▶ルート選択まで飛ばす](34 "r05:baku03") 6 元治元年(1864年)の6月5日。 日本特有の蒸し暑さを感じる日だった。 ペンタウァの町は海と隣接しているため、どの時期でも湿度が高くなり易いものだが、夏場でも海から吹く風があるため、日本の『この場所』よりも暑さは大分マシだと思える。 何故なら、君の目的地である『この場所』は、周囲を山に囲まれて吹き込む風がなく、高温多湿であるからだ。 今まで様々な地を冒険してきた君ではあるが、日本特有の湿度をともなった暑さに慣れるには、まだ時間がかかるかもしれない。 さて、場面は元に戻る。 君は商人や町人などが行き交う三条大橋の上で立ち止まり、頭に被った編み笠をくいと軽く上げる。 これが噂に聞く京の町か、と。君は内心で感嘆の息を吐いた。 江戸から京へ。 君は、とうとう目的地である**『京』**に到着したのである。 [次へ](7) 7 ソーサリアンは、冒険が大好きである。 今回も見知らぬ道を辿り、見知らぬ大きな町へとやって来た。 長旅を経て、ようやく目的地に到着した瞬間に感じる疲労感と安堵感、それから好奇心が湧き上がる感覚は、何度経験しても良いものである。 君はそんな興奮で顔が上気しているであろうことは感じつつも、三条大橋の上から京の町並みを見た。 まず建物の様式がペンタウァと異なることから、同じ街でも大分違った印象を受けるのだが、多くの人々が行き交う活気に満ちた様子は、ペンタウァの城下町に勝るとも劣らない。 これは江戸でも感じたことだが、此処はこれだけ人が行き交っているのに、多種多様な種族が集うペンタウァに比べ、ヒューマンしかいないところも新鮮に感じられた。 みんな、お耳がまん丸い! こうして人々の様子を見る限り、この町が"魔"の脅威に脅かされているようには感じられない。 だが、陽が射すところには影ができる。 つまり、"魔"は平穏の影に隠れて何処にでも潜めるもの。油断してはならない。 君は気を引き締め、町の入り口へと視線を戻す。 さて、行きますか。 [君は、京の町へと足を踏み入れた](8) 8 京の町に足を踏み入れ、町並みや道ゆく人を注意深く観察しながら歩いていた君は、早くも違和感に気付いていた。 一見して賑やかで活気のある町という印象を受けた京の町。 だが、注意深く周囲を観察してみれば、この町に住む人々の表情には、何処か翳りのようなものが見え隠れしている。 いや、目に見えるものだけではない。 何かに対して怯えているような、何処か張り詰めてピリピリとした空気も肌で感じるのである。 これは少し情報収集をしてみる必要があるだろう。 [茶店の主人に話を聞く](9) [うどん屋に入ってみる](13) [猫に話し掛けてみる](12) [▶▶情報収集を飛ばす(実績02未取得)](18 "r03:baku03&!r02:baku03") [▶▶情報収集を飛ばす](19 "r02:baku03&r03:baku03") [▶▶ルート選択まで飛ばす](34 "r05:baku03") 9 情報収集と言えば、茶店で団子と相場が決まっている。らしい(政四郎談)。 ペンタウァでいうところの酒場で情報収集を行うのと同じことだろう。多分(予想)。 君は早速茶店の外に設置された長椅子に座り、団子と茶を注文した。 少しの時間を置いて、茶店の主人が団子と茶を出してくれた。 1本の串に並ぶピンク色と緑色と白色の三色団子。それと新緑色の緑茶が目に楽しい。 君はもちもちの団子を食み、香り高く仄かに甘い緑茶を啜る。 うむ、これぞJAPAN。これぞWABI-SABIである。 [次へ](10) 10 ひとしきりJAPANの甘味を堪能した君は、茶店の主人に声を掛けた。 さて、ここからが本番だ。 人の良さそうな笑みを浮かべる壮年の主人は、嫌な顔もせず話に応じてくれた。 君の他に客や従業員がいないのも功を奏したと言ってもいいだろう。 君は主人に自分が旅人であることを話した後、ここ最近の京について尋ねてみた。 すると、主人は顔を顰めて周囲を窺った後、君に近付いて声を顰める。 「旦那はん、旅の人やさかい言うてまうけど…… そやなぁ、今の京はなんかと物騒なんどす。 人斬りなんかはようあって、 うちみたいなモンは、 夜中に外なんかおっとろしくて出歩けまへん。 ほんでも、尊攘派の過激なお人らが 町から追い払われてからは、 治安もちびっとようなったけど……」 それならもう少し「良くなった」という顔をすると思うのだが、主人の顔は晴れない。 [どうやら話には続きがあるようだ](11) [▶▶情報収集を飛ばす(実績02未取得)](18 "r03:baku03&!r02:baku03") [▶▶情報収集を飛ばす](19 "r02:baku03&r03:baku03") 11 「きょうびまた町中ん雰囲気が えらい重うなってきたんで……。 ちゅうんも、町中で仏はんがぎょーさん見つかるようなって、 それがまたえげつないモンなんですわ……」 えげつないモン? すかさず君が聞き返すと、茶店の主人は青い顔のまま手を自分の首に当ててすっと横に引いた。 「わては噂で聞いただけさかい、 ほんまモンの仏さんは見てへん。 そやけど、体が獣に喰われてしもたように 滅茶苦茶らしいですわ……。 現場を通った時は、地面に黒い滲みが広がってて、 そらぁもう不気味で……ああ、くわばらくわばら……」 辻斬りの次は人喰いの獣とは、町民も災難なことだ。 君は、身を案じてくれた主人に礼を言うと、甘味代に色をつけて支払いを済ませ、茶店を発つのだった。 [情報収集を続ける](8) [▶▶情報収集を飛ばす(実績02未取得)](18 "r03:baku03&!r02:baku03") [▶▶情報収集を飛ばす](19 "r02:baku03&r03:baku03") 12 JAPANの猫はまんまるい……。 君は日向で微睡む三毛猫を眺めている内に、話しかけたくてウズウズとし始めた自分に気がついた。 あまりにも気持ち良さそうにしているものだから話しかけるのも悪いかと思ったのだが……などと君が葛藤していると、三毛猫は耳をぴくりと動かし、片目を開けてチラリと君を見る。 猫は元来警戒心の強い生き物だと言われている。 深く寝ているようで、実際のところは周りに意識の糸を張り巡らせているのだろう。 三毛猫が金色の瞳でじっと君を見ている。 まるで品定めでもしているような鋭い視線だ。 **ごくり。** 君は妙な緊張感に唾を呑み込み、三毛猫に話しかけようとする……のだが、その矢先に三毛猫は目を閉じて二度寝を決め込んでしまった。 どうやら君への興味を失したようだ。 このまましつこくしていると、機嫌を悪くした三毛猫に引っ掻かれるかもしれない。 後ろ髪を引かれる思いではあったが、君は身の安全を優先し、そのままうどん屋に入るのだった。 [次へ](14) [▶▶情報収集を飛ばす(実績02未取得)](18 "r03:baku03&!r02:baku03") [▶▶情報収集を飛ばす](19 "r02:baku03&r03:baku03") 13 君の鼻孔に食欲をそそる匂いが入り込む。これは……? 周囲を見渡すと、この胃を心地よく刺激する醤油と出汁が合わさった匂いは、うどん屋から流れてきたようだと分かった。 **ぐぅ~。** 腹部から響く間が抜けた音に、君は思わず腹を擦った。 そういえば、お腹が空いた気がする。情報収集がてら腹を満たすとしよう。 店の入り口近くで日向に微睡む三毛猫を眺めて温かな気持ちになりながら、君はうどん屋に入ってゆくのだった。 [次へ](14) 14 店内の畳の上に座り、うどんを注文して少々の時間が過ぎた。 君は女中から四角い盆(トレー)に乗ったどんぶりを受け取ると、ゆっくりと目の前に置いた。 熱々のうどんから立ち上る湯気と食欲をそそる香りは良いものだ。 この透明感のある薄らと小麦色をしたつゆも美しい。 旅するグルメ勇者(?)として、人として、食べたいと思った物を食べられる瞬間こそ幸せなのである。 JAPANに来てからというもの、初めは苦戦していた麺を啜るという行為も今では慣れたものだ。 君は、江戸のうどんよりも柔らかめのうどんを啜りつつ、耳を澄ませて店内の会話を拾おうと意識を集中させた。 [後ろに座っている男2人の会話を聴く](15) [斜め前の長椅子に腰掛ける酔っ払い男の独り言を聴く](16) [仕切りの前にいる女中と浪人の話を聴く](17) [情報収集完了!](18 "!f01&f02&f03&f04&f05|f01&!f02&f03&f04&f05") [全情報収集完了!](19 "f01&f02&f03&f04&f05") [▶▶情報収集を飛ばす(実績02未取得)](18 "r03:baku03&!r02:baku03") [▶▶情報収集を飛ばす](19 "r02:baku03&r03:baku03") 15 君は、後ろに座っている男2人の会話に耳をそばだててみた。 その大半は他愛のない愚痴や世間話だったが、中には気になる内容もあった。 「なあ、昨夜も出たらしいなぁ」 「ああ、人を喰う獣ってやつやろ? これでもう仏さんも何人やっちゅう話やな」 ――そう。京の町人を襲う**『人喰い獣』**による被害についてだ。 食事中には相応しくない物騒な内容だが、人は内に秘めた恐怖を誰かに話して楽になりたいという心理が働くものらしい。 男達の話によると、昨夜も人が殺されたらしい。 その殺され方も凄惨なもので、遺体はまるで大きな獣に食い千切られたように滅茶苦茶で、いつも一度に何人が犠牲になっているのか正確には分かっていないそうだ。 だが、何故『人喰い獣』のせいだと断定しているかと言うと、どうやら現場はいつも血臭に混じって酷い獣の臭いがするらしい。 もっと有益な情報を……と思ったのだが、男のどちらかが気分を変えようと話題をガラリと変えたので、この2人からの情報収集はここまでにしておくことにした。 さすがに夜遊びがどうしたこうしたなどという話は関係ないし。まー、お盛んなこって。 [情報収集を続ける](14) [情報収集完了!](18 "!f01&f02&f03&f04&f05|f01&!f02&f03&f04&f05") [全情報収集完了!](19 "f01&f02&f03&f04&f05") [▶▶情報収集を飛ばす(実績02未取得)](18 "r03:baku03&!r02:baku03") [▶▶情報収集を飛ばす](19 "r02:baku03&r03:baku03") 16 何やら斜め前の長椅子に座る男がブツブツ独り言を言っている。 ちらりと流し見ると、くたびれた浪人といった風体の中年男だが、頬や鼻の先が赤い。酔っているのだろう。 酔っ払いは支離滅裂なことを言う時もあるが、この男の独り言の一部に気になる内容があった。 君は、この独り言に注意を向けてみることにした。 「${壬生狼|みぶろ}め…… 懲りんと夜に出歩くんがいけんのじゃ……。 へへっ、ええ気味じゃあ……」 どうも男の言葉には、あまり聞き慣れない独特な訛りがある上に、酔いで滑舌も悪くて話が聴き取り辛い。 だが、言葉の端々に引っ掛かりを感じる。 『壬生狼』というのは、新選組の異名だということは、この旅の中で知ったことだ。 京の壬生村に屯所を置き、志を同じくする浪士の集団。 当時は『${壬生浪士組|みぶろうしぐみ}』といったらしい。 だが、非常に貧しい暮らしぶりだったようで、それを京の人々が『壬生狼』と呼び始めたのが由来だとか。 つまり壬生狼とは、新選組の蔑称なのである。 明らかに新選組への侮蔑や敵意を込めた独り言を更に注意深く聴いてみる。 すると、夜の巡察に出ていた新選組の隊士が何人も人喰い獣の餌食になっていることが分かった。 そのことについて、何故か男は機嫌が良さそうだった。 しかし、人喰い獣の犠牲者には、何かで斬られたような傷もあるとかで、新選組がこの男が言うところの『わしら』の仕業と疑っているらしい。 そのことについて、男は「ええ迷惑じゃ……」と憎々し気に吐き捨てていた。 男はそのまま眠ってしまった。 まあ、関わると面倒なことになりそうなので、情報収集の切り上げ時期には丁度良かったというべきか……。 [情報収集を続ける](14) [情報収集完了!](18 "!f01&f02&f03&f04&f05|f01&!f02&f03&f04&f05") [全情報収集完了!](19 "f01&f02&f03&f04&f05") [▶▶情報収集を飛ばす(実績02未取得)](18 "r03:baku03&!r02:baku03") [▶▶情報収集を飛ばす](19 "r02:baku03&r03:baku03") 17 君が座っている場所は、土間側にふすまのない座敷で、横長で背が低めの木の${衝立|ついたて}で仕切られている。 その衝立から前の場所では、浪人風の男と女中が随分と親しげに喋っている。 世間話をするくらいには、顔馴染みなのだろう。 「あんたが無事でほんまよかったわ!」 「嬉しいこと言ってくれるねぇ! 俺もお前が無事で安心したぜ!」 なんだ、イチャイチャしてるだけかよ。 ……と思ったが、それは早計だった。この後の話に君は意識を引っ張られた。 男女は互いの無事を喜んでいた訳だが、その理由というのが、人喰い獣の標的や現場に関係していたからだ。 人喰い獣は、どうやら特定の人物を狙っている訳ではなく、裕福も貧困も、老いも若いも、男も女も、それこそ人間も動物も関係なく殺しているというのだ。 それに、殺害の現場も外ばかりではなく、時には家の中という場合もあるらしい。 確かにそれならば、この男女が互いの身を案じ、無事を喜ぶのも納得できるというものだ。 「ああ~ん、あんたのこと好きやさかい、 おうどんにお揚げもつけてまうわ!」 「おう! いつもすまねぇな!」 なにー!? ジューシーなお揚げさんのオマケとは羨ましい!! とは思いつつも、有用な情報も得られたので、ここはイチャイチャに水を差すような無粋な真似はしないことにする。 ……てやんでい! ソーサリアンに二言はねぇ! [情報収集を続ける](14) [情報収集完了!](18 "!f01|!f02&f03&f04&f05") [全情報収集完了!](19 "f01&f02&f03&f04&f05") [▶▶情報収集を飛ばす(実績02未取得)](18 "r03:baku03&!r02:baku03") [▶▶情報収集を飛ばす](19 "r02:baku03&r03:baku03") 18 さて、店内で収集した会話の内容をまとめよう。 盗み聞き? いやいや、これも大事な情報収集の手段ですよ。 + 昨夜も人が食い殺された + 遺体の損傷が酷く、ほぼ原型を留めていないため、正確には何人殺されたのかも分かっていない + 遺体は食いちぎられている以外にも、何かで斬られたかのような痕跡もある + 現場はいつも酷い獣臭が残されている + 見回っている新選組も犠牲になっている + 殺された者の身分や性別、年齢になんら共通点はない(動物も殺されていた) + 家の中にいた者まで殺されている時もあった ……ざっと並べてみただけでも酷い有様だ。 獣の仕業にしては、遺体の切り口や時々家に侵入しているなどのやり口に多少の知性や法則性のようなものも感じる。 だが、逆に人間の仕業にして見ると、やり口が乱暴過ぎるというか、意図がまったく読めない不気味さがあるのだ。 これらは到底、普通のことではない。異常だ。 "魔"の仕業である可能性も視野に入れた方がいいだろう。 何にせよ、暫くこの京の町に滞在する以上は、気をつけなければなるまい。 真剣な顔をした君は、やや温くなったうどんつゆを飲み干した。 うむ。京うどん、大変美味であった。 [そして日が落ちて……](20) 19 さて、店内で収集した会話の内容をまとめよう。 盗み聞き? いやいや、これも大事な情報収集の手段ですよ。 + 昨夜も人が食い殺された + 遺体の損傷が酷く、ほぼ原型を留めていないため、正確には何人殺されたのかも分かっていない + 遺体は食いちぎられている以外にも、何かで斬られたかのような痕跡もある + 現場はいつも酷い獣臭が残されている + 見回っている新選組も犠牲になっている + 殺された者の身分や性別、年齢になんら共通点はない(動物も殺されていた) + 家の中にいた者まで殺されている時もあった ……ざっと並べてみただけでも酷い有様だ。 獣の仕業にしては、遺体の切り口や時々家に侵入しているなどのやり口に多少の知性や法則性のようなものも感じる。 だが、逆に人間の仕業にして見ると、やり口が乱暴過ぎるというか、意図がまったく読めない不気味さがあるのだ。 これらは到底、普通のことではない。異常だ。 "魔"の仕業である可能性も視野に入れた方がいいだろう。 何にせよ、暫くこの京の町に滞在する以上は、気をつけなければなるまい。 あと、おだんごおいしかったし、にゃんこかわいかったなぁ……。 オダンゴ……ネコチャン……。 『気をつけなければなるまい(真剣な顔)』とは一体なんだったのか? デレ~としたしまりのない顔をした君は、やや温くなったうどんつゆを飲み干した。 えへへ……京うどんもおいしかったねぇ……。 [そして日が落ちて……](20) 20 星が瞬く濃紺の空の下、優雅な祭囃子が聴こえてくる。 京の町中には露店が多く立ち並び、あちらこちらに取り付けられた祭り提灯が、道行く人々の穏やかな姿を照らし出していた。 店主も客も通行人も、この時ばかりは誰もが物騒な事件を忘れ、祭りを心から楽しんでいるように見えた。 今宵は、『${祇園祭|ぎおんまつり}』という大きな祭りが催される日だそうだ。 町の人の話によると、祇園祭とは、この日本で疫病の原因が死者の祟りだと信じられていた大昔に、${牛頭天王|ごずてんのう}という神を祀り、疫病退散を祈った祭り『${御霊会|ごりょうえ}』が起源とされているらしい。 つまり、この祭りは京の人々にとって、古より続く大切な祭りという訳だ。 露店を見て回ったり、路地で行われている余興を楽しむ人々の歩みはゆったりしている。 だが、それとは逆に、夜空に浮かぶ雲の動きは、速い。 今宵の京は、それほどまでに強い風が吹いていた。 [さて、祭りで賑わう風の強い日に、日本人に扮した君はと言うと……?](21) [▶▶池田屋事件を飛ばす](33 "r05:baku03") [▶▶ルート選択まで飛ばす](34 "r05:baku03") 21 ${effect fadeInDown} おーろろろろろろーん。${/effect}
建物の影にしゃがみ込み、口から盛大にあれやらこれやら戻していた。 これはひどい。ペンタウァの勇者も形無しである。 そもそも君がどうしてこんなことになっているのか。 あれは、君が京の町に着いたことを<王杖の貝殻>を使ってペンタウァのエティスに報告した時のことだ。 『そなたも長旅で疲れたじゃろう。 今宵、京では大きな祭が催されるようではないか。 ならば、祭を楽しみ、酒でも飲んで 英気を養うがよろしかろう』 この時、エティスが妙に気前よく酒を勧めてくれたと思ってはいたのだ。 だが、まさかその後にエティスの方から連絡があり、**『とある人物』**を連れ出せなんて言われるとは……。 始めから言ってくれれば加減して酒を飲んだと言うのに、エティス曰く『相手は洞察力に優れているようでな、酔いが演技だと見破られて警戒されては、元も子もないからのぅ』だそうで。 なかなかに酷い話だ。もし寝ちゃってたらどうするつもりだったんだろう。 ……いや、あの優秀な大魔道士のことだ。 これも七惑星神の導きとか、そういう運命の何かを垣間見ての最適解だったのかもしれない。 君はそう納得しつつ、青い顔をしてしゃがみ込みながらも、任務を遂行すべく辺りに視線を巡らせた。 [うっぷ、吐き気が……](22) [▶▶池田屋事件を飛ばす](33 "r05:baku03") 22 祭の賑やかな雰囲気を遮る建物の影に隠れるようにしてしゃがんでいた君は、その建物の入り口から一人の男が出てきたのを認め、酔いで虚ろな目を光らせた。 建物から出てきた男は、散歩でもしようと思ったのか、それとも別の目的があるのか、君のいる場所に背を向けて歩き出そうとしていた。 ……が、そうはいかない。 もし、そこの旦那さん……。 君がすかさず男の背に声を掛けると、男は驚いた様子で素早くこちらを振り向いた。 ![とある男](baku03-02.png) 「僕に声を掛けたのは君か……?」 警戒心を露わにして問いかけてくる男に、君はしゃがんだままそうですそうですと首を縦に振って答えた。 が、振った勢いで吐き気が込み上げ、慌てて口元を押さえる。 君に呼び止められた男は、君の奇妙な素振りに怪訝な顔をした。 「ふむ…… その様子だと具合が悪そうに見えるが、 大丈夫かね……?」 警戒は解かぬまま、男は君の身を案じる言葉を掛けてきた。 君は空いた手を左右にシャッシャと素早く振り、全然大丈夫ではないことをアピールする。 その直後、我慢も限界とばかりに建物の影に駆け出しておーろろろろろろろーんである。 [げほげほっ](23) [▶▶池田屋事件を飛ばす](33 "r05:baku03") 23 げほげほと咳き込む君の背をさする大きな手の感触。 君が驚いて振り向くと、そこには少し屈んで君の背をさする先ほどの男の姿があった。 その顔には、小さな苦笑を浮かべている。 「なるほど、酒にやられた訳か。 それは辛いだろうな、僕も『よくやる』から解るのだ」 よくやるんかい。 内心そんなツッコミをしながらも、君は男の言葉に頷いて、こうなった経緯(と言っても教えて差し支えない一部分)を話し始めた。 簡潔にまとめるなら、「門弟を探しに京の町に来たら、祇園祭をやっていた。長旅をしていた自分を労おうと酒を飲んだところ、祭りが楽しくて飲み過ぎた」といったところだろうか。 君の説明を聴き終えた男は、愉快そうに笑っていた。 「そうか、それは羽目を外し過ぎたな。 だが、活気盛んな若者なれば、 君くらい思い切りの良い方が健全でよろしい」 ぽんっ、と肩を軽く叩かれた。どうやら好感触であったようだ。 [次へ](24) [▶▶池田屋事件を飛ばす](33 "r05:baku03") 24 「さて、僕を引き止めたのは、 なんの用向きがあってのことかな?」 そう尋ねる男に、君は近くの旅籠屋(宿)に行くのを手伝って欲しいと懇願する。 君の頼み事に男は少し困ったような顔をした。 その視線が一瞬だけ脇にある建物に注がれたのを君は見逃さなかった。 さて、押してダメなら引いてみろ、だ。 君は青白い顔をしながらも、ご無理を言って申し訳ないと謝りながら立ち上がり、私一人でも平気で${御座候|ござそうろう}と言って歩き出す。 ……のだが、その歩みはそれこそ千鳥足というやつだ。 よたよたよろよろ。非常に危なっかしい。 「ああ、無理をしちゃいかん! ほら、肩を貸そう」 慌てて駆け寄ってきた男は、ふらつく君の腕を持つと、自分の肩に掛けて君の体を支える。 「このまま君を放っておけば、 朝方にはどうなっているか分からんし、 僕とてどうにも落ち着かん。 これも何かの縁だ、少し早足になるが旅籠屋まで送ろう。 さ、場所を教えてくれるか?」 君は青白い顔のまま、花火のように表情を輝かせて男に感謝の言葉を述べると、旅籠屋の名前を伝えた。 すると男は場所を知っているようで、「任せなさい」と言って君と共に歩き出した。 [よろよろ、よたよた、うぃーっく](25) [▶▶池田屋事件を飛ばす](33 "r05:baku03") 25 君の足取りは非常におぼつかなかったが、君を支えて先導するように歩くこの男。 この時代の日本人としては長身だ(※174cm)。 体は一本の芯が通っているようにがっしりと安定しており、酔っ払いを支えていてもなお力強い歩きを見せている。 男は人の良さそうな顔をしているし、実際にこうして見知らぬ酔っ払いにも親切にしてくれている。 だが、君の体を支えているとはいえ、肩に担いだ腕を持つ手は存外、力が強い。 ――そもそも。 隙が全く『ない』のである。 おそらくだが、只者ではあるまい。 数々の死線を潜り抜けてきた君の直感がそう告げていた。 ……が、その直感もひどい酔いと吐き気によって無惨にも塗り潰されてしまうのだった。 [うっぷ……](26) [▶▶池田屋事件を飛ばす](33 "r05:baku03") 26 君の酔っ払いウォークによる速度低下を加味しても、旅籠屋には数分ほどで着いた。 主に旅の者が利用する簡素な建物で、君は旅籠屋の主人に迎えられ、玄関にくたりと座り込んだ。 君を此処まで連れてきてくれた男は、君を無事に旅籠屋まで送り届け、安堵した様子で微笑を浮かべた。 だが、その心は既に外へと向けられているのか、表情がすっと真剣味を帯びる。 「此処まで来れば、もう心配はいらんな。 主人、すまぬが彼の面倒を頼む」 旅籠屋の主人が「へえ」と頷くと、男は既に入口の方を向いていた。 男は、振り返らぬまま君に言う。 「『今宵は』部屋で大人しくしていた方が良い。 近頃の京は、何かと物騒だからな。 ……だが、何かあれば速やかに逃げることだ。 では、僕はこれにて。御免」 名前も告げずに――否、追求を逃れるためにあえて、かもしれないが――男は足早に立ち去ってしまった。 エティスには、あの男を拘束するまでは必要ないと言われていたが……? [男を追いかける](27) [男を追いかけない](30) 27 せっかく旅籠屋まで送ってもらって何だが、男の態度が少々気にかかる。 きっと、このまま目を閉じれば、意識は易々と眠りの闇へと落ちるだろうに、それでも君は男の態度が気になってしまったのだ。 自分に喝を入れるように、君は勢い良く目を見開き、何の躊躇いもなくガツッと唇の端を噛んだ。 稲妻の如き鋭い痛みに思わず片目を瞑ってしまう。 肉に歯が突き立てられ、ブツリと薄皮が爆ぜてすぐに血が滲み出した。 血が滲む唇の端が熱を持ったのを自覚し、歯に付着した僅かな血の味に顔をしかめる。 その痛みと味が、君の意識を多少だが現実へと引き戻してくれた。 君は、ややよろめきながらも立ち上がった。 そんな君の不可解な行動に、旅籠屋の主人は怪訝な顔をする。 だが、主人が君に声をかけるよりも早く、君は男を追って外へと駆け出した。 [次へ](28) 28 既に男の後ろ姿すら見えなくなってはいたが、目的地はおそらく、あのおろろろーんしていた隣の建物だ。 酒気が多分に含まれた呼吸を繰り返し、思うように速度の上がらない疾走。 君は、吐き気と酔いとでもつれる足に苛立ちを覚えつつも、目的地に向かってひた走った。 ……何だろうか? 目的地に近づくにつれ、祭囃子の代わりに幾つもの悲鳴が聞こえ、血相を変えた町人が逃げるようにして走り去ってゆくのだ。 明らかに只事ではない。 逃げ惑う者に何があったのか訊ねようとするも、誰もが皆、他人になど構っていられないとでも言うように、人波となって止まる様子を見せない。 これでは埒があかない。 やはり自分の目で確かめてみるべきだろう。 [次へ](29) 29 君が人の波に逆らいながら進むと、ようやく目的地に到着したのだが、そこには祭りにはまったく似つかわしくない異様な光景が広がっていた。 思わず、うっ、と息が詰まる。 目の前で人が逃げ惑い、斬り、斬られ、倒れた方は血塗れで地に伏したままピクリとも動かない。 そんな、人の生き死にが、憤怒が、焦燥が渦巻く戦場が其処にあった。 その時だ。横合いからこちらに向かってくる荒々しい足音が聞こえた。そして――
突然の殺気と視界の端に見えた、煌めき。
だが、君は酔いのせいか体が重く、すぐに反応ができない。 君が横を振り向いた時には、既に何もかもが遅かった。 灼熱の痛みが額から胴を斜めに駆け抜け、視界が真っ赤に染め上げられた。 地に倒れゆく君が最後に見たのは、刀を袈裟がけした体勢で立ち、浅葱色の羽織をはためかせる男の姿であった。 これは……人違いで、斬られたのか……? ああ……余計なことを……するんじゃ、なかった……。 祇園祭の最中に起こった惨劇。 これこそが後の世で『池田屋事件』と呼ばれる、新選組が池田屋という旅館に集った尊王攘夷派の志士を捕殺(捕縛したり殺したり)したと名高い歴史的大事件であったのだ。
%purple% **未完「忠告無視するべからず」**%/% 30 拘束する必要がないのであれば、わざわざ追うこともあるまい。 それに、今は酔いによる眠気が酷くてそれどころではない。 己の欲求に素直であるべきだ。 ――しかし、これからあの男の身に……いや、この京の町に、一体何が起こるというのだろうか……? そんな不安を感じつつも、酒気による抗えない眠気に誘われ、君の意識は重くなった瞼と共に自然と閉じられてゆくのだった。 [夜が明けて……](31) [▶▶池田屋事件を飛ばす](33 "r05:baku03") 31 ![和室(昼間)](baku03-03.png) 今朝方、二日酔いで痛む頭を抱える君に、まるで冷水をぶっかけられたかのような衝撃が走った。 昨夜に君がおろろーんしていた横の建物――『池田屋』に新選組が御用改め(家宅捜索)として突入し、集っていた長州藩や土佐藩等の尊王攘夷派志士を補殺(捕縛したり殺したり)したのだという。 事態が動いた、となればすぐにでも情報収集といきたいところではある。 だが、此処は君の『ソーサリアン』という立場が通用しない、まったくの異国の地であることを忘れてはならない。 仕方がない。これは不用意に動かない方が良さそうだ。 君は早る気持ちを抑えつつ、この日は様子を見ることに決めた。 ……二日酔いも酷いし。 [また夜が明けて……](32) [▶▶池田屋事件を飛ばす](33 "r05:baku03") 32 そして、次の日のこと。 京の町民の間に更なる恐怖と衝撃がもたらされた。 後に**『池田屋事件』**と語り継がれ、当時の新選組が大いに評価される切っ掛けともなった大事件の詳細が、ようやく町民にも公にされたのである。 事件の真相はこうだ。 この頃、京の町に潜伏していた尊王攘夷派の志士達は、大いなる計画を企てていた。 それは、『風の強い日を見計らい、御所に火を放って${中川宮朝彦親王|なかがわのみやあさひこしんのう}を幽閉した後、長州藩を京の町から追い出すのを主導していた${一橋慶喜|ひとつばし よしのぶ}(${徳川慶喜|とくがわ よしのぶ})や会津藩藩主の${松平容保|まつだいら かたもり}らを暗殺し、孝明天皇を長州へ連れ去ろう』というものだ。 書いて字の如く、まさに強硬策である。 しかし、新選組の${諸士調役兼監察|しょししらべやくけんかんさつ}(情報収集や敵方・新選組内の調査等を行う者)が尊王攘夷派の情報を掴み、新撰組局長の『近藤勇』に報告。 その後すぐに新選組が尊王攘夷派の協力者であった桝屋の主人『${枡屋喜右衛門|ますや きうえもん}(本名:${古高俊太郎|ふるたか しゅんたろう})』を捕縛し、拷問の上にとうとう自白させた。 この時に尊王攘夷派志士の恐るべき計画を知るところとなったのだ。 情報が揃ったところで近藤は、会津藩にこの計画について報告。 同時に会津藩の協力を要請していたが、会津藩の動きが鈍く、新選組は近藤隊と土方隊の二手に分かれて先発した。 そして、池田屋に向かっていた近藤隊が先に池田屋へ突入。 激しい斬り合いが続く中、もう一つの候補地であった旅館(四国屋)から土方隊も駆け付け、尊王攘夷派志士を捕殺した。 こうして、新選組は恐るべき計画実行を未然に防ぐことができたのだった。 ちなみに、この時に新選組の隊士の中にも重傷を負った者や倒れた者もいたようで、町民による目撃情報もあったようだ。 [「――という訳だ」](33) 33 という訳だ、と。 君が泊まる旅籠屋、その一室で、君と向かい合って座る男は、これまでの話をそう締め括った。 男の編み笠と濡羽色をした長い前髪から覗く眼光は、鋭い。 そうなのだ。室内だというのに男は編み笠を被り、襟巻を外さないまま君に話し掛けていたのである。 しかし、君はそれを咎めない。 何故なら彼は、君の協力者の一人である新選組副長『土方歳三』その人なのだから。 土方の話を一通り聞いた君は頷く。今度は君が土方にこれまでの話をする番だ。 黙り込んだ土方が目を細めて頷くと、君も一つ頷いて話し始めた。 風の強い祇園祭の夜、酔っ払いに扮した君がエティスの指示で『とある男』を池田屋から遠ざけた時のことを……。 [実は……](34) 34 君が話し終えた後、土方は君に今後どのように行動するのかを尋ねてきた。 否、お世辞にも『尋ねる』という穏やかな雰囲気ではない。 冷光を放つ刀の如き視線で君を睨み付けながらの問いは、なかば脅迫じみていた。 目深に被った編み笠と前髪の間から覗く双眼は、鋭い。 君は目線を逸らせないまま、緊張でごくりと喉を鳴らした。 そんな張り詰めた空気の中で、君はどのように答えるだろうか? [旅の武芸者として"魔"を探る(武芸者編)](102) [新選組隊士として"魔"を探る(STR12、DEX10未満)](998 "!oSTR12&!oDEX10") [新選組隊士として"魔"を探る(新選組編)](35 "oSTR12&oDEX10") 35 ### 新選組編~浅葱色を纏いし異国の剣客~ 君の名は**『${安藤創三郎|あんどう そうざぶろう}』**。 新選組が隊士を募集していることを知り、上洛した田舎道場の三男坊だ。 京の町に着いて早々、店主を脅すゴロツキを見咎め、正々堂々と打ち負かしたところで外出中の土方歳三に気に入られ、意気投合して新選組に勧誘された。 ……という設定だ。 そう。旅の武芸者版の設定を流用したおニューの設定である。 ちなみに、ゴロツキ退治のくだりは、あまりにも出来すぎた話だと思うかもしれないが、それもそのはず。 町人の悩み事も土方が部下に調べさせて把握しているため、その中でも新選組勧誘におあつらえ向き(条件に合った状況であること)な問題を君に解決させた訳だ。 『正義感のある腕っ節の強い若者』という響きの良さよ……。 実力主義の新選組において、更には、あの鬼の副長が直々に勧誘するからには、こうした第一印象や説得力が大事ということなのだろう。 また、土方の話によると、隊士になるためには、出自や武術の流派といったことも聞かれるらしいのだが、そこは流石と言うべきか、倭の一族次期棟梁様は抜け目がない。 『安藤創三郎』の生まれ育った村については、政四郎ら倭の一族が世を偲ぶ仮の姿で暮らしている村があるため、そこで辻褄を合わせているから心配はいらないのである。 倭の一族の皆様は、とても用意周到で芸達者なのだ。感心しきりである。 [次へ](36) [▶▶新選組編『安藤創三郎』の回想を飛ばす](38) 36 池田屋事件から一週間後。 先日、とある男――**『${桂小五郎|かつら こごろう}』**を無事生存させる任務を完遂した君『安藤創三郎』は、新選組が壬生村の八木邸と前川邸に間借り(と言っても占領に近いが)しているという**『新選組屯所』**へと向かった。 新選組屯所に向かうのは、前日に土方と打ち合わせた通りだった。 だが、その打ち合わせの席で君が長州藩士である桂の命を救ったことを告げた時、土方は当然ながら良い顔はしなかった。 彼は君の協力者でもあるが、新選組副長でもあるからだ。 「やはりお前の仕業だったか。……まあいい。 俺が新選組副長として職務を全うするなら、 その話を聞いた直後にお前を斬り殺してたかもしれねぇ。 ――とまあ、あの『食わせ者の爺さん』のことだ、 それを危惧したんだろうよ。 だが、俺は別にお前が爺さんの指示で奴を逃そうが、 俺の邪魔さえしなけりゃ構やしねぇよ」 土方は、君の報告に苦虫を噛み潰した様相を隠そうともしなかったが、ただそれだけで、君を咎めることはしなかった。 食わせ者の爺さん――つまりエティスの指示に土方は納得はしているものの、立場上、何処か割り切れなさもあったのだろう。 去り際も土方は不機嫌な顔のままで、拗ねてでもいるような素っ気ない態度だったのを覚えている。 土方と君は確かに協力関係にあるが、彼は彼で別の目的があるのか、志が全て一致している訳ではないのだ。 それでも、それはそれ。これはこれ。 仲違いなど時間の無駄でしかないことを互いに心得ている。 [それが大人ってもんさァ](37) [▶▶新選組編『安藤創三郎』の回想を飛ばす](38) 37 ……と、あれこれ思い出している間に、君は新選組屯所の前に着いていた。 見れば門前に土方が腕組みをして立っている。相変わらずの仏頂面だ。 ああ、黒船来航の時にチラリと見えたお辞儀が懐かしい。 今となっては、あれは疲労からくる幻覚であったのでは、と疑ってしまいそうになる。 さて、これから君は、新選組の考試(入隊試験)に挑むのだ。不合格は許されない。絶対にだ。 すぅと息を吸い、はぁと吐き出す。 深呼吸を繰り返し、仕上げに両手で頬を軽く叩いた。 「行くぞ」 土方が身を翻し、屯所の中へと歩き始める。 気合いを入れた君も続いて力強く歩き始めた。 [よし、やるぞ!](38) 38 ![廊下](baku03-04.png) 君が新選組の考試に臨んで次の日。 安堵した表情を浮かべる君は、上機嫌で屯所の廊下を歩いていた。 新選組の考試に見事合格し、内心ホッと胸を撫で下ろしていたのである。 というのも、新選組副長である土方が連れてきた若い奴というだけでも目立っていたのに、それが不合格とあっては、土方の面目は丸潰れになってしまうからだ。 君は土方との考試前の打ち合わせ――と言っても、考試の開催日時を教えてもらっただけで、考試はぶっつけ本番だった――で別れ際に見た彼の殺気立った眼光を思い出し、ぶるると身震いした。 『おい、創三郎……』 (考試に落ちれば、明日のお天道様を拝めねぇと思って死ぬ気でやれ。 死んでも受かれ。) あの時は、そんな御無体なぁと冗談めかして泣き言を言える空気では決してなく、あれは土方の本音であり本気であったことは、実に明白だった。 いやぁ、晴れて合格おめでたい! 首と胴も繋がっているぞ! [嗚呼、生きているって素晴らしい!!](39) [▶▶沖田総司との手合わせ前まで飛ばす](42 "r09:baku03") 39 「ねえ、そこの君」 生命の賛美歌を内心で歌っていた君だったが、不意に声をかけられて、君は思わず立ち止まって振り返る。 そこには、君を呼び止めるために部屋から出てきたと思しき青年が立っていた。 第一印象は、『美形』である。 青年は驚くほどに均整が取れた顔つきをしているが、近寄りがたいといった印象は受けない。 人懐っこそうな笑みを湛える相貌は、一目見ただけで親しみやすくて可愛らしくも見えた。 なんにせよ、これは女子が黙ってはいないだろうと瞬時に連想できてしまう。 それほどの優男だったのだ。 [ほえ~、美形やん……](40) [▶▶沖田総司との手合わせ前まで飛ばす](42 "r09:baku03") 40 ……おっと、少し驚いて反応が遅れてしまった。 君が慌てて自分を指差すと、青年は「そうそう」という風に頷いた。 「そう、君だよ。 君が新入りの安藤創三郎君かい?」 新選組隊士としての君の名前は、確かに安藤創三郎だ。 君は青年の言葉を肯定すると、逆にこちらから青年の名前を尋ねてみた。 するとどうだろう。青年はきょとんとした後、にやりと笑ったのだ。 それは何処か悪戯心を感じる、子供のような無邪気な笑みだった。 「僕? 僕は新選組の一隊士で、君のお仲間さ。 それだけで十分じゃないかなァ」 なんと、すっとぼけられてしまった。 [だが、目の前の青年はそれを突っ込む間すら与えてはくれない](41) [▶▶沖田総司との手合わせ前まで飛ばす](42 "r09:baku03") 41 「まあまあ、それはいいとして。 君ってさ、土方さんが連れてきた人なんでしょう? それに、一風変わった剣術の使い手なんだってね。 この屯所でちょっとした噂になってるよ。 だからさ、僕にも君のお手並みを見せてくれないかな?」 青年に矢継ぎ早に話題を振られ、君は目を白黒させる。腰は若干引け気味だ。 それにしても、やっぱり『安藤創三郎』は話題になっているようだ。 自分で言うのもなんだが、謎の剣術を使う新進気鋭のニューフェイスということなのだろうか。 何だか気恥ずかしいというか、むず痒い感じだ。えへへ……。 だが、と。そこで君は冷静になる。 確か新選組が独自に定めたルール『${局中法度|きょくちゅうはっと}』によると、私闘は禁じられている筈だ。 もしそれを破れば、問答無用でHARAKIRI(切腹)あるいはKUBIKIRI(斬首)である。 おいそれと応じるわけにはいかない。 [局中法度では……](42) 42 「私闘はご法度? はは、そんなの知ってるよ。 でも勘違いしないで欲しいなァ。 僕は君と手合わせしたいだけなんだから」 つまり、あくまでも『稽古』という体でやるらしい。 それなら規則には……触れない、だろうか? やや不安はあったが、先輩であるらしい隊士からお誘いを受けたのだ。 今後の円滑なコミュニティ形成のためにも、ここはお誘いを受けておくべきかもしれないが、さて? [▶▶手合わせ後まで飛ばす(手合わせを断った場合)](58 "r01:baku09") [▶▶手合わせ後まで飛ばす(手合わせした場合)](59 "r02:baku09") [▶▶手合わせ後の七惑星の欠片入手まで飛ばす(手合わせした場合)](55 "r03:baku08&r03:baku09") [いや、やっぱり止めておきましょう](43) [分かりました、よろしくお願いします](45) 43 新選組に無事入隊した初日から問題を起こしたとあっては、入隊の下準備に心を砕いてくれた土方に顔向けできない。 ……というか、自分の首と胴が仲良しでいられるかどうか自信がない。Very 自信がない。 ここでまさかの主役交代もといソーサリアンチェンジとなっては、あんまりにもあんまりだ。 君は迷った末に、青年のお誘いを丁重にお断りすることにした。 頭を下げて謝罪し、申し訳なさそうにしながらもゆっくりと顔を上げる……のだが。 ぞく。ぞくぞくぞく、と。 君の全身が無意識に強張り、背筋に極大の悪寒が駆け抜ける。 君の目の前には、底冷えするほど冷たい目……否、感情の見透かせぬ目をした青年がいたのだ。 先ほどまでの人懐っこい表情は、雰囲気は、一体何処へと消えてしまったのか。 青年の表情は、恐ろしいほどの『無』だった。 [えっ……](44) 44 ……誰だ? この青年は、たった数秒前まで柔和な笑みを浮かべていた青年と同一人物なのか? 否、これは『人』、なの、か? 君は内心で困惑し、この場から動くこともできなければ、声を発することすらもできない。 それほどまでに青年の放つ気配が何処か不気味で、強烈だったのだ。 ……が、青年の方が先に視線を外した。君に背を向けたのだ。 「そっか。ちょっと残念だなァ」 青年は、存外あっさりと引き下がった。 そのまま君の返事も待たず、青年は部屋に戻ってしまったのである。 障子が閉まる強くも弱くもない軽快な音が、しんとした空間に虚しく響いた。 途端に全身が弛緩し、ため息が溢れた。汗もどっと噴き出した。 その場に取り残される形となった君は、拍子抜けしたというか、ただただ呆然とするしかなかった。 体感では長時間のように思えた沈黙だったが、おそらくはほんの数秒くらいだったかもしれない。 時間の流れを誤認するほどに、酷く緊張していたようだ。 だが、こんなにも汗だくになるくらい緊張していたというのに、青年の去り際の背中が何故だか寂し気な子供のように小さく見えた。 彼は君の返答に怒ったと言うよりも、純粋に残念がっていたのかもしれなかった。 あぁ……。 どうやら初日からやらかしてしまったようだ……。 君は閉じられた障子を見やり、力なくため息をついた。 だが、掛ける言葉も思いつかないのだから、いつまでもこうしていても仕方がない。 君はトボトボとした足取りで、『安藤創三郎』としての自分に宛がわれた大部屋へと向かうのだった。 [次の日](58) 45 君は覚悟を決め、青年に手合わせをお願いする。 青年の表情がパッと明るく輝いたのが、微笑ましくなるほどによく分かった。 「ふふっ、ありがとう! それじゃあ、ちょっとこっちに。 見つかったら面倒なんでね」 うっ。やっぱり見つかったら面倒なことになるくらいの手合わせをしなければならないのか……。 君は入隊早々、新選組の激やばルールである局中法度に触れるのではないかという命の危機に目眩を覚える。 だが、乗り気で先導する青年はどこ吹く風だ。 一体いつの間に、それも何処から取り出したのか、既に竹刀をちゃっかり2本持って君を急かしてくるのだ。 こうなってしまったからには仕方がない。 [……腹を括るか](46) 46 人気のない庭の片隅で、君と青年は距離を空けて向き合っていた。まだ竹刀は構えていない。 「じゃあ、始めようか」 青年のお気楽な口調に君は短く返事をすると、竹刀を構える。 刹那。前方から突き刺すような鋭利で剣呑とした気配が放たれ、場の雰囲気が一転した。 そう、一転した。その筈なのに、目の前の青年の笑みは変わりない。竹刀すらまだ構えていない。 ……否、竹刀を持った手を下げているのが、もしかすれば彼の『構え』であるのかもしれない。 兎にも角にも、彼の気配だけは変化した。異様な空間だった。 「遠慮なんて無用だからね。 さ、いつでも斬り込んでどうぞ」 **特別ルール「青年との手合わせ」** 君の攻撃を回避し、いなしてくる青年に 竹刀の一撃を打ち込まなければならない。 このルールが提示されているSceneでは、%red% 魔法やアイテムは使用できない。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、「HP」を1回押す。%/% ②%blue%ダイスを1回振り、ダメージ式ボタンを1回押す。%/% ③%blue%君のHPが20まで減るか、青年のHPが0になるまで 上記①と②の手順を繰り返すこと。%/% ④%blue%君のHPが20まで減る前に青年のHPを0にできれば **「▲自分のHP20まで減る前に青年のHPを0にした」** を選んで次のSceneに進むこと。%/% %blue%君のHPが20まで減る前に青年のHPを0にできなければ **「▼自分のHP20まで減る前に青年のHPを0にできなかった」** を選んで次のSceneに進むこと。%/% [▲自分のHP20まで減る前に青年のHPを0にした](47) [▼自分のHP20まで減る前に青年のHPを0にできなかった](57) 47 全身がじんじんとした鈍い痛みを訴えている。 君が肩で息をし、全身に汗をかいているのに対して、目の前の青年は、的確に君の攻め手を弾いて涼しい顔をしていた。 あらゆる武術に言えることだが、剣術にも攻守に転じる前の予備動作として、『構え』というものが存在している。 その中で、『青眼の構え』とは、両手で持った刀を前方に向けて構えるものだ。 だが、ある流派では、刀をやや斜めに構える独自の構えがある。 多摩武州の天然理心流が構え『平青眼』である。 以前、『七清流』の設定を詰める際に土方が見せてくれた平晴眼を、先ほどからこの青年もやっている。 つまり、君も知っている剣術ということになる……のだが、知っているのと対処できるのとは別の話だ。 と、その時である。 君の全身が無意識に強張り、息が詰まったのは。 直感というものは、時に未来予知になり得る。 君は―― [攻撃する](48) [回避する](50) 48 **先手必勝!** ――と、実際にそう頭で考えた訳ではなく、体が勝手に動いていた。 だが。 平晴眼からの、踏み込み。 ……ッ!? 竹刀を持つ手が押されてずれて、肩が後ろに押され、反対側の肩が押された。 手が痺れて、呼吸が止まって、体が一瞬で左右にぶれて、足がもつれた。 一体何が起こったのか? そう思った時には既に尻餅をつき、止まっていた息を思いっきり吐き出していた。 俯いて荒く呼吸をしている君にふっと影が掛かる。 「大丈夫かい?」 頭上から君を気遣う優しい声が聞こえた。 君は呆然としながらゆらりと顔を上げると、そこには心配そうな表情で君に手を差し伸べている青年の姿があった。 %red%**▼HPに9ダメージ(3ダメージ×3回)を受けた!**%/% [次へ](49) 49 君が青年の手を取り、大丈夫だと答えると、青年はほっとしたのか表情を和らげた。 「それなら良かった、安心したよ。 楽しくてつい力が入っちゃって……へへへ。 でも、そろそろ時間かなァ。 今日のところは、ここまでにしようか」 そういえば、と君はあたりを見回した。 幸いなことに、まだ誰にも見つかってないようだ。 君は君で青年とは違うところで安心し、ほっとした表情で笑った……のだが。 いてててて……。 笑った拍子に、竹刀を打ち込まれた数か所がずきりと痛み、顔をしかめる。 こっちの攻め手は軽くいなされ、更に手痛い反撃まで受けたのだから、体のあちこちが痛むのだ。 「ああ、ごめんね。 この軟膏を塗れば、すぐにでも痛みが取れるよ。 僕は予備も持っているし、これは君が使っておくれよ」 そう言って青年が懐から取り出したのは、手のひらで握り込める大きさの二枚合わせの貝殻――ぷっくりと丸みを帯びた二枚貝で、日本では蛤と言うらしい――で、中には打ち身などに効く塗り薬が入っているようだ。 本当に軟膏を貰ってもいいのかと君が尋ねると、青年は申し訳なさそうに苦笑を浮かべて「うん」と頷いた。 君がありがたく軟膏を受け取った後、青年が去り際に言った。 「今日は久々に体を動かせて楽しかったよ。 ありがとう、創三郎君。またよろしくね」 庭の端にぽつんと一人。空は茜色に染まりかけている。 君は貰った軟膏を早速ぬりぬりと塗りたくると、そのまま庭を後にするのだった。 彼、強かったなぁ……。 %blue%**▲<特別軟膏>の効果&一晩寝てHPが全回復した!**%/% [次の日](59) 50 **避けろ!!!** ――と、実際にそう頭で考えた訳ではなく、体が勝手に斜め後ろへと下がっていた。 その、刹那。 平晴眼からの、踏み込み。 **……ッ!?** 喉が引き攣り、思わず声を上げそうになった。 神速で繰り出される突きは見えず、だがしかし、戦人として直感のみで一の突きを横斜め後ろに身を退くことで避け、二の突きを逆側斜め後ろに退いて避けた。 特に鋭く殺気すら纏っている三の突きは、思考する猶予を与えてはくれない。 咄嗟に竹刀の先を上に向け、そこに左手を添えて斜め上に押し上げるようにして軌道を逸らしながら斜め前へと避けた。 今この手にあるのが重い刀であれば、あの三の突きに反応し、こうして捌くことはできなかったに違いない。 だが、今この手で握っているのは、幸いなことに竹刀である。素材の軽さに助けられた。 そんな瞬きすら許さない常人離れした攻防に、一瞬、青年の目が驚愕に見開かれたのを君は見逃さなかった。 だが、青年も疾い。 攻撃が回避されたと判断するや、竹刀を振って君の竹刀を打って怯ませると同時に駆け抜け、再び竹刀を構える。 やや顎を引いた格好で竹刀を構え、垂れた前髪から覗く双眸が高揚感でギラギラ獰猛に輝く様は、まるで発光でもしているのかと錯覚するほどだ。 青年に竹刀を打たれてよろめきかけた君だったが、すかさず体勢を整えて竹刀を構える。 互いに言葉はなく、ただ肩を上下する速さだけが互いの呼吸の荒さを物語っている。 そして、純粋な闘争本能を剥き出しにして睨み合う君と青年が、ほとんど同時に駆け出す――のだが。 「っ……!?」 突如、青年が眉を強くしかめて俯いた。 彼は俯いたまま呻き、その動きを止めたのだ。 この隙だらけとも言える青年の様子に、君は―― [手を止める](51) [機会を逃さず打ち込む](52) 51 あっ……。 気がついた時には既に君の竹刀は宙を舞い、軽い音を立てて地に転がっていた。 青年が竹刀を跳ね上げてしまったのだ。 あまりにも一瞬の出来事で、言葉どころかまともな声すらも出なかった。 「どうして動きを止めたんで?」 そんな問いかけに、君の意識がふっと現実に引き戻される。 目の前には、既に竹刀の構えを解いた青年がいた。 彼は別に怒ってる風もなく、ただただ不思議だと言わんばかりの顔をして君に尋ねてきたようだった。 君は、青年の苦しげな顔を見て自然に動きが止まってしまったことを告白した。 すると、青年は小さく笑って肩をすくめた。 「ははぁ、そいつァお優しいことで。 ですがね、僕ら新選組は、時に仲間だった人を 斬らなきゃならないこともある。 そういう時には、動きを止めるんじゃなくて斬らなきゃ、 逆にこっちが斬られてしまうよ」 そう青年に諭され――否、忠告されて、君は苦笑して彼の言葉に納得する。 青年の口振りでは、この新選組において、情けや迷いは死に直結する忌避すべきものであるらしかった。 斬らねば、すなわち死。 新選組の苛烈さ、その片鱗をこの目で垣間見たように思えた。 [次へ](56) 52 やらなければ、やられる。 ならば、やる! 青年と手合わせしている内に、君の戦人としての血が騒いだ。闘争心である。 既に法度がどうだとかで手合わせを渋っていた時の君は、鳴りを潜めていた。 竹刀を握り直し、半ば反射的に打ち込んだ……のだが。 なっ……!? 気がついた時には既に君の竹刀は宙を舞い、軽い音を立てて地に転がっていた。 青年が竹刀を跳ね上げてしまったのだ。 あまりにも一瞬の出来事で、言葉どころかまともな声すらも出なかった。 暴走しかけた闘争心が、一瞬で散らされてしまったのだ。 「へえ、これは結構なお手前で。 てっきり手を止めちゃうんじゃないかって思ってたのに、 迷いなく打ち込んでくるとは、大したお人だ」 竹刀を下ろした格好でにっこりと微笑む青年は、君の闘争心に感心したようだった。 君ははっとして慌てて謝るが、そんな君の様子に青年は目をパチクリとさせた後、手をひらひらとさせて微笑した。 「いや、それでこそってやつだよ。 新選組の隊士なら、躊躇なく相手を斬り伏せるくらいが丁度いい。 そうか、創三郎君か。いいね、僕は君のこと気に入ったなァ。 まったく、土方さんも面白いお人を連れてきたっていうのに、 僕だけ仲間外れなんだからずるい」 満足げに笑ってると思えば、口を尖らせて拗ねてみたり。 くるくると変わる豊かな表情は本当に子供のようだが、それがまた似合っているのがこの青年の不思議な魅力でもあった。 [だが……](53) 53 だが、本当に大丈夫なのだろうか? 君はふと思い、気になった。 青年がたった一度だけ見せた『隙』のことだ。 なんだかうやむやにもできなくて、君が先ほどの『隙』について青年に尋ねると、彼はくすくすと屈託のない明るい顔で笑った。 「ああ、さっきのかい? あれは西日に目が眩んだだけさァ。 誰にだってあるでしょう、それくらいはね」 確かに、と君は頷く。 陽の光に目が眩んで怯むのは、古今東西どこででも特段変わったことではない。よくある話だ。 [次へ](54) 54 「そうだ、これあげるよ」 青年が指で弾いた『小さな何か』を君は片手ではしっとキャッチする。 手のひらを開いてみると、そこにはきらりと輝く小さな宝石があった。 ペンタウァでは見慣れた宝石。 間違いない、これは<七惑星の欠片>だ! 「あっ、やっぱり見えるんだ」 青年は、両目を瞬いてぽつりと呟いた。 驚きはあったが、なんとなくそんな気はしていた、とでも言うようなあっけらかんとした口ぶりだ。 「へへ、綺麗な石でしょう? これさ、僕は最近あちらこちらで見るようになったんだけど、 不思議なことに、此処の皆は誰も見えていないみたいなんだよね」 にこにことしながら弾んだ声色で話す青年に、へぇ、そうなんですか、と君が言いかけた直後。 「『君と土方さん以外』は」 含みを効かせた青年の言葉に、君は目を見開いて息を詰まらせる。 [まさか、正体が――](55) 55 君が思わず言葉を失って静止していると、青年はカラカラと笑って、懐からまた宝石を取り出した。 それを手のひらの上でコロコロと転がして遊んでみせる。 「せっかく綺麗な石なのに、 殆どの人が見えないんじゃあ飾りにもならないでしょう? それなら僕には無用の長物だし、これは君にあげるよ。 ほら、これも」 青年は更に追加でいくつも宝石をくれた。これらもまた<七惑星の欠片>だった。 気前良く欠片をくれた青年の口ぶりは、あくまでも持て余していたものを体よく押しけたとも取れるものだった。 だが、君にとって<七惑星の欠片>は必需品であるし、魔法文化のないこの日本では、何か特殊な条件でも揃わない限りペンタウァ以上に入手しづらく、希少価値が高いと言ってもいい。 君が素直に礼を言うと、青年は満足げににっこりとして言った。 「礼なんていらないよ。 言ったでしょう、僕には無用の長物だって。 それに、僕も久し振りに体を動かして 気晴らしになったし、これで貸し借りはなしさァ」 **★<七惑星の欠片>を全種類1個ずつ貰った!** [次へ](56) 56 「おっと、それじゃあ僕は行くよ。 このことは、くれぐれもご内密に。 誰かに言ったら、君も怒られちゃうだろうし。またね」 そう言うと青年は、そそくさと行ってしまった。 青年の名前は、結局教えてもらえず仕舞いだったが、これから暫く君は新選組の一隊士としてこの屯所を拠点に活動するのだ。 彼の名前を知る機会も自ずと訪れることだろう。 おそらく……ではあるが、彼はこの新選組で幹部の一画を担う人物なのではなかろうか。 向かい合った時の鬼気迫る殺気と鋭い太刀筋は、戦闘慣れしていると自負する自分ですら、全身が総毛立つほど恐ろしかった。 断言しよう。あの青年は、只者ではない。 ……だが、と君は内心で呟く。 震え上がるほどの恐ろしさを感じさせる反面、平時には子供のような無邪気さを見せる気さくな青年だった。 青年のことを君はそう振り返りながらも両手には違和感。 ふと両手を見て、君は小さく声を上げた。 君はいつの間にか竹刀をもう1本持たされていたことに気付き、呆気に取られてしまった。 あー! やられた!!! %blue%**▲一晩寝てHPが50回復した!**%/% [次の日](59) 57 「お疲れ様。今日は、ここまでにしようか」 青年はそう言うと、竹刀を構える君に向かってにっこりと微笑みかけた。 君はまだ手合わせを続行するつもりでいたので、終了の呼びかけに拍子抜けしてしまった。 まともに打ち込めていない状況が続いていただけに、不完全燃焼ではあるものの、これも自身の実力ということだ。仕方がない。 君は素直に頷くと、竹刀の構えを解き、青年と互いに礼をした。 その拍子に、竹刀を打ち込まれた数か所がずきりと痛み、顔をしかめる。 こっちの攻め手は軽くいなされてしまったというのに、青年はその隙を縫って的確に反撃してきたものだから、体のあちこちが痛むのだ。 「大丈夫かい? この軟膏を塗れば、すぐにでも痛みが取れるよ。 僕は予備も持っているし、これは君にあげる」 そう言って青年が懐から取り出したのは、手のひらで握り込める大きさの二枚合わせの貝殻――ぷっくりと丸みを帯びた二枚貝で、日本では蛤と言うらしい――で、中には打ち身などに効く塗り薬が入っているようだ。 本当に軟膏を貰ってもいいのかと君が尋ねると、青年は柔らかな微笑を浮かべて「手合わせに付き合ってくれたお礼だよ」と言ってくれた。 君がありがたく軟膏を受け取った後、青年が去り際に言った。 「今日は久々に体を動かせて楽しかったよ。 ありがとう、創三郎君。またよろしくね」 庭の端にぽつんと一人。空は茜色に染まりかけている。 君は貰った軟膏を早速ぬりぬりと塗りたくると、いつの間にか足下に置かれていた竹刀と、自分が借りていた竹刀の二刀流で道場まで返却しに行くのだった。 や、やられた……。 %blue%**▲<軟膏>の効果でHPが全回復した!**%/% [次の日](59) 58 次の日、君は土方歳三に連れられ、新選組局長の部屋に入った。 平隊士として新選組一番隊へ編入されることになった旨を、局長の近藤勇直々に申し渡されたのだ。 そこで君は、昨日出逢った青年が新選組一番隊組長の**『${沖田総司|おきた そうじ}』**だと知り、驚くこととなる。 微笑を浮かべる沖田に、怪訝な顔をして君と沖田を睨み付ける土方。 板挟みとなっている君は、別に悪いことをやった訳ではないのだが、やっぱり土方の一睨みは怖いのである。 [生きた心地がしない……](61) 59 ![和室(昼間)](baku03-03.png) 次の日、君は土方歳三に連れられ、新選組局長の部屋に入った。 平隊士として新選組一番隊へ編入されることになった旨を、局長の近藤勇直々に申し渡されたのだ。 その時のことである。 部屋には、上座に座る局長の近藤勇、その前斜め横に副長の土方歳三、そして土方と向かい合って座るもう一人、副長助勤の一番隊組長という青年がいた。 そこで君は「あっ」と声を溢さずにいられなかった。 何故なら、下座に座る君の横斜め前にいて微笑を浮かべる青年は、入隊初日から君を手合わせに誘った、あの青年だったのだから。 「やあ、その節はどうも。 僕は新選組一番隊組長の${沖田総司|おきた そうじ}。 以後よろしくね、創三郎君」 人の良い笑みを顔に湛えて君に名乗った青年『沖田総司』。 君は突然のことに呆けていたが、慌てて名乗り、平伏した。 ちなみに、通常なら君は『安藤』と呼ばれるところだが、新選組では同じ苗字の隊士がつい先日、池田屋事件の際に負った怪我が原因で死去していた。 そのため、安藤呼びは亡き先輩に譲った形で呼び分けられているのだ。 [次へ](60) 60 親しげに君に自己紹介した沖田を見て、近藤は意外そうな顔をした後、大きな口を笑みの形にする。笑顔の似合う御仁である。 「総司よ、創三郎君の名前を出した時に 何か知っていそうな素振りをしていたが、 なるほど、創三郎君とは既知であった訳か」 「そうですよ、近藤さん。 創三郎君は、なかなか見所があるお人です。 これから一番隊でしっかり働いてもらうことにしますよ」 自慢げに語る沖田に君が上体を起こして照れていると、土方が形の良い眉をひそめ、怪訝な顔をした。 「ほう。人見知りのお前が、 やけに新入りをおだてるじゃねぇか、総司。 ……お前、まさか」 土方の餓狼の如き鋭い視線が沖田と君に向けられる。 沖田は相変わらずの涼やかな微笑を浮かべているが、君の心境はバジリスクに睨まれたガマ蛙さながらだった。 [生きた心地がしない……](61) 61 だが、そんな不穏な空気も長くは持たなかった。 近藤は、3人のやり取りを戯れあい程度に思ったようで、彼が上機嫌な様子でその場を治めたからだ。 「さて、雑談はこれくらいにしておこう。 創三郎君、私は君の七清流皆伝の腕前にも、 君自身の義勇に燃える精神にも期待している。 この新選組で精進して欲しい。頼んだよ」 ははぁー、と。君は深々と平伏した。 この新選組屯所内で、君の平隊士としての生活が本格的に始まったのである。 **◆<浅葱色のダンダラ羽織>が支給された!** [夜が更けて……](62) [▶▶山崎丞の登場後まで飛ばす](66 "r03:baku010") 62 むくり。 君は上体を起こした。 此処は、平隊士が雑魚寝する大部屋だ。 周りを見渡すと、同僚はウシガエルの鳴き声のような重低音の大いびきをかいたり、布団を蹴飛ばし跳ね上げていたりと熟睡している。 つまり、今は真夜中なのだ。 君の隣に敷かれた布団で寝ている隊士は、寝相が悪いと有名らしい。 新人は要領を得ない。先輩方はささっと場所を取り、新人はこういう貧乏くじを引かされる。 こうやって少しずつ私的なルールを覚え、此処での生活に慣れてゆく、という訳だ。 さて、酔拳の如き無意識の踵落としを、君は横に身を引いてひょいと避けると、こっそり布団から抜け出して部屋を出た。 人のいびきと虫の声が入り混じってはいるが、やはり部屋の外は静かなものだ。 君は物音を立てぬよう、抜き足差し足忍び足で廊下を歩き、薄明かりが透ける障子の前で座る。 囁くように部屋の中へと声を掛けると、「入れ」と返事があった。 ![和室(夜間)](baku03-05.png) 部屋に入り、障子を閉める。 それから部屋の中へと向き直ると、そこに座していたのは土方――と、これまた見知らぬ青年であった。 君はギョッとして土方を見るが、当の本人はこれも想定内だったのか、顔色ひとつ変えない。 見知らぬ青年の方は、声も発さずに君を見定めるかのように様子をじっと見ている。 部屋に呼ばれたのは自分だけだと思っていたのだが……。 [これは一体……?](63) 63 君が土方に問いかけようと口を開くより先に、土方が言った。 彼が少し笑っているように見えたのは気のせいか。 「安心しろ。彼は『俺達』の協力者だ。 名は――」 土方が己の脇に座した青年に目配せすると、青年は静かに頷き、君へと向き直った。 新選組の${諸士調役兼監察|しょししらべやくけんかんさつ}**『${山崎烝|やまざき すすむ}』**。 それがこの青年の新選組隊士としての立場であり、名であった。 諸士調役兼監察とは、副長を補佐する役職の一つで、新選組内の風紀を律し、屯所の内外で隊士の言動を厳しく取り締まり、怪しいものあれば徹底して調べ上げ、それを滞りなく副長の土方に報告する役を担っているという。 この山崎烝という人物は、中でも土方が重用していたとされる監察である。 新選組と言うと、刀や槍を手に戦う戦闘集団というイメージが先行するが、中にはこの山崎のように諜報を主とする密偵のような立場の者もいるのだ。 [次へ](64) 64 さて、この山崎烝という青年のことだ。 彼に話をつけた土方が、彼に『こちら側』の事情を説明してくれたようだ。 山崎は土方と違い、ペンタウァ所縁の者ではない。政四郎とも関係のない者だという。 それをこうして『巻き込んだ』のは、君が監察である山崎に疑念の目を向けられることなく新選組、ひいては京の町で活動し易くするためだと語った。 山崎がこの新選組に入隊したのは、文久3年(1863年)。 それから彼は働きぶりを認められ、現在の諸士調役兼監察に任命された。 土方が山崎に事情を話したのは、元治元年(1864年)。 ――そう、君が新選組に入隊する少し前くらいの頃には、山崎は既に君の存在を知っていたことになる。 その時に、土方は山崎にまずは自分のルーツを明かした。 自分の祖先が、元はペンタウァと呼ばれる異国の勇者ソーサリアンであること。 この日本に移り住んで土着したソーサリアンが後に倭の一族と呼ばれ、その一族の次期棟梁が自分であるということ。 "魔"将軍と呼ばれる人ならざるものが『桜田門外の変』以降、日本各地で暗躍し、戦乱を引き起こしていること。 その"魔"将軍絡みで土方自身も独自に探りを入れていること。 そして、ペンタウァの現役ソーサリアンである君が、此度の騒動の原因を探りに日本人に扮して活動していること。 土方に一つ一つ事実を語られた山崎は、最初こそあまりにも突拍子のない話に酷く困惑していたらしい。 それも当たり前の話である。 魔法と呼ばれるまじないや、竜といった生物が現存する異国ペンタウァ。 更には、強大な力を秘めた"魔"将軍などという人ならざるものの存在まで。 どこをどこ切り取ってみても、まるで作り話のような現実味のない話だったからだ。 [次へ](65) 65 しかし、山崎は信じた。 本来、この件においての部外者に真実を話すことは、何処に"魔"将軍どもが潜んでいるか分からない現状では、情報漏洩の危険しかない。 それを、心から尊敬している土方が、真剣な双眸を真直に向け、他の誰でもない、この山崎烝に語ってくれたのだ。 土方副長の覚悟や信頼が信じられないのであれば、自分が土方副長に重用される資格などない、と。 こうして山崎も覚悟を決め、『こちら側』の協力者の一人となったという訳だ。 「創三郎君のことは、${予|かね}てより土方副長から聞いている。 ソーサリアン 、だったかな。 君の立場上、内密に動きたいこともあるだろう。 その時は、私に言ってくれ。 隊務がある故、全面協力は難しいが、 私に出来得る限りの協力を約束しよう」 誠実さと真面目さを感じる落ち着いた声色だった。 君を見つめる山崎の双眸からも、静かな覚悟が伝わってくる。 山崎は、諸士調役兼監察という職務柄、情報収集を得意とし、口の硬さも折り紙付きである。 しかも、監察の中でも土方が特に重用しているのが山崎らしく、信用の足る人物であると思えた。 『こちら側』のことでも協力してもらえるのは正直ありがたい。 君は山崎に今後の協力について深く感謝した。 この時、土方が安堵したように表情をほんの少しだけ崩したことには、君も山崎も気づいていなかった。 鬼の副長と呼ばれ、滅多に笑わないこの土方という男もまた人の子なのである。 こうした土方の気遣いにより、新選組内での君の協力者が増えたのだった。 %blue%**▲一晩寝てHPが50回復した!**%/% [それから夜が明けて……](66) 66 ![和室(昼間)](baku03-03.png) 次の日、君は山崎烝に屯所である八木邸と前川邸を案内してもらっていた。 自分、新人ですから。 それで、山崎はさすが監察と言うべきか、案内の順番や時間配分も無理がない。 説明も要点がまとめられていて分かりやすく、かつ無駄がないという、まさにパーフェクト案内である。 真面目で几帳面な質であるのか、会話の中に冗談の類が混ざることはなかったが、質問すればきちんと答えてくれる律儀さはありがたかった。 一通り案内が終わると、八木邸のある一室――に張られた結界内で君たちは話し始めた。 『あちら』からは結界をすり抜けてただの部屋に見えるが、結界内の『こちら』からは結界外のあちらが見える。 言わずもがな、ペンタウァの魔法技術を用いた個室である。さしずめ『結界部屋』と言ったところか。 「まったく、君たちの国に伝わる技術には恐れ入る。 攘夷派が知れば、あまりの恐ろしさに気が狂い、 泡を吐いて卒倒しているだろうな」 はぁ、と嘆息して苦笑混じりの表情を浮かべる山崎を見た君は、彼もこんな顔をするのだな、と意外に思い微笑した。 そんな君の笑みに眉をひそめた山崎だったが、すぐに表情を戻す。 「此処であれば、何者にも気取られずに 本来の目的に関することでも気兼ねなく話せるだろう。 さ、何かあれば何なりと」 では、お言葉に甘えて……。 [傷薬を貰えるだろうか?](67 "!f08") ["魔"に関する情報はあるだろうか?](69) [そういえば、うどん屋の猫のことは知ってる?](73 "f02&r02:baku03&r08:baku03") [???(フラグ02+実績02、08取得で解放)](998 "!f02&r02:baku03&r08:baku03") [会話を切り上げる](74 "f08|f09|f10") 67 これまで自分でも薬草を調合して薬を作ったりもしたが、新選組で暮らすとなると、なかなかそういう訳にはいかない。 此処でしばらく活動するのだから、変に目立ってしまうのも良くないのだ。 君は山崎に「傷薬を少し分けて貰いたい」と頼むと、山崎は快く了承してくれた。やったぜ。 「土方副長からは、君に頼まれたことは、 可能な限り聞いてやって欲しい、と仰せつかっている。 では、薬をいくつか持ってこよう。 君は此処で少し待っていてくれ」 そう言って山崎が去ってから暫くして、彼は顔よりも少し大きめな木箱を丁重に両手で持ち、『結界部屋』に戻ってきた。 「待たせてすまない」と君に声をかけ、座っている君と向かい合って座ると、手に持った木箱を中央に置いて蓋を開けた。 箱の中には、粉薬を紙で包んだ薬包やら軟膏入りの貝殻やら、様々な薬が入っていた。 [次へ](68) 68 君が箱の中の薬をまじまじと見つめていると、山崎は案内の時と同じように慣れた様子で、今度は薬効について説明してくれた。 その際に山崎が話してくれたことだが、どうやら彼は鍼医者の息子らしく、新選組ではその出自を買われ、薬を扱ったりすることも多いらしい。 なるほど、此度の件でもまさに適任であるに違いなかった。 山崎から一通りの説明を聞いた君は、貝殻に入った<軟膏>と小瓶に入った<気付け薬>、それと体調不良の類に効く薬も少々いただくことにした。 この日本では、魔法を現地人に目撃されるのはできるだけ避けたく、魔法が使いたくても使えない場面も多い。 そんな時に傷薬や気付け薬といった物は、なかなかに重宝するのだ。 ちなみに、体調不良の類に効く薬は、そう頻繁に使うものでもないためストックはあるが、念のために補充しておく。 日本の食文化に慣れていなかった頃は、こういった薬には結構お世話になったものだ。いやぁ、何とも懐かしい。 そんなほろ苦い思い出を懐かしみつつ、君は山崎に礼を言って各種の薬を貰い受けたのだった。 **★<軟膏>を5個貰った!** ※【使用回数:各1回】蛤の貝殻に入ったHPが10回復する軟膏 **★<気付け薬>を1瓶貰った!** ※【使用回数:1回】HPまたはMPが0になった時に使用すると、 HPまたはMPが1の状態で復活できる薬 (0になった数値を手動で1に修正すること) [他のことを聞いてみる](66) 69 君は「"魔"が関係していそうな変わった出来事はなかったか?」と山崎に尋ねてみた。 ここのところ、新拠点である新選組の生活環境に慣れることを優先していることで、"魔"に関する聞き込みができていなかったからだ。 君に尋ねられた山崎は、それを予想していたのか、表情を変えずに一つ頷く。 「ああ。"魔"と関連していそうなことは、 どんなに些細なことであろうとも報告せよ、と 土方副長から申し付けられていたし、 逆に、土方副長から近況をお聞きすることもあったからな、 私が知りうる限りの情報を君に伝えよう」 [人喰い獣について](70) [不可思議な報告について](71) [消えた<黒真珠>について](72) [他のことを聞いてみる](66) 70 **【人喰い獣について】** 人喰い獣の被害は、新選組が把握してる限り一ヶ月前から出始めたようだ。 尋常ならざる殺害方法。それと現場に残された獣臭という異常性から、土方は一連の事件を"魔"の仕業だと睨んでいるらしい。 既に新選組の隊士も犠牲になっており、警戒網を強めて巡察には腕利きの各組長も投入されているそうだ。 だがしかし、この事件も京の町で起こっている数々の事件の一つに過ぎない。 悔しいことに、いまだ敵の正体は掴めずじまいだそうだ。 ただ、今回新たに『現場から屋根を飛び越えて去る影が大男のようにも見えた』だとか、『人のような言葉が聞こえた』など、今までにはなかった情報が掴めたのは、収穫と言ってもいいだろう。 [他の"魔"についての情報も聞いてみる](69) 71 **【不可思議な報告について】** ここのところ、京の町では人喰い獣の被害ばかりが目立っているが、実はこの一、二年の間に『物が勝手に動く』とか『土蔵から変な声が聞こえる』などの不可思議な報告も度々上がっていた。 大体は当事者が寺や神社に相談し、必要に応じて対象物の供養やお祓いをしてもらうなど、各々で対処しているのだとか。 しかし、中には専門家でも原因不明、もしくはお手上げの場合もあるらしい。 そういう時、土方が出向いては「でかい鼠がいただけだ」だとか「どうやら勘違いだったようだぜ」といった具合に新選組で報告していた。 だが、実際のところは、下級の"魔"だとか、"魔"に影響された悪霊を『成敗』していたらしい。 少しずつ、しかし確実に"魔"がこの京をも蝕み始めているということなのだろう。 [他の"魔"についての情報も聞いてみる](69) 72 **【消えた黒真珠について】** この件に関しては、山崎も申し訳なさそうに頭を振った。 進展は特になし、ということだ。 <黒真珠>に関しては、君もこれまでの旅で探してはいたが、今のところ有益な情報もなければ、<黒真珠>が見つかってもいない。 それは土方にしても、遠方で情報収集をしている政四郎やエティスにしても同じだった。 歯痒い思いをしているのは、皆同じといったところか。 しかし、強大な力は、あらゆるものを魅了し、次々と災厄を引き寄せるものだ。 京の町の治安が悪化し、"魔"の気配も増していることからも、まったくの無関係とは思えないのだが……。 [他の"魔"についての情報も聞いてみる](69) 73 「うどん屋の猫のことは知ってる?」と君が尋ねてみると、山崎は「猫……か?」と、彼にしては意外な間が抜けた顔をした。 君は力強く頷くと、うどん屋の入り口にいた三毛猫について力説した。 ……その八割方は、にゃんこの可愛さを伝えていただけだったような気もするが。 さて、君から若干喰い気味に猫の話を聞かされて困惑していた山崎はというと、どうやら思い当たる節があったのか、何とも複雑そうな面持ちで言った。 「その猫、沖田さん曰く『妖怪』らしい」 へ? ねこちゃん is 妖怪? 君が思わず変なことを口走ってしまったので、山崎に真顔で「は?」と聞き返されたが、そこは咳払いで誤魔化した。 「ええと、私はその猫を見たことはないが、 以前、うどん屋の前でしゃがみ込んでいる沖田さんを 偶然見かけて、何をしているのかと尋ねたところ、 『猫の妖怪と遊んでいる』と仰って」 山崎は、そこで一旦言葉を切って君の顔をチラリと見る。 どうやら君の反応が気になったらしい。 ……が、君が食い入るように話を聞いているのだと分かると、彼は再び口を開いた。 「しかし、どこをどう見ても猫の姿は見えなかった。 その時は、てっきり沖田さんにからかわれたのだと 思っていたのだが、今は君の証言もあれば、 君の故郷では竜が出るとも聞いている。 であれば、この日の本に妖怪が実在していても 不思議なことではないのかもしれない。 ……まあ、私にとっては、 にわかには信じ難いことではあるのだが……」 虚空に向かって話しかけ、猫と遊んでいるという沖田氏。 なるほど。見えない者にとっては、それはさぞかし不思議な光景に見えたことだろう、と君は一人納得する。 だが、あの三毛猫は別に悪さをしているようにも見えず、以前から沖田と仲良しというのだから、おそらく問題はないだろう、と君は判断した。 そうか。今度あの猫を見かけたら、沖田さんの名前を出してみようかな。 [他のことを聞いてみる](66) 74 よし、これで聞きたいのことは聞けたかな。 君が山崎に深く礼を言ってからそう伝えると、彼もこくりと頷いた。 「承知した。 また何かあれば、いつでも言ってくれ。 ――さて、我々も『日常』に戻るとしよう」 山崎の言葉に、今度は君がこくりと頷く。 それを認めた山崎が先に立つ。 「君の健闘を祈っている」 穏やかで力強い声色でそう言い残すと、山崎は 『結界部屋』から立ち去った。 さあ、新選組一番隊の平隊士『安藤創三郎』としての生活にも慣れるべく、『日常』に戻ろう。 [それから日が過ぎてゆき……](75) [即猫直行(猫に会いに行く)](93 "f10") 75 新選組の平隊士として生活し始めた君は、思ったよりも順調にこの組織に馴染んでいた。 これは、上洛する前に日本各地を旅して日本の文化を学んだ成果でもあるが、それとは別に、新選組内で面倒見のいい上司や気さくな仲間たちに恵まれたことも大いに関係しているに違いなかった。 さて、そんな順調な平隊士生活を送っていたある日のこと。 「おーい、${創三|そうざ}! そろそろ行くぞー!」 「遅れたら後が恐いからな~」 暮れ六つ(現代でいうところの19:00頃)。 日が落ち、君は仲良くなった同隊の仲間2人から声を掛けられた。 1人はあろうことか両手の人差し指をこめかみ辺りで立て、鬼っぽいジェスチャーをしている。 おい、土方副長に見つかったら睨まれるぞやめろくだされ命が惜しい。 君はそう冗談めかして仲間と笑い合いながら、食べ終わった夕餉の食器を一緒に片付ける。 ちなみに**『${創三|そうざ}』**とは、『${創三郎|そうざぶろう}』である君のあだ名だ。 夕餉を終えた君たち一番隊の平隊士は、身なりを整えて最後にばさりと浅葱色のダンダラ羽織を纏る。 そうして、君たち一番隊の平隊士も京の町を見回るため、他の隊の仲間たちと共に薄暗くなった町へと出動した。 [市中を見回る](76) [▶▶ミノタウロス戦まで飛ばす](82 "f11&r16:baku03") 76 提灯を手に、一番隊の平隊士2人と市中を歩く。 他の隊の隊士たちとは途中で別れ、それぞれ担当区域を見回るのである。 時間帯のわりには、町中を出歩いている者は少なく、家々から漏れ出る光も少ない。 これも大きな戦が忍び寄る不気味な気配に対する怯えや、京の町を脅かす残忍極まりない人喰い獣とやらの影響に違いなかった。 その人喰い獣のことだが、何とも妙なことに、君が新選組に入隊してからは、人喰い獣による事件は、まだ一度も起きてはいなかった。 そのためだろうか。仲間の隊士2人は、あくびをするなど今ひとつ真剣みに欠けている。 これは土方が見掛けたら怒るやつだ。ぶるぶる。 「創三、すまんが」 仲間の隊士に声をかけられて何かと思えば、催してしまったから待っていて欲しいとのことだった。 こういう時は、一人が言い出すと他の者もこれ幸いとつられるものだ。 君が了承すると、もう一人の隊士も「俺も」とついでに用をたしに物陰へと姿を消した。 [出動前に厠に行っていた君に死角はなかった](77) [▶▶ミノタウロス戦まで飛ばす](82 "f11&r16:baku03") 77 仲間2人が(用を足しに)闇へと消えた。 一人になった君は、彼らの去っていった方向に背を向けると、周囲に注意を向ける。 聞こえるのは野犬の遠吠えくらいで、時折通りがかる町民は、君が新選組の隊士と見るや顔を背け、足早に通り過ぎていった。 京の町に住む人々にとって、人喰い獣と同様に新選組もまた人を斬る獣のような集団として恐れられ、嫌悪されているのだと痛感する。 壬生村の狼と書いて**『${壬生狼|みぶろ}』。** 新選組の前身は、そう呼ばれていた。 土方歳三に聞いた話では、新選組は過去に一部の幹部が町民にとって迷惑がられるような行為を繰り返していたらしい。 金の無心、暴力沙汰、器物破損など日常茶飯事で、本当に手がつけられない状態だったのだとか。 だが、その一部の幹部とやらは、そんなにも派手で暴虐不尽な振る舞いをしていたからか、とある夜、長州藩の手の者に暗殺されたらしいのである。 それから新選組は、近藤勇を局長とする新体制に変わり、武人に相応しくない行いを『${局中法度|きょくちゅうはっと}』により厳しく取り締まるようになった……とのことだ。 確かに、そんな人物であれば、たとえ幹部であろうとも、誰でも煙たがり、憎からず思う者も多かったことだろう。 そこに暗殺、である。 なんともタイミングの良い時に、その問題を起こしていた一部の幹部が都合よく暗殺されたものだ。 そう率直に土方に言った時の話だが、あの時の彼は、不機嫌さを隠しもせずに「日頃の行いが悪かったのさ」と吐き捨てたのを覚えている。 [触らぬ神に……ではなく、触らぬ鬼副長に祟りなし、である](78) [▶▶ミノタウロス戦まで飛ばす](82 "f11&r16:baku03") 78 ……それにしても、だ。 どれだけ厠に行くのを我慢していたのだろうと不安になるくらい、それほどの時間が経っても仲間2人が戻ってこない。 考えてみれば、今は暑い上に湿度も高い。 食べ物が傷みやすい時期でもある。 もしや、2人して腹を下しているのだろうか……? そんな想像を巡らせ、君は懐に手を入れて薬包を取り出した。 ソーサリアンであれば、薬の携帯は欠かせないものとなっているし、今は……うむ、腹痛に効く薬も数持っている。 となれば。 もしものこともあるし、念のために薬の差し入れでもしてこようか。 君は薬包を懐に仕舞うと、仲間の後を辿るように同じ道へと入っていった。 [お~い、何処まで行ったんだ~?](79) [▶▶ミノタウロス戦まで飛ばす](82 "f11&r16:baku03") 79 流石に町中の適当なところで、という訳にはいかないもんなぁ。 君は表情に憐憫の色を滲ませ、そんなことを思いながら、提灯の灯りを頼りに薄暗くて狭い路地裏を歩いて行く。 どんどんと人の気配が薄れ、寂れた荒屋が増えてゆく。 それもそのはずで、この辺りには人喰い獣に襲撃された家があり、生存者なしの一家全員死亡である。 しかも近所の者も巻き添えを喰ったのか、何人かの行方も知れないときたもんだ。 近所の者が、「こんなところに住んでいられるか! ワシは引っ越すぞ!!」となるのも必然だろう。 俗に言う、盛大な死亡なんちゃらというやつだな、と考えていた、その時である。 男の悲鳴が聞こえた。場所は……近い! どうやら自分も数日の平和な日常に気が緩んでいたようだ。 君は改めて気を引き締めると、悲鳴を上げた主の元へと駆け出した。 [急げ!!](80) [▶▶ミノタウロス戦まで飛ばす](82 "f11&r16:baku03") 80 袴を穿き、わらじを履いて此処まで速く走るのは、本当に久しぶりだった。 それほどまでに、最近の新選組での生活は、ペンタウァでは戦い続きだった君にとって平和とも言える日々だったのだ。 だが、視線を${一度|ひとたび}外へと向ければ、そこは人斬りが横行し、"魔"の影がちらつく治安が悪い京である。 平和なひとときが終わるのは、刹那と言えるほど僅かな時で十分なのだと、そう痛いほどに思い知らされる。 狭苦しい路地裏を駆けている君は、鼻腔に入り込んだ異臭に表情を更に険しくする。 風に乗って流れてきたのは、生温かさすらも伝わってきそうなほどの血の臭いだった。 それと、何やら言い争う声も聞こえるが、男の怒鳴り声は聞き取れるものの、あとは牛が複数鳴いてでもいるかのような低い音がして、どういう状況なのか分からない。 しかし、この血臭である。 少なくとも怪我人か死人が出ている状況ではあるようだ。 怪我人か、死人。 己の嫌な予感に胸の鼓動が速まるのを感じる。 人気のない裏路地を走った。突き進むほどに血臭が濃厚になり、異常性が増してくる。 殺気立った空間が作り出す異質な雰囲気というものは、ペンタウァでも日本でも変わらない。 路地裏の終わりが見えて、君は地面の擦れる音を最小限にして動きを止めた。 救える者がいれば救いたい、と早る気持ちもあるが、今自分が置かれている状況が分からない中で、急に飛び出すのはとても危険だからだ。 心臓が胸の内側を激しく打ち、全身に汗が滲んでいる。 君は呼吸音を限りなく抑え込みながら、刀に手を伸ばして鯉口を切った。これならいつでも斬り込める。 此処までくれば、耳を澄ませる必要もない。 男の怒号も鮮明に聞こえ、その悲痛さすらも感じさせる必死な声は、然りに相手の静止を訴えている。 君は、この路地裏の先にあるものを見定めようと、そっと様子を伺った。 [一体どうなっている……?](81) [▶▶ミノタウロス戦まで飛ばす](82 "f11&r16:baku03") 81 其処は路地裏を抜けた行き止まり。 地面は真っ赤に染まり、夜空に浮かぶ月の光が反射して、濡れた深紅がテラテラと不気味な輝きを放っている。 月明かりの下に晒されたのは、異様な光景だった。 頭のない人間の遺体と、人体の一部が幾つか血の池に沈んでいる。 着物と思しき布は赤黒く血で染まっているからか、全てが鮮明に見えた訳ではないが、ダンダラ模様の白い三角を、自分でも驚くほど正確に識別してしまった。 浅葱色したダンダラ羽織。 君が着ている羽織と同じものだ。 それが血の池に沈んでいる。 ……つまりは。 ぞるり、と。君の中で殺気が首をもたげた。 だが、君の中にある戦人としての経験が、怒りで波立つ心を${諫|いさ}める(良くないことだと忠告する)。 その中で、顔はよく見えないが武士らしき男と――頭は牛、上体は筋肉質な人間の男、下肢は2足直立の牛という巨大な獣人が対峙していた。 獣人は、その特徴から見てミノタウロスで間違いない。 屈強な肉体を持ったミノタウロスは、全身が血に塗れているが、血に染まった口元から赤い涎が垂れているのを見るに、おそらく人を喰らったのだ。 [こいつ……!!](82) 82 **「来ちゃあいかん! 逃げねば死ぬぞ!!」** 君の存在に気付いた武士らしき男が、声を張り上げて逃げろと叫ぶ。 だが、この状況で素直に逃げ出すほど、君は素人ではない。寧ろこの手のプロと言ってもいい。 君は逆に武士らしき男に「逃げろ」と呼びかけ、油断なく刀を構えた。 男は君の言葉にたじろぎ、困惑した様子を見せたが、状況から最善を判断したらしい。 「……かたじけない!」と、男は一言そう叫んで夜の闇へと一目散に消えて行った。 ミノタウロスが血生臭い息を吐き出しながら、君のいる方へと振り向いた。 狂気に染まった2つの赤き瞳が、薄闇の中で爛々と輝いていた。 「グ、ググ……新選組……死スベシ……」 **戦闘ルール「ミノタウロスとの戦い」** ①%blue%ダイスを1回振り、「HP」を1回押す。%/% ②%blue%ダイスを1回振り、ダメージ式ボタンを1回押す。%/% ③%blue%君のHPまたはMPが0まで減るか、敵のHPが0になるまで 上記①と②の手順を繰り返すこと。%/% [ミノタウロスのHPを0にした](137 "f13") [ミノタウロスのHPを0にした](83 "f06") [君のHPまたはMPが0になった](84) 83 ミノタウロスとの激闘を繰り広げていた君は、その疲れからか一瞬判断が遅れた。 瀕死であるはずのミノタウロスが斧を振りかぶろうとしたのだ。 だが、何処からともなく飛来した『何か』がミノタウロスの目に突き刺さり、ミノタウロスは絶叫して怯んだ。 その姿を見れば、血を流すミノタウロスの片目には、深々と苦無が刺さっていたのだった。 ミノタウロスは、苦無が刺さったまま民家の屋根を飛び越え、あっという間に逃げ去ってしまった。 君は奥歯を強く噛み締めながらミノタウロスが消えた先を見つめていたが、苦無のことを思い出して辺りを見回した。 すると、建物の物陰から人影が姿を現した。 否、影ではない。一見すると浪人に見える暗色の着物を着ているから、逆光も影響して影のように見えたのだ。 「安心召されよ、創三郎君。 私だ、${山崎烝|やまざき すすむ}だ。 土方副長のご判断でな、私は君の後につき、 助力が必要な時は、力を貸すよう言われていたのだ。 ……だが、『彼ら』には申し訳ないことしてしまった。 私も機転を利かせ、もう少し視野を広く持つべきであったな……」 苦無を投げたのは、君も知っている山崎その人であった。 血の池に視線を落とし、表情を曇らせる山崎に、君は首を横に振った。 君の言わんとしたことを悟ったのだろう、山崎はやるせない表情ではあったが「そうだな」と一言呟いた。 彼が気を取り直したのを確認した君は、礼を言ったのちにこの場をどうすればよいか相談する。 そこで、山崎が新選組へ行って応援を呼び、君は応援が来るまで此処を見張ることになった。 [次へ](85) [▶▶禁門の変の説明終了まで飛ばす](88 "f12&r18:baku03|f12&r19:baku03") 84 「・・・殿!!」 出血と疲労と痛みで目が霞み、ぼんやりとした意識の中で、君は誰かが叫ぶ声を聞いた。 その声は、何処かで聞いたような気もするが、聞いたことがないような気もする。いまいち漠然としていて断定ができない。 どうやら、その何者かが近くに走り寄ってきた気配を感じた。 「・・・殿!? ・・・・・・!!」 声からして男だろうか。何かを然りに叫んでいるようだが、ダメだ、理解が追いつかない。 ああ……もう、刀が、体が、おも、い……。 君の手を離れた刀が、金属が地面に叩きつけられる重々しい音と、水溜りのように溜まった血が跳ね上がる音をたてた、 だが、刀の後を追うようにして倒れゆく君には、最早その後のことを考えられるだけの意識も体力も残されていなかった。 * * * それから暫くして、新選組内では『夜間の市中見回りから戻ってこない隊士がいる』と騒ぎになっていた。 新選組では、すぐに捜索隊を組んで市内を捜索。 その後、とある裏路地を抜けた場所にて、乾燥しかかった血の池の中で首のない男4人の遺体が倒れているのが発見されたのだった。
%purple% **未完「血の池に沈む」**%/% 85 「それでは、私は応援を呼んでくる。 創三郎君、それまではすまないが此処の見張りを頼む」 君が了承したのを確認した山崎は礼を言うと、血の池に向かって手を合わせたのち、応援を呼びに直ちに闇へと紛れて姿を消した。 先ほどまでの喧騒が幻であったかのように、今はしんと静まり返っている。 君はその手に持った刀を風を斬るようにして振った。 刀身に付着した血は、まるで雨粒が刃の上を滑るが如く一切の抵抗なく綺麗に払われる。 静寂の中、静かに滑らかに鞘へと納まってゆく刀。 血の一滴すら残さないその刀身は、天上に輝く星々の煌めきを宿していた。 刃渡り二尺三寸(約70cm)の打刀で、無銘。 日本上陸後に政四郎から貰い受けた刀だが、彼曰く、かつて大坂城の金庫に隠されていた『ムラサメブレード』を模して、倭の一族の末裔が打ったという、言わば${複製品|レプリカ}らしい。 その素材にはペンタウァから持ち込まれていた金属も使われているようだが、当時の資料が現存しておらず、詳細は謎に包まれている。 納刀した君は血の池に向き直ると、袴が血で染まるのも構わずに、その場でしゃがみこむ。 目を瞑り、合掌すると、仲間との思い出が脳裏に流れてゆく。 『彼ら』と共に生活した時間は、一月にも満たないほどに短い。 それでも、その死を自然と悼むほどには、彼らへの感情が芽生えていたことには違いなかった。 [そして……](86) 86 あの後、君は山崎に呼ばれて現場に駆け付けた隊士たちと共に後処理をした。 ミノタウロスに殺された仲間の遺体は、新選組で持ち帰り、寺で手厚く埋葬してもらった。 問題は、その後処理をしていた時のことだ。 ミノタウロスが暴れた現場の周囲を巡回していた隊士が、血塗れで倒れている男を一人発見していた。 いかにも浪人といった風体の男は既に死亡しており、事情を聴けるような状態ではなかった。 だがしかし、この男の姿を見た君と山崎は非常に驚いた。 男の体についた刀傷が、君がミノタウロスに切り付けた場所と一致していたこと。 山崎がミノタウロスに投げた苦無が、どういうことか男の手に握られていたこと。 男の周囲に獣毛が散乱し、酷い獣臭がしたこと。 これらは、男の正体が――否、ミノタウロスの正体がこの男であることを暗に示していた。 しかし、君だけが更なる驚きを以て男の死体を凝視していた。 何故ならこの男は、君が上洛したその日に立ち寄ったうどん屋で見た、訛りの酷い酔っ払い浪人だったからである。 その後の調べで、この男は京の町に潜伏していた長州藩の者だと判明した。 君が聞いたという酷い訛りというのも、長州者が使う言葉(今でいうところの山口弁)であると分かれば納得である。 ちなみに、この隊士惨殺事件は『男が人喰い獣を仕立て上げて及んだ犯行』として処理され、瓦版でもそう書かれた。 君と山崎があえて真実を伏せたからだ。 それもそうだろう。土方以外の者に此度の件を正直に伝えたところで、到底信じてなどもらえるはずがない。 男がミノタウロスの姿のまま死んでいれば、万が一にも証拠になった可能性もあるが、実際に死んでいたのは人間なのだ。 だから、たとえ正直に『牛頭の巨人が仲間を殺した』と証言したとしても、虚言だと一蹴されてしまっただろう。 [元治元年6月下旬になり……](87) 87 『池田屋事件』により多くの尊王攘夷の同志が命を落とした長州藩。 この事件を受け、長州藩の内部では、特に武力による解決を推進する急進派の藩士たちの怒りが爆発した。 そんな彼らを諫めていたのが慎重派の藩士たちであったが、『八月十八日の政変』で地に落ちた名誉を回復するため武力を以て立ち上がった者たちの暴走は、ついぞ止めることは叶わなかった。 こうして、長州藩の急進派が挙兵し、京の町を目指して進軍を始めたのである。 元治元年、然る6月下旬。 京都守護職である松平容保の命により、新選組は伏見方面の九条河原で陣を構え、待機していた。 長州藩の軍勢を警戒したからである。 だが、一番隊の平隊士である君を含む一部の面々は、『京都見廻組(幕臣で組織された京の治安維持のための部隊)』と共に市中の見回りを命じられていた。 特に一番隊に関して言えば、『池田屋事件』以降、一番隊組長である沖田総司の体調が優れず、床にふせっていることが多くなったためである。 それともう一つ。 『万が一、"魔"が町に襲来したとなれば、 ソーサリアンのお前がいなけりゃ話にならねぇ。 此度の九条河原出動の件は、総司の件と併せて、 一番隊の一部の奴を町の見回りにあてると 近藤さんに提案……いや、近藤さんを説得してみせる』 土方歳三がそう言い、表向きの理由となる市中見回りを近藤勇に提案したところ、存外あっさりと採用されたのである。 それはおそらく、近藤が弟のように可愛がっていた沖田の身を案じての判断だったのかもしれない。 [次へ](88) 88 土方が伏見方面の九条河原へ出動する前、君を自屋に呼び出した。 その時のことだ。彼は君にこう言ったのである。 『俺はこの一件で新選組の指揮官を任せられてる身だ、 勝手は許されねぇ。 だからよ、町で何かあった時は、頼む』 多くの者に恐れられている鬼の副長と呼ばれた男は、君に深々と頭を下げた。 その所作に屈辱や侮蔑といったものは欠片もない。 ペンタウァでも、そして海上や江戸でも勇敢に"魔"と戦い、生き抜いてきた君を信じ、想いを託したのである。 君の返事は、言うまでもないだろう。 %blue%**▲時間経過によりHPとMPが全回復した!**%/% [元治元年7月19日へ……](89) 89 元治元年7月19日。 新選組が伏見方面の九条河原に待機していた頃、君を含む新選組一番隊の一部の面々は、交代で京の町中を見回っていた。 君は先ほど担当分の市中見回りを終え、控えの仲間と交代したところだった。 沖田の自室を訪ねた君は、布団から上体を起こした沖田に見回りの報告をしていた。その時だ。 外でにゃーんと声がした。猫の声だ。 君ははっとして、障子を開けて部屋から顔を覗かせると、廊下に畳まれた文が置かれていたのだ。 ![廊下](baku03-04.png) 文の中身を確認すると、何も書かれていない和紙だったが、君がぼそりと呪文を呟くと、和紙に文字が浮かび上がった。 ペンタウァ式機密文書である。 『御所に強力な"魔"の気配有り 至急 御所に向かわれたし 政四郎』 火急の知らせであった。 君の本来の目的は、"魔"将軍や"魔"将軍配下と接触し次第、様々な情報を引き出し、滅することである。 だが、今は本件の関係者ではない沖田の目の前である。 これはどうすれば……と、沖田の方を振り向けないまま、君は頭を悩ませていた。 [次へ](90) 90 「行ってきなよ」 焦りに滲む背中に声がかけられた。 えっ、と振り向くと、沖田が穏やかな表情で君に向けて優しい笑みを浮かべていた。 「なに驚いてるんだい? 僕は君の背中にそう書いてあったのを読んだだけさ」 えっ、と一言転がり落ちた。 君は気が動転し、背中に文の内容が書かれるなどあり得ないことであるはずなのに、思わず両手で背中をまさぐってしまったのだ。 なんとも間が抜けた奇行に、沖田は堪え切れずに吹き出した。 「ははは、君は愉快な人だなァ。 ――あのさ、創三郎君の事情は知らないけど、 まあ、近藤さんへの言い訳は、 僕に任せておいてよ。 僕は寝てることしかできないんだから、 それくらいはさせてよね」 相変わらず、彼は鋭い。沖田は奇妙なくらい勘が働くのだ。 おそらく、これから君が何をしたいと考えているのかも、沖田は勘付いているのだろう。 だが、沖田が白い歯を見せて自信満々に笑う顔は、良い意味で子供みたいに見えて、少し気持ちも落ち着いた。 更に沖田は、餞別として君に<七惑星の欠片>が沢山入った巾着を持たせてくれた。 体調が思わしくない沖田が地道に欠片を回収してくれていたのだと思うと、君は目頭が熱くなるのを感じずにはいられなかった。 君は沖田の心遣いに心から深く礼を言うと、丁寧な所作で部屋から出て行くのだった。 **★<七惑星の欠片>を全種類2個ずつ貰った!** [次へ](91) 91 君が去った後の沖田の部屋は、やけに寂しく見えた。 ぽつんと部屋に一人残された沖田は、堪えていた嫌な咳を吐き出した後、自嘲する。 そして、酷く掠れた声でぽつりと呟いた。 「ああ、悔しいなぁ……」 今は何も握られていない、あまりにも軽過ぎる青白い手を見つめながら。 [一方、外に出た君は……](92) 92 新選組屯所から飛び出すと、ぬるりとした気色の悪い風が全身を撫でた。 見回り中も心中穏やかではなかったが、微かな血臭と硝煙の臭いが風に混ざって中空をうねる様に、この町で戦が行われていることを改めて実感する。 と、その時だ。 「よくぞ来てくださいました!」と武装した男が君に走り寄ってきた。 君は身構えるが、武装した男が兵に扮した政四郎だと分かると、頷き合って並走する。 なるほど。先ほどの猫の鳴き声は、政四郎渾身のにゃーんであった訳だ。 「近況ですが、長州藩の大軍勢が御所へ押し掛け、 各御門の守護にあたっている藩士たちが 長州藩の侵入を防いでいます。 しかし、先ほど御所を中心にただならぬ"魔"の気配が 生まれたのです。 どうもそれが切っ掛けであったのか、 町中に下位の魔族が一斉に現れ、暴れています。 これら一連の怪異は、おそらく"魔"の中でも上位の存在、 "魔"将軍の仕業でしょう」 政四郎の話によると、長州藩の志士が幾つもの軍団に分かれて、御所に通じる各門に攻め入っているのだという。 一つの軍に200人以上いるようで、警護にあたっている会津藩などが長州藩を何とか押し止めているらしい。 しかし、中でも**『${来島又兵衛|きじま またべえ}』**率いる来島隊が集結している『${蛤|はまぐり}御門』の前は、まさに一触即発の状態だという。 更には、今まで目立って姿を見せなかった"魔"が、ここにきて急に町中に出現し始めたと言うのだから、何とも間が悪い。 御所に入ろうと威圧を掛け続ける長州藩の軍勢に、突如御所内に生じた上位魔族と思われる"魔"の気配と、それに追随するように町中で暴れる下位魔族と中位魔族。 此度の騒動と"魔"にどんな因果関係があるのかは定かではないが、戦禍によって引き起こされた混乱に乗じ、悪事を働くのは、いつの時代も悪い輩の常套手段だ。 「こちらです!」と先導する政四郎の背を追い、君は戦場と化した御所へ走った。 [御所へ急げ!](99) 102 ### 武芸者編~町を駆ける異国のなんでも屋~ 君は引き続き旅の武芸者**『${田浦勇之助|たうら ゆうのすけ}』**として行動していた。 金を稼がなければ旅籠屋にも泊まれないし、京の町に潜伏して調査するにしても、金が入り用だ。 金、金、金。 こう言っては身も蓋もないが、いつの世も、どんな国でもまずは金である。 そのため、君は京の町で揉め事があれば馳せ参じ、赤子が泣けばねんねんころりと寝かしつけ、人手が足りないとあらば袖を捲って手伝いにも行った。 こうした地道な甲斐あって、君は京の町で評判の好漢となったのである。 **子守りの田浦と言やァ!(あ!)俺のことよォ!(いよぉ〜! ポンッ!)** と内心で歌舞伎役者の如き${見得|みえ}を切ったものの、言い換えれば、日頃ペンタウァでやっていることを、舞台を日本に変えてやっているということである。 そう。何処へ行っても、ソーサリアンはやっぱりソーサリアンなのだ。 という訳で、今日もソーサリアン活動に精を出すとしよう。 [古道具屋の依頼「開かずの箱」を受ける](103) [町医者の依頼「往診の薬持ち代理と護衛」を受ける](109) [町中をぶらぶらしてみる](124) 103 君は、町の噂で古道具屋の主人が困っていると聞いた。 どうやら、何をやっても開けられない箱があるそうな。 一体どんな箱なのやら。 君は興味を惹かれたのもあり、例の古道具屋に行ってみることにした。 「おいでやす。 何かお探しどすか?」 古道具屋の気の良さそうな店主に挨拶を返すと、君は早速開かない箱はどんな箱なのか見せて欲しいと頼んでみた。 すると、どうやら店主も得体の知れない箱を持て余していたのか、喜んで例の箱を見せてきた。 店主の話によると、つい先日に店の中を掃除していたら見つけた物らしい。 店主自身は、そんな箱を仕入れた覚えもないし、いつから店内にあったのかも把握していないとかで、気味が悪かったそうな。 その当の箱だが、一見すると何の変哲もない片手サイズの木箱だ。 ただ、その表面に赤黒い色の奇妙な文字が書かれているのを見て、君は驚いた。 見る者が見ればすぐに判る。 この文字は、ペンタウァで使用されている古代文字によく似ているのだ。 さて、ここでは君の知識が試される。 君はこの古代文字を解読できるだろうか? [解読できた(INT10以上)](104 "oINT10") [解読できた(INT10以上)](998 "!oINT10") [解読できなかった](107 "!oINT10") 104 この古代文字は、やや癖のある字で書かれているため、解読に時間が掛かってしまった。 それでも君は古代文字を見事に解読することができた。 何だか色々と書かれてはいたが、簡潔にまとめると『気に入らないモン見つけたから、使われないように箱の中に入れて呪いかけとくね⭐︎(意訳)』という意味だった。 どうやらこの箱の中には、呪いをかけた者にとって開けられたら都合の悪い物が入っているようだ。 おそらく**<${UN-CURCE|解呪}>**を唱えて箱の呪いを解けば、箱の蓋は開けられるのだろうが、はてさて。 [<UN-CURCE>で解呪する](105 "mUN-CURCE") [<UN-CURCE>で解呪する](998 "!mUN-CURCE") [解呪しない](108) 105 君は箱の呪いを解くことにした。 だが、店主に見られていては、魔法は使えない。 店主には悪いが、『ちょっと集中して箱の開け方を考えたいので、暫くは1人になりたい』とお願いし、店主には奥の部屋を貸してもらうことにした。 奥の部屋に通された君は、店主の気配が遠かったのを確認すると、箱を抱え込むようにして隠しながら<UN-CURCE>を唱えた。 **『 UN-CURCE 』** **◆<UN-CURCE>を唱えた** ※ステータスSTARの欠片が<UN-CURCE>発動に必要な分だけ 自動減算される(月-2,水星-1,土星-1) 微かに古代文字が発光すると、赤黒かった文字色がただの黒色になった。 特におかしなところもなく、木箱の解呪は無事完了したようだ。 君は店主に声を掛けて部屋へ呼ぶと、店主は文字色が変わったことに大層驚いていた。 そんな店主に君は得意げな顔をして「こういうの、お祓いっていうんですかね。ちょっと昔かじったことがあるんですよ」とかなんとか言って誤魔化した。 店主の方も「そういうものなのか」と特に疑うことなく納得したようだ。 ご主人、いい人だなぁ。 [次へ](106) 106 さて、店主が固唾を飲んで見守る中、君は木箱を開けてみた。 中に入っていたのは、何だか微妙な顔をした木彫りの人形ただ一つだった。 君と店主の顔がポカーンとなったのは言うまでもない。 結局、微妙な顔をした木彫りの人形は、君が木箱を開けたのだからとタダで貰ったのだった。 ちょっと消費コストに見合っていないような気もするが、店主のお悩みを解決できた訳だし、今後の信用を得たと思えば良いか。 君はそう納得しながら帰路についたのだった。 実はこの人形、霊力の宿った木を削り出して作られたお守りのようなもので、造形こそ作者の技量不足なのか微妙ではあったが、僅かに霊力を内包している。 ……とはいえ、君はそんなこと知る由もない。 だが、この人形を懐に入れた君が戦闘の中で危険を感じた時に、この人形が2回だけ肩代わりしてくれることだろう。 **★<身代わり人形>をタダで貰った!** ※【使用回数:2回】指定のダメージまたは指定の状態異常を無効化する木彫りの人形 (使用するタイミングは自由に決めてもよい) [今日の仕事はお終いにする](129) 107 残念ながら、君の知識では古代文字とまでは識別できたものの、解読まではできなかった。 一応、ダメ元で力任せに蓋を引っ張ったり、蓋と本体の隙間に銭を差し入れて押し開こうとしたり、店主の許可を得て切ろうとしてみたが、箱はその見た目とは裏腹にとんでもない強度で、傷一つつかなかったのだからびっくり仰天である。 結局、ただ無駄に時間を消費しただけで、開かずの箱を開けることは叶わず、君はとぼとぼとした足取りで古道具屋を後にするのだった。 [今日の仕事はお終いにする](129) 108 うーん、<七惑星の欠片>が勿体ない気がするし、箱もただ開かないだけで、特に何か害をなしている訳でもないし、解呪するほどのこともなか。 君は日本では特に貴重な<七惑星の欠片>を使うことことでもないと判断し、解呪は止めることにした。 ただ、一応は念のために箱が開かないかと色々と試してみた。 ……が、結果は当然『箱は開かなかった』、である。 やはり呪いの力で封印されている箱は、何をやってもビクともしなかったのだ。 結局、ただ無駄に時間を消費しただけで、魔法なしでは開かずの箱を開けることは叶わなかった。 君は店主に箱を見せてくれた礼をした後、古道具屋を後にするのだった。 [今日の仕事はお終いにする](129) 109 君が町を歩いていると、「おーい、田浦はーん! お仕事あったでー!」とお声が掛かった。 声を掛けてきたのは、この町で依頼をこなしている内に仲良くなった顔見知りの男だ。 彼は${大坂|おおざか}の出身で、自分と同じく他所から京にやって来た君に親近感が湧いたらしい。 君が依頼を探しているのを知ってから、彼がこうして町人の困り事情報を教えてくれるのは、こういった経緯があったのである(ちなみに、江戸時代では、『大阪』と『大坂』が併用されていたらしく、その呼び方も『おおざか』であったようだ)。 そんな大坂の男が持ってきた情報によると、この町で診療所を営む町医者の老人が、君の力を借りたいらしい。 [次へ](110) [▶▶気配に気づくかどうかのシーンまで飛ばす](115 "r13:baku03") 110 さて、依頼の経緯である。 町医者は、町人の家に訪問して患者の診察をしたり、薬を処方したりする往診をやっているのだが、その際に薬の入った箱を持ってくれていた『薬持ち』の若者が、ぎっくり腰をやってしまい、暫くは仕事ができないようなのだ。 だが、貴重な薬が入った箱を誰彼構わずに託すことはできないし、町の治安に不安もあって、できれば腕っ節と体力に自信のある若者がいい。 つまりは、腕っ節が強くて体力もある、更には依頼解決によって積み上げてきた実績と信頼もあるという君に『薬持ち』の代理をやって欲しいと白羽の矢が立ったのである。 ペンタウァでもそうだったが、コツコツとした地道な活動と、真面目に仕事に取り組む姿勢が宣伝となり、こうして実を結ぶのだ。 君は、町の地理を把握しようとあちこち出歩いていたので、診療所の場所も町医者本人も把握済みである。 依頼内容には問題なし。請負OKだ。 その旨を大坂の男に伝え、チャリチャリチャリーンと銭を手渡すと、男はにっこりと笑って「毎度おおきに!」と元気よく挨拶して颯爽と町中へと去ってゆくのだった。 彼は仕事になりそうな情報を探すために労力を使う。 君はその依頼をこなすことで依頼主から報奨を得る。 であれば、依頼を見つけては知らせてくれる彼に対価を払うのは、至極当然のことだ。 そう、ギブアンドテイク(ゼニアンドゼニ)である。 ……あっ、門弟探しの設定は忘れた訳じゃないよ! 今は依頼解決で忙しいンダヨー! [診療所に向かう](111) [▶▶気配に気づくかどうかのシーンまで飛ばす](115 "r13:baku03") 111 君が診療所に着くと、町医者の老人が快く出迎えてくれた。 彼は白髪を後ろに束ね、まるでお地蔵様のような穏やかな顔をしたお医者様だ。 見た目だけではなく、実際に穏やかで気立の優しい爺様で、君が怪我の治療で立ち寄った時など、帰り際に金平糖などのお菓子をくれるのだ。 話を元に戻すが、こちらの老人は元々は漢方医(薬草など漢方薬を処方して治療する内科医)であったが、蘭方医学を学んで蘭方医(器具や薬品を用いて外科手術を行う外科医)へと転身したお医者様だ。 だが、この頃は医者の数も少なく、彼自身が元は漢方医であったことから彼に頼る者は多くいて、彼自身もまた、自分にできることであれば内科・外科両方の治療も行っていた。 つまりは、外面も内面も慈愛に満ちた蘭方医で、孫におやつあげる系の大人気お爺ちゃんなのである。 君は彼を見る度に、ペンタウァにいる偉大なる大魔道士オーサーお爺ちゃんを思い出し、そこから更にペンタウァの町並みを思い出す。 嗚呼、懐かしき我が祖国ペンタウァ。 様々な種族が集い、活気に満ちた魂の故郷。 君は老医者がお茶を淹れている間、暫く帰っていない祖国に想いを馳せるのだった。 [次へ](112) [▶▶気配に気づくかどうかのシーンまで飛ばす](115 "r13:baku03") 112 老医者から改めて依頼内容を聞き、依頼が成立すると、老医者はとても喜んでくれた。 既に往診の準備を済ませていた老医者から、君は一抱えほどもある大きさの薬箱を受け取る。 中には薬の他にも薬の計量に使う道具等も収納されており、なるほど、これはそれなりに重い。 しかも、丁寧に持ち運ばねばならない物だけに、ぎっくり腰をやってしまった者だけでなく、力がない者にこれを背負うのは難しいだろう。 だが、これくらいの重さならなんのその。 ペンタウァでは、大小様々な物を持ち歩いては、洞窟や迷宮の謎解きにあたっていたのだ。 これくらいは日常茶飯事というやつである。 君が薬箱を軽々と背負うと、老医者は「おお、素晴らしい!」「君に頼んで良かったよ!」と然りに感激していた。 いやぁ照れるにゃ〜。 という訳で、薬持ち代理兼護衛となった君は、老医者と共に患者の家へと向かうのであった。 [患者の家々を訪ねて往診し、そして……](113) [▶▶気配に気づくかどうかのシーンまで飛ばす](115 "r13:baku03") 113 老医者の往診は順調で、患者もみな経過順調なようだったのは、なんとも喜ばしいことだ。 そうして君と老医者は町中の往診に勤しみ、本日往診する患者がいる最後の一軒に着いた。 だが、家に入る前に老医者が耳を貸して欲しいと手招きしたので、君は彼に近付き、彼の背丈に合わせて身を屈めた。 「こちらの患者様は、どうも『妙』なのだ」 老医者の耳打ちに、君もまた耳打ちで何が妙なのか聞き返す。 すると、老医者は言った。 「患者様は健康になったかと思えば、 またすぐに体調を崩して寝込むのを 3日おきに繰り返しておるのだ」 老医者の話によると、この家に住むのは40代の夫婦で、患者は旦那の方なのだが、男は大工をやっており、今まで風邪もひいたことがないほど頑健だったという。 だが、その男が20日ほど前から急に体調を崩し、妻である女が慌てて老医者の元に駆け込んできたようなのだ。 頑丈なのが取り柄だと笑っていた旦那が倒れたとなれば、それは妻も気が気ではなかっただろう。 老医者は、取り乱す女に引っ張られるようにして急ぎ家に向かって寝込んでいる男を診た。 その結果、熱が少々高い以外には特に異常は見当たらず、当時は蒸し暑い日が続いていたこともあり、連日の暑さで疲労が溜まったことでバテてしまったのだろう、と診断した。 そうして老医者は、女にこまめな水分補給と部屋の換気を指示し、男には夏バテに効く薬(漢方薬)を処方したようだ。 [次へ](114) [▶▶気配に気づくかどうかのシーンまで飛ばす](115 "r13:baku03") 114 老医者の見立てどおり、男は3日ほど静養すると前日の様子から見間違えるほどに元気になった。 だが、3日後にまた体調を崩し、再び老医者が診察するも発熱以外に症状もない。 更に、仕事をするしないにも、晴れだろうが雨だろうが関係なく、男はずっと元気な日と寝込む日を繰り返していたようだ。 念のために老医者が知り合いの医者を連れてきて診てもらったが、老医者とまったく同じで「体の異常は見つからない」という結果になった。 老医者は引き続き男の容態を診るために往診はしているが、原因不明の体調変化には、ほとほと手を焼いていたのである。 君は難しい顔でウーンと唸った。 確かに話を聞く限り、例の男の体調変化は、あまりに極端で不自然だ。 それに、定期的というのがどうにも引っ掛かる。 こいつぁ怪異の臭いがプンプンしやがるな。 君は老医者の話に頷いた後、老医者と共に家の前まで行くと、中にいるであろう家の者に声をかけた。 [家の中へ](115) 115 君たちは患者の妻である女に案内され、彼女の旦那が寝込んでいる部屋に通された。 布団に寝かされたガタイの良い日焼けした男は、水を絞った濡れ布を額に乗せ、赤い顔でうんうんと苦しそうに呻きながら寝ている。 疲れた様子の女が見守る中、老医者は男の診察を進めるも、やはり結果は変わらずであった。 一方の君は刀を脇に置いて座り、3人の様子を見ていた訳だが……。 [何か気配を感じる(DEX11以上)](116 "oDEX11") [何か気配を感じる(DEX11以上)](998 "!oDEX11") [気の毒だなと思っていた](123) 116 君は、この家に入った時から『何かの気配』を感じていた。 この家には、夫婦以外の者は住んでおらず、来訪者は老医者と君だけだ。 念のために君は女にも他に誰かいるのかと尋ねてみたが、彼女はきょとんとして「いえ、いーひん(いえ、いません)」と言っていた。 それに、君にはこの『気配』の質というか種類には、どうにも覚えがあった。 君は意識を集中させて、気配の元を辿る。 そして、君自身もまた気配に向かって鋭いプレッシャーを発した、その時である。 ガタン、と。 押し入れの中から急に音が聞こえたのである。 全員の視線が押入れに集中する。 君は神妙な顔で老医者と女を手で制すと、傍に置いた刀を持って立ち上がり、ゆっくりとした足取りで押入れの前へと立った。 誰かいるのか。いるなら名を申せ。 申さねば、斬る。 低声で言い、すらりと刀を抜くと背後から女の短い悲鳴が聞こえたが、それを老医者が宥めかしてくれている。ナイスフォロー。 一方、押入れの中からの返事はない。 だが、確実に変化が『視えた』。先ほどから感じていた『気配』の殺気が増したのだ。 君は油断なく刀を構え、空いた手を押し入れの引き手に掛けると勢いよく${襖|ふすま}を開け放った! [そして、そこに『居た』のは――](117) [▶▶インプ戦まで飛ばす](119 "r13:baku03") 123 君は、うんうんと苦しげに呻いている男と、そんな男を疲れた表情で見ている女を見て、気の毒に思えて仕方がなかった。 だが、こうして外野から様子を見ているだけの君にできることはない。 結局、老医者は今までと変わらぬ漢方薬を処方し、往診の約束をして診療所へ帰ることとなった。 その帰り道、老医者は「一体、何が原因なのだろうなぁ……」と力なく呟いた。 君の先を歩く老医師の背中からは、やるせなさと無力な自分への悔しさが伝わってくるのだった。 その後、診療所に戻ると君は老医師から報酬を貰った。 「君はよく怪我をするからね」と優しい声で言いながら傷薬もくれた老医師の心遣いが、本当にありがたかった。 **★<軟膏>を3個貰った!** ※【使用回数:各1回】蛤の貝殻に入ったHPが10回復する軟膏 [今日の仕事はお終いにする](129) 117 **「ケケケ、バレちゃあしょうがねぇ!」** 甲高い耳障りな声を聞くか聞かないかの速度で、押し入れにいた『そいつ』に向かって刀を突き出した。 だが、『そいつ』は存外小さくて素早く、押し入れから鉄砲弾のように飛び出して君の一太刀を躱すと、天井の隅に張り付いた。 君もまた素早く老医者たち3人を背に庇う。 『そいつ』の全長は、人間の顔より少し大きめといったくらいで、意地の悪い顔で全身が赤黒く、頭髪がない頭にはねじくれた角を生やし、コウモリの翼と長細い矢印のような尻尾を持っていた。 なんと、押し入れに潜んでいたのは、小さな悪魔**『インプ』**であったのだ。 [次へ](118) [▶▶インプ戦まで飛ばす](119 "r13:baku03") 118 恐怖に満ちた悲鳴を上げた女は、白目を剥いて旦那の眠る布団に倒れ込んでしまい、老医者も信じられないものを見たと腰を抜かしている。 君はインプに向かって何の悪事をしていたのかと問うと、インプはケケケと笑って寝ている男を指さした。 「俺様は、そいつから気力を吸っていたのさ! だが、すぐに死んじまったら困るからなぁ、 気力を吸ってて弱ったら、 そいつが回復するまで待ってやって、 んで、それを繰り返してたって訳だ! これぞ生かさず殺さずってな!」 ……ペンタウァにある『盗賊たちの塔』にいたメジャーデーモンもそうだったが、悪魔というやつはよく喋るものなのだろうか。 まあ、聞いたのはこっちだけども。 しかし、これで大工の男の不可解な体調不良の原因が判明したのは確かだ。 君は<王杖の貝殻>に残っていた魔力を使い、3人をギリギリ囲える程度の結界を作り出した。 通話料ならぬ通話魔力は空になってしまうが、また暫くすれば使えるようになるので、(エティスには怒られるかもしれないが)問題はない。 ただ、問題があるとすれば……。 [(ちらっ)](119) 119 「た、田浦くん……君は一体……?」 老医者が困惑した表情で君を見ていたが、君はパチっと片目を瞑って人差し指を口の前に${翳|かざ}す。 『それは秘密です』または『黙っていてちょーだいね』のポーズである。 そんなお茶目な仕草をしてから急に凛とした表情で振り向くと、インプが震える指先で君を指差していた。 「おっ、お前! まさかソーサリアンか!?」 インプは、明らかに「げぇっ」といった表情をして動揺したように叫ぶが、気付くのが遅かったと言わざるを得ない。 君はニヤリと口の端を吊り上げると、インプに斬りかかった。 **戦闘ルール「通常戦闘」** この戦闘では、%red%どの敵から攻撃しても良い。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、ダメージ式ボタンを1回押す。%/% ②%blue%君のHPまたはMPが0まで減らなければ君の勝利。%/% [圧倒的な戦闘力の差でインプを斃した](120) 120 これは果たして戦闘と言えるものであったのであろうか? インプは、そのプライド共々たったの数秒で君に真っ二つにされ、塵となって消え失せたのだ。 ペンタウァでも日本でも強敵を相手にしてきて生き残ってきた君である。 小悪魔程度の"魔"は、しょせん君の敵ではなかったということだ。 さて、その後の話になる。 インプを斃した君は結界を解くと、放心状態の老医者が落ち着いた頃に『自分は先ほどのような魑魅魍魎から日本を救うため、お忍びで異国からやって来たソーサリアンという武芸者であること』を伝えた(ついでに『このことは秘密にしておいて欲しい』とも言い含めておいた)。 落ち着いたと言っても、まだまだ状況が上手く呑み込めていない老医者は、頷くのがやっとといった様子だった。 しかし、そこで急に寝込んでいたはずの旦那が(気絶している奥さんごと)布団を跳ね上げて完全復活を遂げたので、この話は中断した。 吹っ飛ばされた女は、その拍子にたんこぶをこさえて目が覚めたのだが、元気になった夫を見て、抱き着きながら大声で泣いていた。 男も自分の妻を抱きしめて……ってもう、本当にお熱いね! よっ、ラブラブだね!! [とまぁ、こんな感じで一件落着と相成ったのである](121) 121 老医者と君は、夫婦から${薬礼|やくれい}(薬代や診療代として医者に払う謝礼金)を受け取ると、夕餉を馳走したいと言う夫婦のお誘いを「帰るのが遅くなってしまうので」とやんわりと断り、診療所への帰路に就いた。 その道すがら、無言で歩く老医者の背に君がおずおずと声を掛けようとした時である。 「田浦くん」 逆に声を掛けられて、君はギクリと背中を強張らせた。 ……が、君の横へと並んで君を見上げる老医者の表情は、優しい笑みを浮かべていた。 「今日は本当に助かったよ。ありがとう。 『あれ』には少々驚いたけれど、 私も患者様も救ってくれたのは、 田浦くんであることに変わりはないからね。 私はこれからも君を信じているし、 君の目的についても応援しているよ」 老医者は、君との約束を守ってそっと囁くような小さい声で言ってくれた。 慈愛に満ちた老医者の言葉と笑みに、君は目頭と胸が熱くなったのだった。 [それから……](122) 122 診療所に帰った後、老医師からは報酬とは別に夫婦から貰った薬礼と、更に薬も貰ってしまった。 君は流石に報酬が多すぎると断ったのだが、こういう時の爺様は、頑なに意思を曲げない。 地獄の閻魔様もびっくりの頑固っぷりなのである(多分)。 これには君も折れざるを得ない。 君は少し困った顔をしつつも、全ての報酬をありがたく受け取ることにした。 そうして君が観念し、報酬を受け取った時の爺様の表情たるや、それはもうこちらまで頬が緩んでしまうほどに満面の笑みを浮かべていたのだった。 **★<軟膏>を3個貰った!** ※【使用回数:各1回】蛤の貝殻に入ったHPが10回復する軟膏 **★<特製軟膏>を2個貰った!** ※【使用回数:各1回】蛤の貝殻に入ったHPが最大値の半分復する特製の軟膏 **★<気付け薬>を1瓶貰った!** ※【使用回数:1回】HPまたはMPが0になった時に使用すると、 HPまたはMPが1の状態で復活できる薬 (0になった数値を手動で1に修正すること) [今日の仕事はお終いにする](129) 124 事件は急にやって来る。 君は、京の町で何か困っている人がいないかどうか探すため、町中をぶらぶらと歩くことに決めた。 そうやって鴨川に沿って南下していると、何やら言い争う声が聞こえてきた。 見ると人だかりができ始めている。 君はさっと駆け寄ると、声の主を覗き見た。 なんと、大人の男2人と少年1人が言い争っているではないか。 否、言い争いと言うよりも、尻餅をついて何かを必死に隠す町人らしき少年を、柄の悪いゴロツキ2人がイチャモンをつけている、という図に見える。 「おい小僧、俺たちは朝から 何も食ってなくて腹が減ってんだ。 だからよぉ、その籠の中身を ちいっとばかし分けてくれって 言ってるだけなんだぜ?」 「そうだ! アニキがこう言ってるんだ、 さっさと寄越しやがれってんだ!」 「嫌だ! これは神様のもんや!! お前たちなんかにやらん!!」 なるほど、と君は納得する。 どうやらいい歳こいた大人が、子供のお使い物を横取りしようとしている現場に出くわしたようだ。 そうと分かりゃあ、この正義の使者が黙っちゃいねぇ!! 君は勢いよく躍り出て、ゴロツキ2人を制止した。 当たり前のように周囲はどよめき、ゴロツキ2人は「アァ?」と君を睨め付け、少年は目をまん丸くして君を見ていた。 [そんな中で君は胸を張り、声を張り上げる](125) [▶▶報酬を得るシーンまで飛ばす](128 "r14:baku03") 125 **てめぇら! その耳の穴よぉくかっぽじって聞きやがれぃ!! 何をモメてるかと思やぁ、 てめぇらは子供のお使い物を 横取りしようとしてるじゃあねぇか! そんなこたぁ、お天道様(太陽神アポロ様)と この田浦勇之助が許さねぇぜ!!** まるで背景に有名絵師の浮世絵(波のアレ)を背負っているかのように、君はノリにノってべらんめぇ口調で前口上を述べた。 気分は歌舞伎役者か何かである。 そんな突然の乱入者に最初こそは「なんだコイツぁ?」と唖然としていたゴロツキたち。 しかし、何か思い当たったのか、ゴロツキたちはサッと顔色を変えた。 「て、てめぇ…… まさか、**『あの』**田浦かッ!?」 「あの、赤子が泣きゃあ 駆け付けてすぐに泣き止ませ、 犬猫が迷子になりゃあ 草の根分けても探し出し、 大酒を飲みゃあ 所構わず吐きまくるっていう、 **『あの』**田浦なのか!?」 おい、最近は吐いてないし、そもそも、どういう評判が流れてるんだこれ……?? [こんなの絶対おかしいじゃん……](126) [▶▶報酬を得るシーンまで飛ばす](128 "r14:baku03") 126 君はゴロツキが並べ立てた自身の評判に口元をぴくぴくと痙攣させつつ、とりあえず「おそらく、俺がその田浦だ」と言っておいた。 正直者だね。 すると、ゴロツキたちは、自分が並べ立てた評判が別に恐れるものでも何でもないことに気付き、態度を一変させた。 「なーんだ! てめぇ大したことねぇじゃねぇか! 驚いて損しちまったぜ!!」 「おうおう、ガキのしょんべんクセェ げろ吐きお使い野郎はさっさと消えな!!」 2人して君を指差し、下品な声でぎゃはぎゃはと笑うゴロツキたち。 そんな風に無遠慮に爆笑する2人の言葉に、誰がともなく呟いた。 「でも、子守りの田浦はんって言えば、 喧嘩の腕もめっぽう立つゆうて 聞いた覚えあるけどなぁ」 そんなのんびりとした野次馬の誰かの呟きと、君の怒れる拳がゴロツキの顔面に炸裂したのは、ほぼ同時であった。 [江戸(にいた)っ子だからね、喧嘩っ早くても仕方がないよね](127) [▶▶報酬を得るシーンまで飛ばす](128 "r14:baku03") 127 「兄さん、ほんまありがとうな」 君の横を歩く少年は、君を見上げてニッと笑みを浮かべながら何度目かになる礼を言ってきた。 君は相好を崩すと、少年の頭を優しく撫でてやる。 この少年は、町中でゴロツキに絡まれていたところを助けた、あの少年のことである。 あの時、君はゴロツキ2人を懲らしめて追い払った後、少年の事情と目的地を聞いて、一緒に行こうと提案したのだ。 少年はお金を持っていないとオロオロしていたが、君が「行く方向が一緒だからお金はいらない」と言うと、少年は安堵して君と一緒に行きたいとお願いした……という訳だ。 少年の目的地は、『${稲荷御旅所|いなりおたびしょ}(伏見稲荷大社)』だという。 君は少年と一緒に目的地を目指して歩いてゆくのだった。 [次へ](128) 128 『稲荷御旅所』に到着した君と少年は、そこから更に登って『${熊鷹社|くまたかしゃ}』を参拝した。 熊鷹社は、行方不明となった者を捜す際の手掛かりを得られるという言い伝えがある。 また、必勝祈願や商売繁盛といったご利益もあると少年に教えてもらった。 実はこの少年、あのうどん屋の一人息子なのである。 今回は商売繁盛の御利益を授かろうと、ゴロツキから死守した稲荷寿司をお供えして参拝したという訳だ。 いつもは少年の母親が参拝しているらしいが、今日は店が忙しかったようで、少年が代わりに参拝することになったのだとか。 用事も無事に終わり、あとは帰るのみである。 また少年がゴロツキに絡まれないように、君は少年をうどん屋まで送り届けるつもりでいた。 はしゃいで元来た道を下りてゆく少年を、危ないぞ~と追いかけようとした時。 『よくぞ童を此処まで連れてきてくれた…… ささやかながら褒美を授けよう…… 受け取るがよい、異国の武芸者よ……』 君は驚いて振り返った。が、其処には熊鷹社の社殿があるだけで誰もいなければ、何の気配もない。 気のせいかと首を傾げた君だったが、懐に違和感があり、手を突っ込んでみる。 すると、入れた覚えのない巾着が入っており、中を覗くと、なんと<七惑星の欠片>がじゃらじゃらと入っているではないか! これは神様からのプレゼントに違いない。 君はそう確信し、社殿に向かって頭を下げると、先を行く少年を慌てて追いかけるのだった。 **★<七惑星の欠片>を全種類2個ずつ授かった!** [今日の仕事はお終いにする](129) 129 日が暮れようとしている。 君は今、活動拠点としている旅籠屋の入り口前に着いたところだ。 そこで、編み笠を目深に被った襟巻男から擦れ違いざまに手紙を受け取った。 何となくピンときた方もいらっしゃるとは思うが、そう、変装した土方歳三からの手紙である。 土方は、その美丈夫っぷりや、新選組副長と言う立場から非常に目立つ。 その上、非常に多忙なため、伝えたい内容が主に報告であれば、こうして手紙で情報交換することも多いのだ。 此処は、旅籠屋の一室。 君は${行燈|あんどん}の柔らかで仄かな光の中で胡坐をかき、手に持った分厚い手紙に向かって呪文を呟いた。 すると、手紙に文字が浮き上がり、その内容が読めるようになった。 これは"魔"への情報漏えいを防ぐために採用しているペンタウァの技術の一つなのだ。 さて、手紙に書かれている内容は、主に"魔"関連のことだ。 ![和室(夜間)](baku03-05.png) [人喰い獣について確認する](130) [不可思議な報告について確認する](131) [消えた<黒真珠>について確認する](132) [確認を終えた](133 "f09") [▶▶ミノタウロス戦まで飛ばす](82 "r15:baku03|r16:baku03") 130 **【人喰い獣について】** 人喰い獣の被害は、新選組が把握してる限り一ヶ月前から出始めたようだ。 尋常ならざる殺害方法。それと現場に残された獣臭という異常性から、土方は一連の事件を"魔"の仕業だと睨んでいるらしい。 既に新選組の隊士も犠牲になっており、警戒網を強めて巡察には腕利きの各組長も投入されているそうだ。 だがしかし、この事件も京の町で起こっている数々の事件の一つに過ぎない。 悔しいことに、いまだ敵の正体は掴めずじまいだそうだ。 ただ、今回新たに『現場から屋根を飛び越えて去る影が大男のようにも見えた』だとか、『人のような言葉が聞こえた』など、今までにはなかった情報が掴めたのは、収穫と言ってもいいだろう。 [他の内容を確認する](129) 131 **【不可思議な報告について】** ここのところ、京の町では人喰い獣の被害ばかりが目立っているが、実はこの一、二年の間に『物が勝手に動く』とか『土蔵から変な声が聞こえる』などの不可思議な報告も度々上がっていた。 大体は当事者が寺や神社に相談し、必要に応じて対象物の供養やお祓いをしてもらうなど、各々で対処しているのだとか。 しかし、中には専門家でも原因不明、もしくはお手上げの場合もあるらしい。 そういう時、土方が出向いては「でかい鼠がいただけだ」だとか「どうやら勘違いだったようだぜ」といった具合に新選組で報告していた。 だが、実際のところは、下位の"魔"だとか、"魔"に影響された悪霊を『成敗』していたらしい。 少しずつ、しかし確実に"魔"がこの京をも蝕み始めているということなのだろう。 [他の内容を確認する](129) 132 **【消えた黒真珠について】** この件に関しては、残念ながら進展は特になし、ということだった。 <黒真珠>に関しては、君もこれまでの旅で探してはいたが、今のところ有益な情報もなければ、<黒真珠>が見つかってもいない。 それは土方にしても、遠方で情報収集をしている政四郎やエティスにしても同じだった。 歯痒い思いをしているのは、皆同じといったところか。 しかし、強大な力は、あらゆるものを魅了し、次々と災厄を引き寄せるものだ。 京の町の治安が悪化し、"魔"の気配も増していることからも、まったくの無関係とは思えないのだが……。 [他の内容を確認する](129) 133 よし、確認できた。 君は手紙の内容を記憶に刻み込み終えると、手紙を畳んでもう一度呪文を唱えた。 すると、今度は文字が見る見る内に消えてゆき、元の真っ白な手紙になった。 念のためにもう一度中を開いてみて確認するが、うむ、ばっちり消えている。 君は荷物の中に手紙を仕舞いこむと、行燈の明かりを消して布団に横たわった。 多忙であるにもかかわらず、手紙に情報をまとめてくれた土方に感謝しつつ、君は眠りにつくのだった。 サンキュー土方さん……むにゃむにゃ……。 [それから日が過ぎてゆき……](134) 134 深夜。田浦勇之助である君は、旅籠屋からこっそりと抜け出すと、提灯を畳んだ状態で懐に忍ばせたまま物陰に身を隠しつつ、京の町を調査し始めた。 今日の夜風はゆるりと吹き、夜空に浮かぶ月も星々も穏やかな光を放っている。 とはいえ、月明かりだけでは心許ない。 そこでペンタウァから隠し持ってきた『魔力灯』の出番である。 <魔力灯>とは、書いて字の如く魔力を燃料にして発光する魔石を、携帯用に加工を施したカンテラのようなものである(金属の台座に魔石が嵌められるようになっており、台座に付いた取手を持ったり、紐やベルトを通して腰元に括り付けたりして使う)。 魔石に込められた魔力が尽きれば灯りは消えるが、魔力を充填してやれば繰り返し使えるようになる。 今より未来の世界で言うところの、${エコロジーなアイテム|環境に優しい道具}という訳だ。 ちなみに、提灯を携帯しているのは、万が一、町人と出くわした時に<魔力灯>を提灯に放り込んで、提灯ぶらぶら足下ふらふらと酔っ払いのフリをするためだ。 その内に酔っ払いに定評のあるソーサリアンとか言われないか心配になるが、まあ、その時はその時である。 こんな時間に出歩くのは、全身で「わたしは ふしんしゃ です」と言っているようなものだが、例の人喰い獣とやらが出現するのは決まって夜だというのだから、不審者モード全開でも仕方がない。 そんな風に君が吹っ切れながら人気のない裏道を歩いていた、その時である。 男の悲鳴が聞こえた。場所は……近い! 君は懐から出した提灯に<魔力灯>の魔石をセットしつつ、悲鳴を上げた主の元へと駆け出した。 [急げ!!](135) [▶▶ミノタウロス戦まで飛ばす](82 "f14&r16:baku03") 135 袴を穿き、わらじを履いて此処まで速く走るのは、本当に久しぶりだった。 それほどまでに、最近の町人としての生活は、ペンタウァでは戦い続きだった君にとって平和とも言える日々だったのだ。 だが、視線を${一度|ひとたび}外へと向ければ、そこは人斬りが横行し、"魔"の影がちらつく治安が悪い京である。 平和なひとときが終わるのは、刹那と言えるほど僅かな時で十分なのだと、そう痛いほどに思い知らされる。 狭苦しい路地裏を駆けている君は、鼻腔に入り込んだ異臭に表情を更に険しくする。 風に乗って流れてきたのは、生温かさすらも伝わってきそうなほどの血の臭いだった。 それと、何やら言い争う声も聞こえるが、男の怒鳴り声は聞き取れるものの、あとは牛が複数鳴いてでもいるかのような低い音がして、どういう状況なのか分からない。 しかし、この血臭である。 少なくとも怪我人か死人が出ている状況ではあるようだ。 怪我人か、死人。 己の嫌な予感に胸の鼓動が速まるのを感じる。 人気のない裏路地を走った。突き進むほどに血臭が濃厚になり、異常性が増してくる。 殺気立った空間が作り出す異質な雰囲気というものは、ペンタウァでも日本でも変わらない。 路地裏の終わりが見えて、君は地面の擦れる音を最小限にして動きを止めた。 救える者がいれば救いたい、と早る気持ちもあるが、今自分が置かれている状況が分からない中で、急に飛び出すのはとても危険だからだ。 心臓が胸の内側を激しく打ち、全身に汗が滲んでいる。 君は呼吸音を限りなく抑え込みながら、刀に手を伸ばして鯉口を切った。これならいつでも斬り込める。 此処までくれば、耳を澄ませる必要もない。 男の怒号も鮮明に聞こえ、その悲痛さすらも感じさせる必死な声は、然りに相手の静止を訴えている。 君は、この路地裏の先にあるものを見定めようと、そっと様子を伺った。 [一体どうなっている……?](136) [▶▶ミノタウロス戦まで飛ばす](82 "f14&r16:baku03") 136 其処は路地裏を抜けた行き止まり。 地面は真っ赤に染まり、夜空に浮かぶ月の光が反射して、濡れた深紅がテラテラと不気味な輝きを放っている。 月明かりの下に晒されたのは、異様な光景だった。 頭のない人間の遺体と、人体の一部が幾つか血の池に沈んでいる。 着物と思しき布は赤黒く血で染まっているからか、全てが鮮明に見えた訳ではないが、ダンダラ模様の白い三角のように見える。 浅葱色したダンダラ羽織と言えば新選組だ。 それが血の池に沈んでいる。 ……つまりは。 ぞるり、と。君の中で殺気が首をもたげた。 だが、君の中にある戦人としての経験が、怒りで波立つ心を${諫|いさ}める(良くないことだと忠告する)。 その中で、顔はよく見えないが武士らしき男と――頭は牛、上体は筋肉質な人間の男、下肢は2足直立の牛という巨大な獣人が対峙していた。 獣人は、その特徴から見てミノタウロスで間違いない。 屈強な肉体を持ったミノタウロスは、全身が血に塗れているが、血に染まった口元から赤い涎が垂れているのを見るに、おそらく人を喰らったのだ。 [次へ](82) 137 ミノタウロスとの激闘を繰り広げていた君は、その疲れからか一瞬判断が遅れた。 瀕死であるはずのミノタウロスが斧を振りかぶろうとしたのだ。 だが、何処からともなく飛来した『何か』がミノタウロスの目に突き刺さり、ミノタウロスは絶叫して怯んだ。 その姿を見れば、血を流すミノタウロスの片目には、深々と苦無が刺さっていたのだった。 ミノタウロスは、苦無が刺さったまま民家の屋根を飛び越え、あっという間に逃げ去ってしまった。 君は奥歯を強く噛み締めながらミノタウロスが消えた先を見つめていたが、苦無のことを思い出して辺りを見回した。 すると、建物の物陰から人影が姿を現した。 否、影ではない。一見すると浪人に見える暗色の着物を着ているから、逆光も影響して影のように見えたのだ。 「安心召されよ、田浦殿。 私は土方副長から君への協力を頼まれている者だ。 さあ、急がないと新選組の隊士が来てしまう。 この場は私に任せてもらって問題はない。 君は来た道を辿り、早急に旅籠屋へ戻るのだ」 予想外の見知らぬ助っ人登場に一瞬気遅れした君だが、彼が土方の名を出したこと、それから、まだ名乗ってもいないのに田浦と言い当てたことから、彼の言葉を信用した。 確かに、新選組隊士の遺体が倒れている現場で、一般人に扮した自分が新選組に見つかったら、どうなるか分からない。 この謎の助っ人の証言があれば、もしかしたら土方歳三に便宜を図ってもらえるかもしれないが、助っ人の彼は君に逃亡を推奨している。 つまりは、君が此処にいない方が後処理が楽ということに他ならない。 決断までの時間、およそ3秒。 急ぎ納刀した君は謎の助っ人に礼を言うと、足を地面に強く擦りつけた後、全速力で来た道を駆けて旅籠屋へと戻るのだった。 [夜が明けて……](138) 138 ![和室(昼間)](baku03-03.png) 翌朝……というには、やや遅い時間だろうか。 昨夜の疲れが残っていたからなのか、少し寝坊をしてしまったらしい。 君が気だるげに布団から起き上がった時だった。 旅籠屋の主人に部屋の外から声を掛けられたのだ。 どうやら君に用事があるという男が来たらしい。 君が下の階に下りてゆくと、入口に見知った顔の男がいた。 昨夜、君に逃亡を促した男である。 君は急いで入口まで下りると、男に向かってお礼を言おうと口を開きかける。 が、男が先に「これ、預かり物どす」と言って手紙を渡してきた。 昨日と口調が違う。おそらくわざと変えているのだろう。 そう考えると、どうやら今は、彼にあれこれと聞いても良いというタイミングではないらしい。 男の意図を察した君は、微笑を浮かべて会釈する。 どうやら君が意図を察してくれたらしいことが分かった男は、口元をほんの僅かに緩めて頷いた。 「ほな、ごめんやす(では、失礼します)」 男はそう挨拶すると、旅籠屋から去っていった。 君は君で、受け取った手紙の中身を確認するため、部屋へと戻るのだった。 [部屋に戻る](139) 139 部屋に戻り、いつもの手順で文字を浮き上がらせてから手紙を開いた。 昨夜の男が持ってきた手紙だからと予想はついていたが、やはり土方からの手紙であった。 手紙には、昨夜のミノタウロスによる新選組隊士惨殺事件について書かれている。 君は昨夜のことを思い出して苦い顔をしながら文面を読み進めていた。 ……が、君にとって驚くべきことが書いている箇所に目が留まり、心臓が跳ね上がった。 以下は、君がミノタウロスと戦い、浪人に扮した男――彼もまた新選組隊士で、${山崎烝|やまざき すすむ}という名前らしい――に逃亡を促された後の話になる。 君が旅籠屋へ向かった後、山崎は急ぎ新選組の仲間を呼びに戻り、現場に駆け付けた隊士たちと共に後処理をしたようだ。 ミノタウロスに殺された仲間の遺体は、新選組で持ち帰り、寺で手厚く埋葬してもらったと書いてあり、君は少しだけ救われたような気がした。 さて、問題はその後処理をしていた時のことだ。 ミノタウロスが暴れた現場の周囲を巡回していた隊士が、血塗れで倒れている男を一人発見していた。 いかにも浪人といった風体の男は既に死亡しており、事情を聴けるような状態ではなかった。 だが山崎の話によると、男の体についた刀傷が君がミノタウロスに切り付けた場所と一致し、更には山崎がミノタウロスに投げた苦無が、どういうことか男の手に握られていたというのだ。 しかも、男の周囲には獣毛が散乱し、酷い獣臭がしたらしい。 その報告を山崎から聞いた土方は、男の正体が――否、ミノタウロスの正体がその男であると判断し、山崎とも意見が一致したようだ。 [次へ](140) 141 此処は、三条大橋の上。 昨晩のこともあり、今日はあまり目立たぬよう仕事も休みにしていた。 情報収集に勤しみつつ、今は休憩がてら欄干にもたれかかっていたという訳だ。 行き交う人々の話し声や歩く音に埋もれていた、鴨川から聴こえるせせらぎが耳に優しい。 ほぅ、と一息つき、そのまま川の流れを眺めていた時だ。 橋の下にふと視線を感じて目をこらすと、そこにほっかむりをした男がムシロの上に座っているのが見えた。 この国に来てから何度か目にした特長から、男が物乞いだとすぐに判った。 ペンタウァでも物乞いはいる。見た目こそ違えど、雰囲気というものは共通しているものだ。 君は特に関心もなく、物乞いから視線を外した。 ……のだが、視界の端に捉えた気配に、反射的に男へと向き直った。 視線がかち合った。男は目を見開いており、こちらにはそれが驚いた表情にも見えたのだ。 [次へ](142) 140 しかし、手紙に羅列されていた情報の中に男の容姿や服装といったものも含まれており、その情報を目で追う内に、山崎も土方も気付いていないことを君だけが気付き、驚愕した。 何故ならその男は、君が上洛したその日に立ち寄ったうどん屋で見た、訛りの酷い酔っ払い浪人だったというのだから。 その後の調べで、この男は京の町に潜伏していた長州藩の者だと判明したらしい。 君が聞いたという酷い訛りというのも、長州者が使う言葉(今でいうところの山口弁)であると分かれば納得である。 ちなみに、この隊士惨殺事件は『男が人喰い獣を仕立て上げて及んだ犯行』として処理され、瓦版でもそう書かれた。 山崎と土方があえて真実を伏せたからだ。 それもそうだろう。土方以外の者に此度の件を正直に伝えたところで、到底信じてなどもらえるはずがない。 男がミノタウロスの姿のまま死んでいれば、万が一にも証拠になった可能性もあるが、実際に死んでいたのは人間なのだ。 だから、たとえ正直に『牛頭の巨人が仲間を殺した』と証言したとしても、虚言だと一蹴されてしまったに違いない。 ……なるほど、懸命な判断である。 君は一人頷き、手紙をしたためてくれた土方と、後処理を引き受けて手紙を届けてくれた山崎に感謝した。 それから手紙の文字を消し去って荷物に仕舞い込んだ後、君は今度こそ町中へと出かけた。 [町へ出る](141) 142 君は視線がかち合ったことに気まずさを感じ、片手をそろりと顔の横まで上げて誤魔化した。挨拶である。 すると、男の方も後頭部に片手を添えて、上目がちに挨拶してくれた。 これも何かの縁だろうか? 君は橋の下に降り、情報収集がてら男に話しかけることにした。 まずは、男の前に置かれた裏返しの編笠の中へと、ちゃりん、と音を立てて銭を入れる。 「ありがとーごぜーます、旦那さん」 男が平伏して礼を言うと、君はまあまあそれくらいで、といった具合に片手で制した。 それから、二、三聞きたいことがあると言うと、男はへこへこと小首を揺らして了承した。 [人喰い獣について聞いてみる](143) [池田屋事件について聞いてみる](144) [うどん屋の猫について聞いてみる](145 "r02:baku03") [ありがとう、もう充分だ](146 "f16|f17|f18") 143 君は男に『人喰い獣について』聞いてみた。 すると、男はぎょっとしたのか大きく目を見開いていたが、それも一瞬のことで、すぐに微笑を浮かべた。 「へぇ、実はあっしも 化け物に襲われたことがあるんでさぁ。 あっしもあの時ばかりは、 お陀仏かと思いましたよ」 男は冗談めかしたように、両手をすり合わせて念仏を唱えるふりをした。 だが、急に男は片手の人差し指をピンと立てると、今度は打って変わって不敵な笑みを作った。 「こりゃ絶体絶命だと思ったその時、 渡りに船って言うんでしょうかね、 なんと助けが入ったんでさぁ。 本当にありがてぇ話ですよ。 あっしは物乞いなんぞやってやすが、 それでもまだ死にたかーねぇですし、 獣の餌になるなんざ、 死んでも死にきれねぇ」 まっぴらごめんだよ、とでも言うように、男は肩をすくめて両手をひらひらと払った。 なかなか話が上手いなぁ、と君は感心する。 それに、この男はあのミノタウロスに遭遇したというのに、助けが現れたりしてミノタウロスから逃げおおせたというのだ。 なんとも運がいい。 しかし、その助けに入った者は、果たして無事なのだろうか? 君はそんなことを思いつつ、男の救世主たる者の無事を……って、あれ? そういえば、似たようなことがあったような……? [他の話も聞いてみる](142) 144 君は男が『池田屋事件』についてどう思っているか聞いてみた。 すると、途端に男は不機嫌そうな顔になり、君から顔を逸らした。 「さぁ……あっしはただの物乞いですからねぇ、 お侍様のやるこたぁ難しくて、 よぉ分からねぇですよ」 先ほどよりも低い声で話す男の横顔も、その言い方と同じく何処かひねくれているように感じられた。 だが、その表情からふっと感情が消えた……ように見えたのは、気のせいだろうか。 君がそんなことを考えていると、男は自分の足下に視線を落したまま口を開いた。 「……ただ、あれには 多くの人死にが出やしたからねぇ、 あっしが思うに、長州のお侍様、 今頃おかんむりかもしれやせんぜ」 何故そう思う、と君が問うと、男は肩を揺らしてくつくつと笑った。 否、嗤ったのかもしれない。 「そりゃあ、誰だって 仲間を殺されたら怒りやす。 何もおかしくはない話ですぜ」 そう言って君の方へと振り向いた男は、表情こそ爽やかな笑みを形作っていたが、君にはその笑みが何処か歪なものに見えたのだった。 [他の話も聞いてみる](142) 145 もしかしたら、この男は『うどん屋の猫について』何か知っているだろうか? 君は期待に胸を膨らませながら、思い切って男に聞いてみた。 だが、君の期待もむなしく、男はただ唖然として君の意図を計りかねているようだった。 「はぁ、あのうどん屋に猫ですかい……? すんません、あっしはそんな猫を 見た覚えはありませんねぇ……」 男の返答を聞いた瞬間、君のテンションは水が足りない花の如く、しおしおと${萎|しお}れてしまった。 そんな君のガッカリングな様子に、男は黒く汚れた頬をぽりぽりと掻きながらすまなさそうに謝る……が、そこで男は思い出したように「あっ」と声を上げた。 「そういえば、猫は見たことねぇですが、 うどん屋の入り口でやけに人懐っこい顔の 色男がしゃがみ込んでいたのは、 何回か見た覚えがありやした。 まあ、旦那さんが探してる猫と その色男が関係あるかどうかは、 あっしも分からねぇですけど……」 君は思わぬ新情報に、それこそ猫のように目を光らせた。 萎れていたかと思えば、今度は水を得た花のようにシャキンとする。 テンションの上がり下がりが激しい君に、男は困惑していたようだったが、思案に忙しい君に彼の戸惑いは伝わらなかった。 ぬーん、人懐っこい顔の色男かぁ……。 この京での人探しは何とも骨が折れそうな予感がするが、いつか会えたら猫のことを聞いてみよう。そうしよう。 [他の話も聞いてみる](142) 146 男から話を聞いた君は、礼を言ってその場から去ろうとしたのだが、それを男が引き留めた。 「あっ、旦那さん。 こんな物乞いなんぞの与太話を 聞いてくれたお礼に、 へへ、こいつを持っていってくだせぇ。 あっしがまだ『こうなっていない頃』に 描いた絵でしてね、 金になる訳じゃあねぇですが、 見てりゃあ幾分か気分も晴れやしょう」 そう言って男は、手のひら大に畳まれた和紙を君に差し出した。 君は振り返って和紙を受け取り、軽い音を立てて和紙を開いてみる。そこには墨で盃と徳利が描かれていた。 筆で描かれた線の強弱が温かみを感じさせる。愛嬌のある絵というのが第一印象だった。 だが、そこに添えられた言葉に君は思わず息を詰まらせた。 酒を飲みすぎないように気をつけてください、とあるのだ。 「はは、さては旦那さん。 酒でやらかしたことがおありですね? 実は、あっしの顔見知りも 大層な酒好きでしてねぇ、 酔ってぶっ倒れては、 目を回してたんでさぁ。 そいつぁいけねぇってんで、 この絵を昔に描いたんですが…… とうとう渡しそびれちまったなァ……」 先ほどまで楽しげに笑っていた男は、ふっと寂し気な顔をした。 本当に墨絵を貰っても良いのかと君が尋ねると、男は「ええ、構やしません。今は旦那さんに持っていてもらいたい気分なんですよ」と微笑していた。 君は男に礼を言い、墨絵を貰うことにした。 **★<墨絵>を貰った!** [次へ](147) 147 「……ねぇ、旦那さん」 君が<墨絵>を畳もうとした時、男が君に声をかけた。 「牛頭の怪物に遭うことがあれば、 試しにその絵を見せつけてみてくだせぇ。 もしも……怪物にほんの少しでも "心"があれば…… その絵が魔除けの代わりくらいには なるかもしれやせんので……」 男にそう言われ、君は持っている<墨絵>を改めてまじまじと見てみた。 あの狂暴なミノタウロスが他にもいるとして、果たして本当に魔除けのような効果を発揮するのだろうか? 男には悪いが、別に<墨絵>からは特別な力も感じないし、半信半疑というのが正直なところだ。 ――だが、君の腕を両手でぎゅっと掴み、君の瞳をじっと見つめてくる男の表情は真剣みを帯びていて、とても冗談を言っているようには見えない。 それに、男の揺れる双眸は、まるで縋っているようにも見えたのだ。 君が男に「分かった、そうしてみるよ」と言うと、男は安堵したように表情を緩めて、君の腕を放した。 <墨絵>を丁寧に畳み、そっと大切に懐の中に仕舞った君は、改めて男に向かって深々と礼をすると、踵を返して歩き始めた。 「『あの日』の君よ、生き延びろよ……」 遠ざかる君の背に向けて、男は君の無事を祈る。 その口調は、彼本来のものであるかのように自然なものであった。 [元治元年6月下旬になり……](148) 148 『池田屋事件』により多くの尊王攘夷の同志が命を落とした長州藩。 この事件を受け、長州藩の内部では、特に武力による解決を推進する急進派の藩士たちの怒りが爆発した。 そんな彼らを諫めていたのが慎重派の藩士たちであったが、『八月十八日の政変』で地に落ちた名誉を回復するため武力を以て立ち上がった者たちの暴走は、ついぞ止めることは叶わなかった。 こうして、長州藩の急進派が挙兵し、京の町を目指して進軍を始めたのである。 元治元年、然る6月下旬。 京都守護職である松平容保の命により、新選組は伏見方面の九条河原で陣を構え、待機していた。 長州藩の軍勢を警戒したからである。 例にもれず、新選組の副長である土方歳三も、局長の近藤勇や仲間たちと共に出動し、今は伏見方面にいる。 その代わりに、一武芸者として京の町で活動していた君は、これまでと変わらず、京の町のある旅籠屋を拠点として来たるべき日に備えていた。 [次へ](149) 149 土方が伏見方面の九条河原へ出動する前日、町の旅籠屋にいる君を訪ねてきた。 その時のことだ。彼は君にこう言ったのである。 『万が一、"魔"が町に襲来したとなれば、 町にいるソーサリアンのお前が頼りだ。 できれば俺も加勢してぇところだが、 俺はこの一件で新選組の指揮官を任せられてる身だ、 勝手は許されねぇ。 だからよ、町で何かあった時は、頼む』 多くの者に恐れられている鬼の副長と呼ばれた男は、君に深々と頭を下げた。 その所作に屈辱や侮蔑といったものは欠片もない。 ペンタウァでも、そして海上や江戸でも勇敢に"魔"と戦い、生き抜いてきた君を信じ、想いを託したのである。 君の返事は、言うまでもないだろう。 %blue%**▲時間経過によりHPとMPが全回復した!**%/% [元治元年7月19日へ……](150) 150 ![和室(昼間)](baku03-03.png) 元治元年7月19日。 新選組が伏見方面の九条河原に待機していた頃、君は旅籠屋の一室で入念に刀の手入れをしていた。 刃渡り二尺三寸(約70cm)の打刀で、無銘。 日本上陸後に政四郎から貰い受けた刀だが、彼曰く、かつて大坂城の金庫に隠されていた『ムラサメブレード』を模して、倭の一族の末裔が打ったという、言わば${複製品|レプリカ}らしい。 その素材にはペンタウァから持ち込まれていた金属も使われているようだが、当時の資料が現存しておらず、詳細は謎に包まれている。 ようやく刀の手入れが終わり、外していた刀身と柄を元に戻した後、慎重に且つ一息に納刀した。 そして、鞘に収まった刀を横にして持って一礼し終えた、その時だ。 聞き覚えのある声に呼ばれた気がした。 君ははっとして、部屋の障子を開けて顔を外へと覗かせると、旅籠屋の外の道に武装した男が1人立っており、2階の部屋にいるこちらを見上げていた。 男は声を発さず、口だけをゆっくりめに動かしている。 君は男の意図を察した。その口の動きから、内容を読み解く。${読唇術|どくしんじゅつ}である。 『御所に強力な"魔"の気配有り 至急 御所に向かわれたし 政四郎』 男は変装した政四郎であり、内容は火急の知らせであった。 君の本来の目的は、"魔"将軍や"魔"将軍配下と接触し次第、様々な情報を引き出し、滅することである。 ならば、行かねばならぬ。 君は手入れが済んだばかりの刀を腰に${佩刀|はいとう}すると、部屋の窓から外へと勢いよく飛び降りた。 [次へ](151) 151 部屋から飛び降りた君は、危なげなく慣れた様子で道の上に着地する。 その場で立ち上がると、ぬるりとした気色の悪い風が全身を撫でた。 微かな血臭と硝煙の臭いが風に混ざって中空をうねる様に、この町で戦が行われていることを改めて実感する。 「お久しぶりです、田浦殿!」と武装した政四郎が言った。 君もあまりの嬉しさに顔を輝かせて彼に挨拶した。 政四郎は、長らく各地を旅して情報収集をしていたので、久方ぶりの政四郎との再会に胸が熱くなったのだ。 だが、状況は君たちが互いの無事を喜び合う時間を待ってくれるほどの余裕を許してはくれない。 君はすぐに気を引き締め、政四郎の次の言葉を待った。 「近況ですが、長州藩の大軍勢が御所へ押し掛け、 各御門の守護にあたっている藩士たちが 長州藩の侵入を防いでいます。 しかし、先ほど御所を中心にただならぬ"魔"の気配が 生まれたのです。 どうもそれが切っ掛けであったのか、 町中に下位の魔族が一斉に現れ、暴れています。 これら一連の怪異は、おそらく"魔"の中でも上位の存在、 "魔"将軍の仕業でしょう」 政四郎の話によると、長州藩の志士が幾つもの軍団に分かれて、御所に通じる各門に攻め入っているのだという。 一つの軍に200人以上いるようで、警護にあたっている会津藩などが長州藩を何とか押し止めているらしい。 しかし、中でも**『${来島又兵衛|きじま またべえ}』**率いる来島隊が集結している『${蛤|はまぐり}御門』の前は、まさに一触即発の状態だという。 更には、今まで目立って姿を見せなかった"魔"が、ここにきて急に町中に出現し始めたと言うのだから、何とも間が悪い。 御所に入ろうと威圧を掛け続ける長州藩の軍勢に、突如御所内に生じた上位魔族と思われる"魔"の気配と、それに追随するように町中で暴れる下位魔族と中位魔族。 此度の騒動と"魔"にどんな因果関係があるのかは定かではないが、戦禍によって引き起こされた混乱に乗じ、悪事を働くのは、いつの時代も悪い輩の常套手段だ。 「こちらです!」と先導する政四郎の背を追い、君は戦場と化した御所へ走った。 [御所へ急げ!](99) 99 君と政四郎は御所に向かってひたすら駆けた。 京の町に入り込んでいた"魔"がほんの僅かな間に活発化し始めたのか、町のあちらこちらで人々が悲鳴を上げて逃げ惑っている。 戦える者は、刀に槍といった武器に、更には角材、木の棒、小石といった物まで持ち出して、武士も一般人も関係なく、突如表舞台に現れた"魔"と交戦していた。 君と政四郎も駆け抜けつつも、目の前で危険に晒された者を助け、加勢し、"魔"を蹴散らしてゆく。 そんな君たちの行手を阻むように下位、中位の"魔"が押し寄せるも、君は走り抜けざまに一刀の元に斬り捨て、政四郎は苦無で正確に"魔"の急所を穿ち、逆手持ちの忍刀で音もなく仕留めていった。 下位、中位の"魔"は、君たちの実力からすれば、そこまで恐れるものでもない。 だが、どんなに実力が劣る"魔"であろうと、純粋に数で圧されている状況というのも好ましくはないと言える。 頻繁に行動を中断させられていては、思ったように先へと進めないのだ。 **戦闘ルール「通常戦闘」** この戦闘では、%red%どの敵から攻撃しても良い。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、ダメージ式ボタンを1回押す。%/% ②%blue%君のHPまたはMPが0まで減らなければ君の勝利。%/% [御所はもう目と鼻の先だというのに……!](100) [君のHPまたはMPが0になった](101 "f06") [君のHPまたはMPが0になった](152 "f13") 100 思った以上の激しい妨害を受け、君の中で焦燥感による苛立ちが強く募り始めた頃、並走している政四郎が言った。 「事は一刻を争います。 此処は私ども倭の一族に任せて、 貴方は御所に急いでください」 君が驚いて政四郎の方を見ると、彼は一瞬だけ視線を合わせて微笑すると、すぐに表情を引き締めて足を止めた。 わらじが土を削る音も最小限で、彼が実力者であることを改めて意識させられる。 君も思わず走る速度を緩めそうになったが、君の行手を阻む"魔"が、方々から投げられた苦無と手裏剣によって仕留められたのを見て、『事情』を察した。 つい、と視線だけを動かすと、大工姿の者が屋根の上に、博徒風の者が路地裏に、女中姿の者が店の中に。 その全員が全員、君に視線を向け、そして姿を消した。己の使命を全うするために。 そう、此処には政四郎だけではなく、彼の配下である仲間たちも駆けつけてくれていたのだ。 流石にここまでお膳立てしてもらったのだ。 最早、問答など無用であった。 君は振り向かないまま手を振ると、疾走を更に速め、一直線に御所まで駆けていった。 [御所まで駆け抜けろ!!](153) 153 御所周辺では、既に会津藩、筑前藩、桑名藩などの御所を守護する藩兵と、長州藩の複数に分かれた部隊とが戦いが始まっていた。 君は敵味方の攻撃が入り乱れる中、みねうちや体術を駆使して御所へと迫る。 その最中、生温く血生臭い風に混ざった火薬の臭いが鼻を衝き、君は反射的に身構えた。 そして、一発の砲撃による轟音が御所周辺に響き渡った。 この、多くの人々がひしめき合って戦う空間で、たった一発の砲声が他を圧倒するほどの存在感を放っていたのだ。 だが次の瞬間、君はその妙な存在感の理由を思い知ることとなった。 [次へ](154) 156 蛤御門に向かった君を待ち受けていたのは、戦国時代の武将もかくやと言わんばかりの立派な甲冑と陣羽織を身に纏った男だった。 男は不敵な笑みを浮かべて君を真っ直ぐに睨み付けている。だが、その姿は普通ではない。 門前で身の丈をゆうに超える巨大なハルバード(先端に斧の形をした刃を持つ長槍)を柄頭を地面についた状態で持っているが、それを片手で軽々と支えているのがあまりにも異様だった。 人間であれば、支えるどころか持ち上げることすら不可能と思える、それほど巨大なハルバードだったのだから。 「必ずや来ると思うちょったぞ、ソーサリアンとやら! ワシの名は、**『${来島又兵衛|きじま またべえ}』**! 故あって、お前をこの**『魔空間』**で待っちょった!」 この異様な空間は、『魔空間』というのか。 君は来島から目を離さぬまま、突如展開された結界が"魔"由来のものと知り、納得する。 だが、何故この男が"魔"と繋がっているのか。 そして、変化している自分のことを何故ソーサリアンと名指しできたのか。 君の中に疑問が浮かび、問いただそうとするが、その前に来島の身に変化が起こった。 空間に突如浮かび上がった黒い霧が来島の全身を包み込むと、黒い霧が見る見るうちに膨張する。 鼓膜を突き破らんばかりに空気を震撼させる獣の雄叫びが辺りに響き渡ると、膨張し切った黒い霧が弾け飛んだ。 君は目の前に再び現れた来島の姿に驚愕し、くわっと目を見開く。 人ではなく牛頭の巨人が君の行く手を遮っていたのだ。 [此処でもまたミノタウロスが……!?](157) 157 「ぐはは! ワシの姿にたまげて声も出んか! こいつはな、大昔お前たちソーサリアンに殺され、 憎み、怨み、成仏できぬ${牛頭ども|みのたうろす}の怨念じゃ! この積年の恨みがワシら長州藩の無念と繋がり、 ワシらの新たな力になっておったっちゅう訳じゃ!」 大昔……ミノタウロス……怨み……。 君は来島の言葉に含まれたキーワードを拾い、己の記憶を探る。 ――そして、一つ思い当たった。 遥か昔にペンタウァの地で栄え、滅びた古代文明があった。 現在では古代王国の名残である神殿の遺跡が現存するのみとなっている。 そこで、かつて古代王国の末裔を自称する女神官がふらりと神殿に現れ、近隣の村に「生贄を差し出さねば世界を破壊に導く」と脅迫し、生贄として若い女を要求したことがあったそうだ。 最初こそは女神官を相手にしなかった村人たちだが、女神官が強大な魔力を見せつける度に、その魔力に恐れていった。 村では生贄を差し出すことを決めると、村の心優しい娘は自ら生贄を買って出て、女神官に囚われてしまう。 だが、娘の父親に娘の救出を依頼されたソーサリアンが神殿の番人を斃し、女神官も斃して娘を救出したことで、この事件は無事に解決した。 というのが、実際にあったペンタウァ昔話の一つである。 その中に登場する神殿の番人というのが、まさに牛の頭と屈強な肉体を持つ三匹の『ミノタウロス』だったのだ。 [次へ](158 "f06|f20&!i06") [次へ](162 "i07") 158 しかし、疑問は残る。 何故今になって、しかもペンタウァではなく、この日本という地でミノタウロスの怨念が人間に憑依しているのか。 それについても来島に訊いておきたかったが、ハルバードの柄頭が地を衝く大きな音と衝撃、その殺気に、君は来島に問いただす時間など皆無であることを悟った。 ミノタウロスと化した来島が重々しい空気の摩擦音を立ててハルバードを構え、君は音を立てず慎重に刀を構える。 「<黒真珠>に選ばれた我ら長州藩こそが正道じゃけぇ、 邪魔立てする者は死ねぃッ!!」 ソーサリアンが一人『${name}』、推して参る!! **特殊ルール「牛頭・来島又兵衛との一騎打ち」** この戦闘では、%red%必ず決められた順番で攻撃すること。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、「牛頭・来島又兵衛」の「HP」を1回押す。%/% ②%blue%ダイスを1回振り、「牛頭・来島又兵衛」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ③%blue%ダイスを1回振り、「斬り潰す一撃」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ④%blue%君のHPまたはMPが0まで減るか、「牛頭・来島又兵衛」のHPが0になるまで 上記①~③の手順を繰り返すこと。%/% [牛頭・来島又兵衛のHPを0にした](159) [君のHPまたはMPが0になった](161) 159 刹那、高く飛び上がった君の刀が鈍い音を立ててミノタウロスの肩に食い込み、それを渾身の力を込めて斜め下に斬り払った。 稲妻の如く走る傷口は派手に血飛沫を上げ、ミノタウロスの体が鮮血に染まる。 ミノタウロスが絶叫し、その場に膝をつくと、その姿が縮み、元の来島又兵衛の姿に戻ったのだ。 「ぐ……ふぅ……。 異国の${強者|つわもの}よ…… なして、なしてワシに止めを刺さん……?」 全身血塗れで、息も絶え絶えだと言うのに、この男は強き意志を持って君を睨み上げている。 君は来島の烈火が如き光を放つ双眸から目を逸らさず、ひたと見つめ返して口を開いた。 我が真名は、**『${name}』**という。 日本に渦巻く魔の気配を察知し、異国ペンタウァから海を渡ってこの地へ来た。 故に、"魔"ではなくなった貴方を斬る刃は持ち合わせておらぬ。 この戦も、この日本に生きる人と"人"のものだ。 "人"へと戻りし貴方の相手は、この国の者がすればよい。 なれば、貴方はその命散るまで死した者の遺志を背負い、 "人"として生きて足掻くのが道理。 そう凛然と言い放つと、それを聞いていた来島は目を見開いた。 だが、すぐに笑ったのだ。 血に塗れた姿に似合わぬほど晴れやかな顔をして。 [次へ](160) 161 来島の放った鈍重な衝撃が、君の刀を持っている方の肩を粉砕した。 肩と肉厚の刃の触れ合う抵抗を一切感じさせぬまま、肩口から腕が斬り落とされたのだ。 君は絶叫し、地を蹴って必死にその場から飛び退るが、腕のなくなった肩口を押さえる手の指先からは、夥しい量の血が流れ出している。 激痛と恐怖で息を荒げ、そこで君が見たのは。 斬り落とされた自分の腕がそのまま地面へと落ちて、ハルバードの刃が地面にめり込んだと同時に無数の肉片へと変わり果てた瞬間であった。 途端に吐き気が込み上げ、吐いた。 気絶しても不思議ではないほどの激痛と、止むことのない大量出血。 そんな尋常ではない状態で、自分の肉体の一部が粉微塵にされるという惨状を見れば、たとえ歴戦の勇者とはいえ、戦意の喪失を免れることはできなかったのだ。 蛤御門の死闘。 そこで異国の勇者は、魔性と化した来島又兵衛の一撃に敗れ、無惨にも散り果てたのだった。
%purple% **未完「破壊する者」**%/% 160 「ふん、若造が横合いから出てきおって、 ちゃくな(生意気)ことぬかしよるわ! だがまあ、あの"魔"っちゅーもんよりかは筋が通っちょる。 うっ、がはぁっ!?」 来島は大きく咳き込むと、元々が血塗れであった口から大量の血が吐き出される。 それでも彼は血を乱雑に腕で拭うと、不敵にニヤリと笑った。 「ふ、ふふ……お前のおかげで、ワシも目が覚めたわ……。 <黒真珠>なんぞっちゅう得体の知れんもんに頼ろうとした恥は、 ワシの命で${雪|すす}ぐことにするわい……。 ……だが、ワシはまだ死ねん! 天子様に無罪を訴えにゃあならんじゃッ!」 来島は拳の血管が弾けんばかりに強く握り、叫んだ。 己が使命が正しいと信じて疑わぬ武人の形相だった。 それが、君を再び見据えると、ふっと口元を緩めた。 君を映す来島の瞳は、何処か冴え冴えしたものすら君に感じさせた。 「じゃけえ、お前もワシになぞ構っておる暇はなかろう……。 ええか、御所の中心に行きたくば、他の御門に陣取る牛頭を斃せ! 此処から近いのは『${中立売|なかだちうり}御門』じゃ! さ、早う${去|い}ねッ!!」 再び苛烈さを取り戻した来島が叫んだ瞬間、その姿が一瞬にして石化してしまった。 それは、来島の魂が"魔"から解放され、長州藩士として、また、人としての魂を取り戻したことの証明であった。 おそらく、この『魔空間』とやらを展開している主をどうにかすれば、石化した人々は元に戻るだろう。 その後は、この国に生きる者たちが自身の手で決着をつけねばならない。 "魔"に翻弄されし者よ、せめて人として散り候え。 君は胸の中で憂い呟くと、刀に付着した血を振り払い、次は中立売御門へと向かった。 ちなみに史実によると、この『禁門の変』で遊撃隊総督を務めた来島又兵衛は、御所内で『${西郷隆盛|さいごう たかもり}』率いる薩摩藩の銃撃により胸を撃たれ、落馬。 重傷を負って死期を悟った来島は、甥である喜多村武七に介錯を頼むと、槍を自ら喉に突き刺して自害。 その後に首を切られたとされる。 [中立売御門に向かう](163) 163 君が次に向かったのは、蛤御門より北に位置する『中立売御門』だった。 この辺一帯も敵味方関係なく石化し、誰一人として動いてはいない。 ……否、例外がいる。 中立売御門の前に佇み、巨大なハルバードの刃を地面に食い込ませて固定し、こちらを見据えている男がいた。 歳のほどは20前後だろうか。眉が濃く、目鼻立ちが整った男で、凛々しく知的な印象を受ける。 君は地を削るように滑りながらその場に止まり、男から視線を外さぬまま居合の構えを取った。 「ほう、お前が遠路遥々やって来たというソーサリアンか。 ……なるほど。 妙な術を使い、日の本の者に化けているというが、 なかなかに大したものだな」 目を細め、今はどこをどう見ても日本人である君の姿をしげしげと眺めて、感心したように言う男。 彼の口ぶりは、いかにも何者からか事情を聞いたといった風で、君は裏で糸を引いているのが"魔"であることの確信を深める。 「私の名は**『${国司信濃|くにし しなの}』**である。 異国の武芸者よ、私はお前に何の恨みもない。 だが、奸賊どもに謀られ、京を追われた我らには、 寄る辺もなければ、後もない。 妖魔共が示したこの起死回生の策に水を差されては堪らんのだ。 ――故に、斬る!」 決死の覚悟を瞳に宿した国司が吼えた。 次の瞬間、来島の時と同じように国司の全身が空間に突然滲み出した黒い霧に包まれる。 苦痛と狂気に満ち満ちた獣の咆哮と共に、黒い霧が凄まじい速度で膨張し、暴風を伴って四散した。 巻き角を生やした牛頭と赤々と燃える双眸。 程よく引き締まった筋肉に、ミノタウロスとしては異質のスラリとした半獣半人の肉体。 国司もまた来島と同じくミノタウロスに姿を変えていたが、その全容は何処となく元来の気品を感じさせた。 [次へ](164 "f06|f20&!i06") [次へ](169 "i07") 164 ミノタウロスと化した国司は、地面に深く刃を食い込ませていたハルバードを無造作に、いとも容易く引き抜いた。 まともに当たれば、斬られるなどといった生易しいものではなく、切り刻まれ、叩き潰されてひき肉になってしまうだろう。 「我らが使命、人の身でなし得ること困難なれば、 私は人の身を捨て、悪鬼にでもなろうぞ!!」 国司の覚悟に、否、国司の覚悟を利用する"魔"の卑劣さに、君は奥歯を強く噛み締める。 君は、これまでにも長州藩の武力至上主義者のやり口を各所で聞いている。 その思想は、あまりにも危険かつ過激。天の威を借り、人をやたらと斬り過ぎた。 だが、"人"の世に"魔"が介入し、"人"を害して人の世を更に乱してよいという道理はないのだ。 君は手の血管が浮き出るほどに刀を強く握り締め、"魔"への怒りを全身に巡らせた。 国司信濃! その身、その魂を蝕む"魔"を、いま此処で断ち斬るッ!! **特殊ルール「牛頭・国司信濃との一騎打ち」** この戦闘では、%red%必ず決められた順番で攻撃すること。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、「牛頭・国司信濃」の「HP」を1回押す。%/% ②%blue%ダイスを1回振り、「牛頭・国司信濃」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ③%blue%ダイスを1回振り、「幻影の舞」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ④%blue%君のHPまたはMPが0まで減るか、「牛頭・国司信濃」のHPが0になるまで 上記①~③の手順を繰り返すこと。%/% [牛頭・国司信濃のHPを0にした](165) [君のHPまたはMPが0になった](168) 165 牛頭の化け物となった国司信濃。 ハルバードの一薙ぎには、来島又兵衛の一撃ほどの圧倒的な重さや爆発力はなかった。 その代わりに、ミノタウロスの姿からは想像もつかない国司の流麗な攻守は、そのギャップで君を散々苦しめた。 君はまるで、春風に舞う桜の花弁に向かって刀を振り回してでもいるかのように錯覚していた。 だが、歴戦の勇者である君が踏んだ場数には、常にあの手この手で君を苦しめる敵がいた。 ――つまり、ミノタウロスの動きに目が慣れ、攻撃方法のパターンさえ掴めれば、今までの経験から最適解を導き出すことができるのである。 消さない殺気、それこそが『隙』である。 背後に回り込んだ殺気が弾けた瞬間、君は振り向きざまに刀を下から上へと斬り上げた。 甲高い金属音が高々と鳴り響いた後、鈍重な音が2つ、地面に炸裂して辺りを震わせた。 其処にはハルバードを柄から真っ二つに両断され、それを取り落としたミノタウロスがいた。 ミノタウロスの胸元に鋭い傷が走っているが、浅い。 しかし、戦いを終わらせるには十分だった。 「お……お見事……」 目を見開き、掠れた声で呟いたミノタウロスがガクリと膝をつく。 その姿が見る見るうちに縮んでゆき、最後には人間に戻った国司の姿があった。 [次へ](166) 168 ミノタウロスと化した国司は、君の想像以上に身軽な動きを見せ、君は完全に翻弄されていた。 その動きは、舞い散る桜の花弁が如く掴みどころがなく、惑わされた君は虚空を斬るばかりであったのだ。 これではいずれ体力と精神力が尽きてしまう。 ……そう危惧していた君だったが、その時がとうとう訪れてしまった。 背後に回った殺気に気付くのが遅れた君は、振り返ろうとした瞬間に背を思いきり斬られてしまったのだ。 否、背だけではない。 国司が振り下ろしたハルバードは、君の肩口から胴にかけて、肉を断ち、骨を断ち、臓腑すらも断ってしまっていた。 血が噴水のように吹き出し、支えを失った臓腑がずるりと零れ落ちる。 よく見るまでもない。明らかに致命傷であった。 君は声すら上げられぬまま、うつ伏せに倒れ込んだ。 辛うじて刀は手放さなかったが、ただそれだけだった。 全身が微細に痙攣し、喉からせり上がってきた血を唾液と共に口から垂れ流す。 休息に意識が混濁し出し、次第に濁ってゆく君の瞳。 それは、勇者と呼ばれた者の命の灯火が消えゆく様を表しているのだった。 蛤御門の死闘。 そこで異国の勇者は、魔性と化した国司信濃の一撃に敗れ、無惨にも散り果てたのだった。
%purple% **未完「翻弄する者」**%/% 166 国司は静かに顔を上げると、君の瞳をひたと見つめる。 君から見た国司の瞳には、既に狂気の色は読み取れない。 彼は正気に戻ったということなのだろう。 「魔性の者が待ち受ける御所の中心…… 其処に行く最後の鍵は、 久坂……そう、『${久坂玄瑞|くさか げんずい}』殿だろう……。 久坂殿は、此度の出兵に最後まで反対し、 此度の交戦前の交渉で、 参内(朝廷に赴くこと)が 叶わぬと分かった時にも、 彼は兵を引こうと必死に申しておった……。 だが、そんな彼を我らは臆病者と${誹|そし}り、 後には引けなくしたのだ……」 拳を震えるほど強く握り締め、眉根を寄せて君に話す国司。 君は久坂に会ったこともなければ、国司のことも詳しく知っている訳ではない。 だが、国司が語った戦前の久坂とのやり取りのことや、国司自身の様子からは、後悔の念を感じずにはいられなかった。 [次へ](167) 171 『堺町御門』の前まで来て、君は立ち尽くしていた。 久坂が、いない……? 来島と国司は、どちらも門の前で君を待ち構えていた。 だが、この堺町御門の先を目指していたという久坂玄瑞と思しき者の姿は此処にはない。 一体何処にいる……? と、君が辺りを見回していた時だった。 堺町御門の東側に建つ建物『${鷹司|たかつかさ}邸』の方から声が聞こえたのだ。 人間が石化する『魔空間』の中で活動できる者がいるとすれば、それだけで何者か確認すべき存在である。 場所や状況的には、声の主が久坂である可能性も高い。 確か鷹司邸の裏門があったはずだ。 君は閉じられた堺町御門から来た道を戻り、そこから東に位置する鷹司邸の裏門へと急いだ。 [鷹司邸の裏門から御所に入る](172) 172 君は鷹司邸の裏門から御所に入ることに成功した。 慎重な足取りのまま周辺の様子を窺うと、裏門付近に倒れた石像の装備品から、越前藩と長州藩の藩兵であることが判った。 おそらく久坂率いる藩兵は、此処から御所に侵入したのでは、と君は想像を巡らせる。 更に、鷹司邸の周囲には、長州藩の兵が大砲を配置し、鉄砲隊も配備されていた。 むろん、誰も彼もが石化した状態で、だが。 そうやって君の意識が一瞬でも石像の方に傾いていた時だった。 再び『声』が聞こえたのは。 「は、はは……ははは……」 またしても聞こえた笑い声のようなもの。 だが、笑い声というには、あまりにも憐れを感じる哀しげな声であった。 君は弾かれるようにして振り返り、鯉口を切って身構える。 鷹司邸の中からおぼつかない足取りで外へと出て来たのは、君の見知らぬ若き男であった。 彼は、少し離れた位置から様子を窺う君に気付いているのかいないのか。 身構えている君には目もくれず、額に手を当てて赤くどろどろとした無気味な空を仰いでいるのである。 [次へ](173) 173 君は警戒を解かぬまま、見知らぬ若き男に久坂であるのかと尋ねる。 すると、男はようやく君の存在に気付いた風に、ゆらりとした不安定な所作で君を一瞥した。 「ああ、私が『${久坂玄瑞|くさか げんずい}』だ……。 私は此度の進軍が朝廷への叛逆の意ではなく、 京から追われた我ら長州藩の無罪を 主張するためのものであると朝廷に お伝えしたく、鷹司様に嘆願しておったのだ……」 「だが」と久坂は一旦言葉を区切る。 その表情が、目じりが、突如キリキリと吊り上がる。 同時に、久坂の虚ろだった双眸が、まるで火がついたような苛烈な輝きを宿し始めたのだ。 「鷹司様は私の参内を 認めてくれぬ……!! 何故だ!? 何故わからぬッ!!?」 突然、般若の形相で怒り狂い始めた久坂の、その常軌を逸した静から動への感情の起伏に、君は背筋に薄ら寒いものを感じて気圧される。 久坂はミノタウロスに変化していない。 しかし、彼が石化していないということが、彼の身に何らかの異常があることを示している。 [久坂に<墨絵>を見せる](179 "i07") [そのまま久坂の様子を見る](174 "f06|f20&!i06") [そのまま久坂の様子を見る](181 "i07") 174 **「何故だッッ!!!」** 一際大きな声で久坂が叫び、片足で地を踏み鳴らすと、凄まじい地響きが大地を揺らし、彼の足を中心にして地面に蜘蛛の巣状の地割れが起こった。 普通の人間が出せる力の限界を超えているのは、火を見るより明らかであった。 「私は! 私たちは……!! この戦に朝廷への叛逆の意図はないと、 長州藩は無実であると、ただそれだけを 朝廷にお伝えしたいだけなのだ……!! お伝えできれば、こんな戦など!! 戦などォオオオオオオーーーッッ!!!」 理解されないことへの苦悩と鬱憤。 久坂の感情が迸り、周囲の空気が震えた。 天に向かって吼えた久坂は、空気から滲み出るようにして出現した黒い霧に包まれたのだ。 尚も久坂の怒号が辺りに響き渡り、黒い霧が膨張と収縮を繰り返す。 そして、一際大きな怒号が聞こえて、黒い霧が限界まで膨張した時、黒い霧が弾け飛び、先ほどまで人であったものの姿が晒されたのだ。 久坂玄瑞! 貴方のやるせない想いを受け止め、"人"に戻す! **特殊ルール「牛頭・久坂玄瑞との一騎打ち」** この戦闘では、%red%必ず決められた順番で攻撃すること。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、「牛頭・久坂玄瑞」の「HP」を1回押す。%/% ②%blue%ダイスを1回振り、「牛頭・久坂玄瑞」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ③%blue%ダイスを1回振り、「諦念の呪詛」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ④%blue%君のHPまたはMPが0まで減るか、「牛頭・久坂玄瑞」のHPが0になるまで 上記①~③の手順を繰り返すこと。%/% [牛頭・久坂玄瑞のHPを0にした](175) [君のHPまたはMPが0になった](178) 175 "人"の君と"魔"の久坂。 相反する立場で刃を交えた君と久坂の熾烈なる戦いは、君が久坂の刀を跳ね上げ、間髪を容れず喉元に刀の切っ先を突きつけたことで決着がついた。 「ああ、そうか……そうだった……。 私の志すものは…… "人"であればこそ、であったな……」 久坂はミノタウロスの姿のままで、目を閉じぽつりと呟いた。 君は久坂の様子を見て戦う意思がないことを感じ取ると、刀を下ろして後ろへと下がった。 すると、巨大な獣人であった久坂の体が瞬く間に縮んでゆき、元の人間の姿へと戻っていった。 "魔"に憑依されて激情のままに刀を振るい、ままならぬ現状への苦悩に満ちた呪いの言葉も繰り返していた魔性は、君との戦いの果てに"人"であったことを、志したものを思い出したのだ。 [次へ](176) 176 久坂は暫く顔を上げて目を閉じたままであったが、瞼をすぅと上げると真っ直ぐに君を見据えた。 今にも泣き出してしまいそうな儚げな苦笑を浮かべる彼の双眸には、既に狂気の色も諦念の色もない。 双眸の奥に煌めくのは、"人"として使命を全うしようと決めた、そんな彼の強い覚悟であった。 「そなたの意志強き言葉と そなたが伝えてくれた皆の言葉。 ……そして、あの『懐かしい』絵は、 私の中に巣食っていた"魔"を 追い払ってくれた。 そなたは、私に再び"人"として 使命にあたる機を与えてくれた。 ソーサリアンよ、篤く感謝する」 久坂が君に深々と礼をし、君は久坂の言葉に微笑して頷いた。 それから君は、国司に託された言葉を久坂に伝えた。 彼はその言葉を心に刻み付けるように暫く無言で俯いた後、そのまま「ああ、承知した」とだけ返した。 その時の久坂の表情は、君が立つ位置からは見ることができなかった。 [次へ](177) 177 久坂は顔を横へと向けると、「見よ」とある一点を指差した。 様々な建物に遮られてはいたが、彼が指差す先は、御所の中心部である。 「そなたの捜す魔性の者共は、 御所の中心部『${京都御苑|きょうとぎょえん}』にいるはずだ。 私は奴らの姿を直に見たことはないが、 『魔空間』でそなたの足止めを条件に "魔"の力を与えられていたのだ。 これから何か仕出かすつもりに違いあるまい。 どうか気を付けていかれよ」 君が久坂の方を振り返った時には、既に彼は石化していた。 きっと久坂は、『魔結界』の呪縛から解き放たれた後、朝廷に参内したい旨を再び鷹司に嘆願するのだろう。 それがどのような結果になるのかは分からないが、"魔"から切り離された彼の行動は、もう君の手から離れている。 あとは、互いに為すべきことを為すだけだ。 君は久坂に頭を下げた後、"魔"将軍らが待ち受けているであろう『京都御苑』へと駆けてゆくのだった。 久坂玄瑞もまた実在の人物である。 史実によると、久坂ら『真木隊』は、堺町御門付近に建てられた鷹司邸の裏門から御所内に侵入した。 鷹司邸に入った久坂は、屋敷に居た鷹司公に長州藩の無罪を朝廷に伝えるために参内の許しを得ようとしたが、鷹司公は彼の願いを聞くことなく屋敷から立ち去ってしまう。 その後、久坂らは鷹司邸に立てこもり、屋敷を包囲する幕府軍と交戦。 久坂ら長州軍も幕府軍からの砲撃に、同じく砲撃で応戦するなど抵抗を続けたが、圧倒的な戦力差に鷹司邸に立てこもっていた久坂ら長州軍は敗れ去った。 その頃、久坂ら生き残った者たちは、国司隊が敗走したことを知った。 参内も叶わなず、長州軍の敗北を予感した久坂は、燃え盛る鷹司邸の中で友と向かい合うと、互いに自害し果てたのであった。 久坂玄瑞、当時25歳の若者であった。 [京都御苑に急ぐ](185) 178 ミノタウロスとなった久坂の攻撃は熾烈を極めた。 まるで人であった時の激情全てを刀に乗せ、それを君に叩き付けるようにして攻め立てていたのだ。 もちろん、君も善戦した。 久坂の激情に支配された自らの身を顧みない攻めは、隙が多かったとも言える。 だが、それは防御を捨てて攻撃に特化する、という意味でもある。 久坂は君が攻撃してきて動きが鈍ったところを、本能で隙であると判断して的確に攻めてきた。 まさに『肉を切らせて骨を断つ』という言葉どおりの戦法であったのだ。 君は全身に傷を負ってよろめきながらも、必死に久坂から距離を取り、震える手で刀を構える。 久坂の激しい攻撃にこちらも満身創痍であったが、防御と回避を疎かにしていた久坂もまた満身創痍であったのだ。 だが、それほどまでに傷付き、血を失った肉体と、疲弊した精神は、既に君が活動の限界を超えていることを示していた。 意識が朦朧としている。 ミノタウロス姿の久坂は先ほどの苛烈さとは逆に、今は刃が欠けてボロボロになった刀を手に、重い足取りで静かに近付いてきている。 荒い呼吸を繰り返す君には、その久坂の姿が二重にも三重にもブレて見えていた。 ――それでも。 こんなところで負ける訳にはいかない! いかないのだッ!! 君は持てる全ての力を振り絞り、獣の如き咆哮を上げて突進した! ……が、静寂の中で久坂の口から漏れ出る呪詛が君の耳に入った瞬間、疲弊していた君は抗うこともできず、その動きを止められてしまったのだ。 全身は金縛りに遭って動かせず、この中で唯一束縛を逃れていたのは、視線と思考だけである。 しかし、この状況下でそれらが自由であっても、いま目の前に歩み寄る『死』に対しては無力であった。
%purple% **未完「追い詰められし者」**%/% 162 しかし、疑問は残る。 何故今になって、しかもペンタウァではなく、この日本という地でミノタウロスの怨念が人間に憑依しているのか。 それについても来島に訊いておきたかったが、ハルバードの柄頭が地を衝く大きな音と衝撃、その殺気に、君は来島に問いただす時間など皆無であることを悟った。 ……だが、そこで君はもう一つの記憶を思い出す。 懐に入れていた『あれ』のことだ。 「<黒真珠>に選ばれた我ら長州藩こそが正道じゃけぇ、 邪魔立てする者は死ねぃッ!!」 ミノタウロスと化した来島はハルバードを構え、鼻息荒く君へと走り出そうとする……のだが。 「うっ、ぐぐっ……そ、それは……!?」 来島が呻き、一瞬にして動きを止めた。否、止まってしまったのである。 君が懐から取り出し、掲げた<墨絵>を視認して。 『牛頭の怪物に遭うことがあれば、 試しにその絵を見せつけてみてくだせぇ。 もしも……怪物にほんの少しでも "心"があれば…… その絵が魔除けの代わりくらいには なるかもしれやせんので……』 君の脳裏に橋の下にいた男の声が再生される。 あの男がこの<墨絵>のことを『魔除け代わり』と言うものだから、護符か何かの類だろうかと調べてみたが、何の変哲もない墨描きの絵だった。 正直なところ効果のほどは半信半疑ではあったが、ミノタウロスと化した来島の動きが止まり、鈍くなったことから、確実に効果は出ていると言えた。 ――そう、今こそが攻撃の機である。 ソーサリアンが一人『${name}』、推して参る!! [怯んでいる来島に斬り掛かる!](159) 169 ミノタウロスと化した国司は、地面に深く刃を食い込ませていたハルバードを無造作に、いとも容易く引き抜いた。 まともに当たれば、斬られるなどといった生易しいものではなく、切り刻まれ、叩き潰されてひき肉になってしまうだろう。 「我らが使命、人の身でなし得ること困難なれば、 私は人の身を捨て、悪鬼にでもなろうぞ!!」 国司の覚悟に、否、国司の覚悟を利用する"魔"の卑劣さに、君は奥歯を強く噛み締める。 君は、これまでにも長州藩の武力至上主義者のやり口を各所で聞いている。 その思想は、あまりにも危険かつ過激。天の威を借り、人をやたらと斬り過ぎた。 だが、人の世に"魔"が介入し、人を害して人の世を更に乱してよいという道理はないのだ。 君は"魔"への怒りで心が煮え立つのを感じるが、まずは試してみるべきことがあった。 懐から<例の墨絵>を取り出すと、来島の時と同じように国司に向けて掲げて見せたのだ。 「どうした、死を目の前にして気でも狂うたか…… なっ……!? その絵は……その筆運び、は……ううっ!?」 最初こそは余裕すら感じた国司の声色であったが、<墨絵>をよく見て明らかに狼狽え出した。 どうやら国司もまた、この<墨絵>に見覚えがあったらしく、混乱した様子で怯んでいる。 人としての国司と"魔"としての国司の心がせめぎ合っているに違いない。 君は手の血管が浮き出るほどに刀を強く握り締め、"魔"への怒りを全身に巡らせた。 国司信濃! その身、その魂を蝕む"魔"を、いま此処で断ち斬るッ!! [怯んでいる国司に斬り掛かる!](170) 170 牛頭の化け物となった国司信濃。 本来であれば国司との戦いは、非常に苦しいものとなっていただろう。 だが、<墨絵>に心を乱され、冷静さを失った今の国司は、君とまともにやり合えるほどの実力を出すことは叶わなかった。 君は地を蹴って一気にミノタウロスの懐へと跳び込むと、気合い一閃。刀を上から下へと斬り下げた。 甲高い金属音が高々と鳴り響いた後、鈍重な音が2つ、地面に炸裂して辺りを震わせた。 其処にはハルバードを柄から真っ二つに両断され、それを取り落としたミノタウロスがいた。 ミノタウロスの胸元に鋭い傷が走っているが、浅い。 しかし、戦いを終わらせるには十分だった。 「お……お見事……」 目を見開き、掠れた声で呟いたミノタウロスがガクリと膝をつく。 その姿が見る見るうちに縮んでゆき、最後には人間に戻った国司の姿があった。 [次へ](166) 179 君は迷ったが、久坂の名を呼ぶと懐から<墨絵>を取り出して掲げた。 <墨絵>を一瞥した久坂の瞳が少しだけ見開かれた。 ……が、顔を背けると低声を漏らして笑った。 「あぁ……それは……。 そうか、『あの御方』は、 今でも戦を望んではおられぬか……」 口の端を吊り上げたまま、疲労を感じさせる掠れた声でぽつりと溢す。 久坂の逸らした横顔は、諦念を滲ませているようにも見えた。 だが、君の方へと向き直った彼の表情は、何処か晴れ晴れとしていた。 砂上の楼閣の如く、危うさすら感じさせる儚げな笑みではあったが。 「異国の強者よ、そなたのおかげで決心がついた。 此処に至るまで、常に己の中に迷いがあったが、 これで心置きなく踏み切れるというもの。 さあ、先にいくがよい」 どうやら久坂は、ミノタウロスになる前に説得することができたようだ。 君は安堵して頷くと、<墨絵>を懐に仕舞ってから、「事叶わねば引けと国司殿が言っていた」と国司からの言付けを告げる。 久坂が頷いたのを見届け、君は一礼した後に久坂の脇を通り抜け、走り出す。 戦う必要がなければ、戦わないに越したことはない。 君は胸の中でそう納得し、意識を新たに御所の中央へと向けた。 [次は、いよいよ――!](180) 180 鈍く重い音がして、君の体が大きくブレた。 だが、それだけの大きな衝撃であったにもかかわらず、君はその場に直立したままだ。 背中がかっと熱くなり、背中から足元に向かってじわりと生温かく濡れる感覚が気持ち悪い。 あっ……。 目を大きく見開いた君の口から単音が転がり落ちて、その後を追うように口から顎先へと血が伝う。 視線だけを下に向けると、そこには鮮血に濡れて不気味に光る刀の切先が突き出していた。 「私に足りぬのは、何をしてでも 意思を貫き通す覚悟であった。 私はこれから畜生に堕ちてでも ことを成してくる。 ……すまぬが、そなたは先に 逝っていてくれ。 では、後にあの世で逢おう、 異国の強者よ」 君のすぐ後ろから聞こえた声は、これまでの葛藤や絶叫が夢まぼろしであったかのように、とても穏やかで満ち足りた声色であった。
%purple% **未完「堕ちた者」**%/% 181 **「何故だッッ!!!」** 一際大きな声で久坂が叫び、片足で地を踏み鳴らすと、凄まじい地響きが大地を揺らし、彼の足を中心にして地面に蜘蛛の巣状の地割れが起こった。 普通の人間が出せる力の限界を超えているのは、火を見るより明らかであった。 「私は! 私たちは……!! この戦に朝廷への叛逆の意図はないと、 長州藩は無実であると、ただそれだけを 朝廷にお伝えしたいだけなのだ……!! お伝えできれば、こんな戦など!! 戦などォオオオオオオーーーッッ!!!」 理解されないことへの苦悩と鬱憤。 久坂の感情が迸り、周囲の空気が震えた。 天に向かって吼えた久坂は、空気から滲み出るようにして出現した黒い霧に包まれたのだ。 尚も久坂の怒号が辺りに響き渡り、黒い霧が膨張と収縮を繰り返す。 そして、一際大きな怒号が聞こえて、黒い霧が限界まで膨張した時、黒い霧が弾け飛び、先ほどまで人であったものの姿が晒されたのだ。 [久坂に<墨絵>を見せ、来島と国司の話をする](182) 182 もうこれ以上は、久坂の精神に一刻の猶予もない。 君は意を決すると、ミノタウロスと化した久坂に向かって<墨絵>を掲げた。 そして、此処に至る前に敵対し、君が"魔"から解放した来島又兵衛と国司信濃のことを話した。 彼らが"魔"としてではなく、"人"として意志を貫こうと改めて決意して石化したこと。 冷静であった久坂を臆病者と謗ったことを後悔し、久坂の行き先を教えてくれたこと。 それから、朝廷への参内が叶わなければ撤退することを国司が望み、伝えてほしいと言ったこと。 君は久坂を説得しようと必死に言葉を紡いだ。 一方の久坂は鼻息荒く、頭上に刀を掲げていた。 しかし、"魔"に憑依されて人ならざる姿となった久坂の、その巨大となった全身が細かく震え始めたのを君は見逃さなかった。 引くのではなく、一歩踏み出して。 迷いの色が再び生じ始めた久坂の目から自分の目を逸らすことなく、君はあらん限りの声で言い放った。 "魔"が善意で人を助けることなどない! たとえ"魔"の力を借りて事を成したとしても、 貴方はいずれ"魔"と完全に同化する。 そうなれば、貴方はこれまで"人"として 仲間と共にやってきたことも、 これまでに出た犠牲も全てを忘れ、 魔性と化した自分自身の手で この日の本を滅ぼすことになるのだ! 目を覚ませ! そして―― [「最後まで"人"として生きよ!!」](183) 183 それは、君の魂の叫びだった。 額から汗が流れ落ち、酸欠で頭がクラクラした。 激しく上下する肩と胸は、今の君にこれ以上は叫ぶなと悲鳴を上げているようだった。 君は呼吸を落ち着かせるように俯き、だがしかし、久坂の様子を窺うように君の上目だけは彼を凝視していた。 久坂は何も言わない。その沈黙が重く君に圧し掛かってくる。 そうして暫く言葉のない時間が続いた後だった。 「ああ、そうか……そうだった……。 私の……皆の志すものは…… "人"であればこそ、であったな……」 久坂はミノタウロスの姿のままで、目を閉じぽつりと呟いた。 君は久坂の様子を見て戦う意思がないことを感じ取ると、<墨絵>を畳んで懐に仕舞い、そのまま後ろへと下がった。 すると、巨大な獣人であった久坂の体が瞬く間に縮んでゆき、元の人間の姿へと戻っていった。 "魔"に憑依されて激情のままに刀を振るい、ままならぬ現状への苦悩に満ちた呪いの言葉も繰り返していた魔性は、君の根強い説得の果てに"人"であったことを、志したものを思い出したのだ。 [次へ](184) 184 久坂は暫く顔を上げて目を閉じたままであったが、瞼をすぅと上げると真っ直ぐに君を見据えた。 今にも泣き出してしまいそうな儚げな苦笑を浮かべる彼の双眸には、既に狂気の色も諦念の色もない。 双眸の奥に煌めくのは、"人"として使命を全うしようと決めた、そんな彼の強い覚悟であった。 「そなたの意志強き言葉と そなたが伝えてくれた皆の言葉。 ……そして、あの『懐かしい』絵は、 私の中に巣食っていた"魔"を 追い払ってくれた。 そなたは、私に再び"人"として 使命にあたる機を与えてくれた。 ソーサリアンよ、篤く感謝する」 久坂が君に深々と礼をし、君は久坂の言葉に微笑して頷いた。 それから君は、国司に託された言葉を今一度、久坂に伝えた。 彼はその言葉を心に刻み付けるように暫く無言で俯いた後、そのまま「ああ、承知した」とだけ返した。 その時の久坂の表情は、君が立つ位置からは見ることができなかった。 [次へ](177) 93 うどん屋の猫について新情報が得られた喜びと興奮で、君は早速うどん屋に直行した。 もふもふを前にしたソーサリアンの行動は、常に迅速なのである(?)。 いる。ネコチャンいる。 うどん屋の入り口に到着した君は、ターゲットが定位置で日向ぼっこをしているのを確認した。 そろりと慎重に三毛猫に近付くが、三毛猫は気付いているのかいないのか、こちらには見向きもしない。 君は意を決し、三毛猫に向かって声をかけた。 [「沖田総司さんって人、知ってますか?」](94) 185 鷹司邸から一気に走り抜け、君はようやく辿り着いた。 御所の中心、**『${京都御苑|きょうとぎょえん}』**(当時はそう呼ばれていなかったかもしれないが、この物語では分かり易く『京都御苑』と書かせていただく)。 其処は、本来であれば豊かな緑に囲まれ、小川がせせらぐ美しい庭園であった。 しかし、今は赤々とした不気味な光を放つ巨大魔法陣が地に描かれ、『招かれざる先客』が威圧的な存在感を放っていた。 一人は長い白髪と口元覆い尽くす長い白髭を生やした男で、先端に宝石のはまった杖を持ち、深紅のローブを羽織っていることから魔道士だと伺える。 白髪の前髪から覗く金色の双眸からは、何処か余裕のようなものが感じ取れた。 そして、こちらは一匹、とでも言うべきであろうか。 男の背後に鎮座している『そいつ』は、獣にもよく似た低い唸り声をあげていた。 『そいつ』は、後ろ足のない巨大トカゲのような形状をした生物だった。 兜を被っているように見える目のない顔から体の表面にかけて、白茶色の甲殻に覆われており、うつ伏せから上体を起こした格好をしている。 その上体を起こすのに使用しているであろうモグラにも似た形状の両前足には、鋭く長い鉤爪が生えていた。 地上に生きるどんな生物にも上手く当てはめられない謎の生命体に、君は薄寒いものを感じた。 だが、此処に至るまでの出来事を思い出せば、此処まで来て怖気づいてなどいられない。 君はいつでも攻撃に移れるように身構えると、此度の件の元凶である"魔"に向かって叫んだ。 [「お前たちは何者だ!!」](186) [▶▶ラストバトルまで飛ばす](193 "r26:baku03|r27:baku03") 186 「来たか、ソーサリアンよ。 やはり貴様たちペンタウァの者には、 この程度の出力では石化すらせんか」 君の言葉に反応し、ぼやいたのは魔道士風の者だった。 「私は、こちらにおわす"魔"将軍『ガドルガン』様に 仕える『魔道士ヘルナー』である。 我らの崇高なる目的のため、長州藩の者共を 軽く${嗾|けしか}けてやったが、 くく、愚かな人間の身でなかなか良い働きを してくれたぞ。 人間共の血と魂を贄に、いま此処に来たれ! **<黒真珠>よ!!**」 ヘルナーと名乗った魔族が叫び、宝石のはまった杖を天に掲げた瞬間、ガドルガンの頭上の空間がゆらりと歪んだ。 歪んだ空間から凝縮された魔力の塊が出現すると、その塊を中心にして暴風が吹き荒れ、稲妻が幾度も走り抜ける。 そして魔力が弾け、辺りに閃光が走った。 咄嗟に目元を片腕で覆って目が潰れるのを免れた君は、腕を少しだけずらして再び魔力塊があった場所を見据え――驚愕した。 ガドルガンの頭上で禍々しい魔力光を放つ漆黒の結晶が浮遊しているのだ。 『それ』はまるで、死の間際に絶叫する生首を連想させるような造形をした魔力の塊だった。 ヘルナーに<黒真珠>と呼ばれた『それ』は、君が戦艦<サスケハナ>の上で見た物と特徴が合致している。 つまりは、この数年間はまったく行方が知れなかった<黒真珠>が、たったいま君の目の前に姿を現したという訳だ。 [「一体何をした!?」](187) [▶▶ラストバトルまで飛ばす](193 "r26:baku03|r27:baku03") 187 「『何をした』、か」 突然の<黒真珠>出現に声を荒げる君を一瞥したヘルナーは、肩を揺らす。 白髪と髭に覆われているヘルナーの表情は分かりづらいが、笑っているのだと気付くのは、そう難しいことではない。 「この京という地は特殊でな、人間同士が殺し合い、 流れた血と魂が地に溶け込み、魔力を増幅するのに うってつけの場所であったのだ。 そこで私はガドルガン様とこの都に潜伏し、 長州藩の者どもに『力』を得る術を教えたのだよ」 「あっ」と。君は思わず声を漏らした。 繋がったのだ。人喰い獣と浪人風の死んだ長州藩の藩士、そして来島たち3人のことが。 「どうやら、その様子では気付いたようだな。 そうだ、力を欲した長州藩の者どもは、 よく殺し、恐怖を煽り立て、 都の土壌に幾多の血と魂を捧げてくれた。 まあ、池田屋の一件は予定外ではあったが、 <黒真珠>の招来には成功したのだ、 何も問題はあるまい」 平然と、それこそ人の命などその程度の価値しかないと、ヘルナーは言ったのだ。 ぎしり、と。強く噛み締めた奥歯が軋む。 君は、目の前に佇む魔族の、そのあまりにも胸糞が悪い思想に、悔しさと怒りが湧き上がってくるのが止められなかった。 [次へ](188) [▶▶ラストバトルまで飛ばす](193 "r26:baku03|r27:baku03") 188 今にも斬りかからんばかりの殺気を放ちながら睨み付ける君。 そんな君の姿を見たヘルナーは、鼻で笑い、肩をすくめた。 「その様子では、納得いった風でもないな。 ああ、そうか。 貴様も何も知らぬまま死んでは、 現世に未練が残るであろう。 どれ、このヘルナーが直々に 『話』でもしてやろうではないか。 忌々しいことに、ソーサリアンとも 浅からぬ因縁があるのだからな」 君を無知だと言わんばかりに見下しながらヘルナーが語った『話』は、君にとって驚くべき事実の連続であった。 これまでの一件は、『こちらの世界』とは異なる世界――そう、『"魔"世界』の古き時代から存在する者たちが関係しているというのだから。 そうしてヘルナーが語った内容は、以下のとおりだ。 [次へ](189) [▶▶ラストバトルまで飛ばす](193 "r26:baku03|r27:baku03") 189 古の時代、大魔王と恐れられた絶対強者が**『"魔"世界』**の頂点に君臨していた。 その者の名は、**『ギルバレス』**といった。 大魔王ギルバレスは幾多の"魔"の頂点であったが、その中でも特に優れた上位の魔族を直属の配下として従えていた。 ギルバレス直属の配下。それが**『"魔"将軍』**と呼ばれる者であったのだ。 実はこの時既に、ギルバレスたち"魔"が生きる"魔"世界は、生きとし生けるもの全てを死に至らしめる**<${混沌|カオス}>**に飲み込まれようとしていた。 ギルバレスは、"魔"を総べる"魔"世界の王である。 自らが君臨する世界を救うため、ギルバレスはこの<混沌>を他の世界に振り分けることを思い付いた。 これこそが、大魔王ギルバレスと"魔"将軍たち"魔"の軍勢が『こちらの世界』へと侵攻した理由だった。 当然ながら、この世界の人々は、"魔"の侵攻を良しとせず、自分たちの世界を守るために戦い、抵抗する者が多く現れた。 人間の代表。"魔"と戦える力と勇気を持つ者。 その者たちこそが、ペンタウァの勇者『ソーサリアン』であったのだ。 [次へ](190) [▶▶ラストバトルまで飛ばす](193 "r26:baku03|r27:baku03") 190 『こちらの世界』で、人間とギルバレスたち"魔"の軍勢は、長きに亘り戦い続けてきた。 だが、一時期は優勢と思われた"魔"の軍勢であったが、とうとうギルバレスの命運が尽きる時が来た。 時の英雄がギルバレスと"魔"将軍たちを討ち果たことで、"魔"将軍は元の世界への撤退をやむなくされ、『こちらの世界』に侵攻した"魔"の軍勢が瓦解したのである。 この時、英雄によって斬り落とされたギルバレスの首は、<混沌>へと転がり落ち、行方不明となった。 残ったギルバレスの体は、ペンタウァから遠く離れた『とある地』に封印されることとなった。 その封印の地というのが、この『日本』のことだったのである。 誰もが忘れ去り、あの聡明なエティスですら把握できないほど昔にあったとされる、『"魔"世界』と『こちらの世界』に刻まれた出来事。 だが、ここでようやく『"魔"世界』の魔族たちと『日本』との繋がりが見えたのだ。 [次へ](191) [▶▶ラストバトルまで飛ばす](193 "r26:baku03|r27:baku03") 191 人との戦いに敗れ去った"魔"将軍は、『"魔"世界』へと逃げ帰ったのは、先にも述べたとおりだ。 その後、ギルバレス亡き『"魔"世界』は、<混沌>の振り分けができぬまま飲み込まれ、荒廃してしまったのだ。 荒廃した『"魔"世界』で、"魔"将軍たちは議論を重ねると、『ギルバレスの復活』と『"魔"世界の復興』を目的として行動を開始した。 まずは<混沌>の中で結晶化したギルバレスの首――<黒真珠>を捜し始めたのである。 "魔"将軍たちは、次元の裂け目から再び『こちらの世界』に侵入すると、別行動で長らく<黒真珠>探索と情報収集のために奔走した。 そうした行動の果てに、"魔"将軍たちはようやく有益な情報を掴んだのだ。 日本に<黒真珠>が現れ、ギルバレスの封印が弱まったことを。 [次へ](192) [▶▶ラストバトルまで飛ばす](193 "r26:baku03|r27:baku03") 192 ここからは、場面が再び禍々しい魔力に溢れた京都御苑に戻る。 「ギルバレス様のご復活と"魔"世界の復興は、 我ら"魔"世界の魔族にとっての悲願。 そして、ギルバレス様を斬首して封印し、 我らの邪魔をする貴様たちソーサリアンは、 遙か昔から因縁が続く宿敵であり、 仇とも言える存在なのだよ」 刀を構えて睨み据えている君に向かって、ヘルナーは杖を突きつける仕草をする。 刹那、ヘルナーの杖から放たれた魔力の光球が剛速で君の頭上を飛び越え、庭園に植えられた木の枝をへし折って消滅した。 君は眼前の敵から注意を逸らさない。 遠く背後から聞こえた何か重い物が地面に叩きつけられた騒音から、何が起こったのかはすぐに想像がついた。 [次へ](193) 193 「……さて、こんなところか。 これで現世に未練なく死出の旅に 出られようというものよな、ソーサリアンよ」 ヘルナーがローブを跳ね上げながら杖を掲げると、ガドルガンが<黒真珠>ごと半透明の光の壁に包まれる。 ガドルガンの方は、ヘルナーの何十倍もあるような巨体には似つかわしくなく、音もなく首をもたげ、目のない顔を君へと向けた。 そして、鋭く尖った歯がびっしりと並ぶ口を開けて吼えると、<黒真珠>とガドルガンの間で突如発生した青い炎と赤い炎が絡み合い、互いを繋ぐようにしてより激しく燃え上がった。 京都御苑に渦巻く殺気が凄まじい勢いで膨れ上がり、弾けた。 **「我らが"魔"に楯突く愚か者めが! 貴様は此処で朽ち果てるがよい!!」** ヘルナーの死の宣告とガドルガンの獣の遠吠えにも似た咆哮とが重なった。 いま此処に、異国の勇者と"魔"将軍ガドルガンら上位魔族との戦いが始まったのだ! ![ヘルナー&ガドルガン](baku03-06.png) **特殊ルール「"魔"将軍ガドルガン&魔道士ヘルナー」** ヘルナーは、ガドルガンと<黒真珠>を内包する結界を守っている。 ガドルガンは、<黒真珠>と繋がって攻撃を仕掛けてくる。 この戦闘では、%red%必ず決められた順番で攻撃すること。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、「魔道士ヘルナー」の「HP」を1回押す。%/% ②%blue%ダイスを1回振り、「魔道士ヘルナー」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ③%blue%ダイスを1回振り、「火炎弾」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ④%blue%①~③の手順を、もう1回行う。%/% ⑤%blue%ダイスを1回振り、「魔道士ヘルナー」の「HP」を1回押す。%/% ⑥%blue%ダイスを1回振り、「魔道士ヘルナー」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ⑦%blue%ダイスを1回振り、「石化弾」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ⑧%blue%下記3つの条件のいずれかに達するまで、①~⑦の手順を繰り返すこと。 ●%red%君のHPまたはMPが0まで減った時%/% ●%red%石化中に石化を治す手段がなくなった時%/% ●%red%「魔道士ヘルナー」のHPが0になった時%/% [魔道士ヘルナーのHPを0にした](194) [君のHPまたは MPが0になった、石化中に石化を治す手段がなくなった](196) 194 君はふっと短く息を吐くと、ガドルガンが<黒真珠>を通して放ってくる火炎弾と石化弾をかいくぐり、ヘルナーの魔力光弾を斬り捨てながら一気に距離を詰めた。 「くっ、来るなッ!!!」 ヘルナーは悲鳴を上げながら尚も魔力光弾を放ってくるが、戦いが長引けば長引くほど、その威力は落ちてきている。 おそらくは、数々の結界を維持し、<黒真珠>招来の儀式を行った代償だろう。 **愚かなのは、お前の方だ!!** 君はより強く地を蹴って跳ぶと、雄叫びを上げてヘルナーを杖ごと真っ二つに両断した。 ヘルナーは断末魔を上げて、奇妙な色の血を撒き散らしながら倒れ込む。 同時に、ガドルガンと<黒真珠>を囲っていた結界が消滅し、<黒真珠>が虚空に飲み込まれて消失した。 君は目を見開いたが、一瞬の勝機を見出して口の端の片側を吊り上げた。 今が好機! 君は勢いを殺さずにガドルガンに向かって疾走する。 <黒真珠>との接続が切れたガドルガンは、巨大な顎をくわと広げ、君に向かって連続してブレスを放つ。 だが、それがガドルガンにとって隙となり、仇となった。 ブレスの弾速を見切っていた君は、高く跳躍してブレスを避けた。 一方のガドルガンは、連続してブレスを放った反動で、まだ頭上に顔を上げられない。 そのまま君は煌めく刀を頭上に掲げ、流星の如き軌跡を描く刀身を、渾身の力を込めて振り下ろした! [滅びろ! "魔"将軍ガドルガン!!](195) 196 魔道士ヘルナーをどうにかしなければ、ガドルガンと<黒真珠>を覆う結界も、この御所を中心に張られた『魔結界』も解除することはできない。 君はまずヘルナーに狙いを定めて攻撃を仕掛けていた。 だが、ほんの僅かな集中力の乱れが、君にとって取り返しのつかない事態を招いてしまった。 君がガドルガンの火炎弾に気を取られすぎたと自覚し、慌ててヘルナーに意識を戻した時には、既にヘルナーの放った魔力光弾が目の前に迫っていたのだ。避けられるわけがない。 君は苦痛に顔を歪めて呻き、焼け焦げた全身のあちこちから煙を上げて後方へと吹っ飛ばされた。 土煙を巻き上げて、背中や頭で地面をガリガリと削りながら吹っ飛ばされた君の体は、ようやく滑るのを止めた。 だが、君が血反吐を吐き出しながらも上体を起こそうとするのを、ヘルナーが見過ごす訳がない。 ヘルナーはさも愉快げに肩を揺らしながら嘲笑し、幾つもの魔力光弾で身動きの取れない君を追撃したのである。 倒れたままの君は、両目とも光と熱にやられて失明し、魔力光弾に圧し潰され、殴られ続け、全身を熱で焼かれた。 全身の皮膚は焼けただれ、殴打と圧迫によって全身の骨という骨が粉砕され、臓器が幾つか破裂した。 傷口から、口から、鼻から、耳から、目の奥から血が流れ、君の全身は血に濡れて真っ赤に染め上げられていたのだ。 ひゅう、ひゅう、と。 微かに開いた口から血と共に漏れる弱々しい呼吸音は、勇者と呼ばれた者としては、あまりにも憐れだった。 そこにガドルガンの石化弾が吐き出され、君の体の組織を石へと作り変えてゆく。 死に掛けた、否、死を待つばかりの状態であった君にとって、それは苦痛の終わりであり、ある意味では救いだったのかもしれない。 「愚か者の末路として、実に相応しい死に様であった」 "魔"に抗う者が消えた空間の中で、ヘルナーの高らかな哄笑とガドルガンの雄叫びだけがいつまでも響き渡っていた。
%purple% **未完「異国の勇者、京に散る」**%/% 195 だが、その刃がガドルガンに届くことはなかった。 上半身だけとなったヘルナーが、君に体当たりする勢いでガドルガンとの間に割って入ったからだ。 **「ガドルガン様! お逃げくださいぃいいいいいいい!!」** ヘルナーが声のあらん限りを尽くして絶叫したのと、君がそのままヘルナーを両断するのは同時だった。 絶命したヘルナーは黒い霧となって消滅し、突然のことで勢いを止められずに刀を振り下ろした君は着地した。 その直後に『魔空間』が消え失せ、空は再び青さを取り戻していた。 だが、君が体勢を立て直した時には既に、ガドルガンの巨躯が炎に包まれ、その姿が消えかかっていた。 君は急ぎ刀を振るったが、刃が触れる寸前でガドルガンの巨躯は消えてしまった。 刀は虚しく中空を斬っただけであった。 「グゥウ……覚えてオけ、ソーサリアン…… 京は既に、我ラ"魔"の手に落ちていル……」 腹立たしくなるほどの晴れ渡った空の下で。 今まで一切喋らなかったガドルガンの獣の唸り声にも似た声が、虚空に溶けるようにして辺りに響いたのであった。 [その後……](197) 197 これはガドルガン撤退後の話になる。 『魔空間』を維持していたヘルナーが消滅したことで、御所周辺を覆っていた『魔空間』も消滅し、本来の時が再び動き始めた。 その時、辛くもガドルガンを取り逃してしまった君ではあったが、一応の責務は果たしたということで、悔しさを感じつつも京都御苑から脱出。 それから君は、京の町で魔族と交戦していた政四郎たちと合流し、共に残党狩りをしていたのだ。 時間からすれば、丁度『禁門の変』が終盤へと差し掛かった頃で、だろうか。 その時、誰もが予想しなかった事態が起こった。 河原町にある『長州藩邸』の上空から突如として火炎弾が降り注ぎ、出火したのである。 おそらくは、ガドルガンの仕業だろう。 『長州藩邸』は激しく燃え上がり、炎はあっという間に燃え広がった。 それは御所内の『鷹司邸』から上がった火の手と合わさったことで、京の町は未だかつてないほどの大火災に見舞われることとなったのだ。 炎に包まれた町中で、君は人命救助に尽力した。 人目を避けて魔法を使い、懸命な消火活動にもあたった。 だが、この大火災は無情にも3日間は京の町を燃やし続けたのである。 京の町の約2万8000戸もの家屋が焼失したことからも分かるように、この大火災では、多くの建物と共に多くの命も失われた。 美しかった京の町は、見る影もなくなってしまったのだ。 『長州藩邸』と『鷹司邸』から出火し、炎がどんどんと町へと燃え広がる様子から、この大火災は後に**『どんどん焼け』**と呼ばれた。 [次へ](198) 198 今日は朝から雨が降っていた。 君は野外の復興作業を一旦中止した合間に、『${稲荷御旅所|いなりおたびしょ}(伏見稲荷大社)』へと足を運んでいた。 今は、京の町の復興を願って参拝した帰りである。 長らく町の復興に協力していた君は、そろそろ本格的に活動を再開するつもりでいたのだ。 「よぅ」 前方から番傘を指してやって来た男2人の内、黒っぽい着物を着た男が声をかけてきた。 もう1人の岡っ引き風の男は、微笑を称えて会釈する。 土方歳三と、変装した政四郎である。 [次へ](199) 199 まずは、『禁門の変』で伏見街道に陣を敷いていた土方たち新選組についてだ。 新選組は、街道を北上して攻め入る『${福原越後|ふくはら えちご}』の隊と交戦していた大垣藩・彦根藩の応援に駆け付けていた。 しかし、その時には既に福原隊が敗走していた。 新選組は次いで福原隊の追撃にあたったが、結局は逃げ切られてしまった。 その後、新選組が御所周辺へと駆け付ける頃には、長州軍は敗北していたため、新選組は未だ残っていた長州軍の敗残兵掃討にあたることになった。 掃討作戦時、新選組と会津藩の兵は、『禁門の変』に参戦し敗走していた『${真木和泉|まき やすおみ}』たち敗残兵を数日に亘り追っていた。 とうとう天王山まで追い詰められた真木たちは、天王山の小屋に立てこもると、爆死して果てたのだった。 ちなみに、『禁門の変』における新選組の行動については諸説あり、この解釈はその中の一つであると留意されたし。 [次へ](200) 200 次は、『黒船来航』から現在に至るまでの政四郎について。 君が日本各地を旅して回る前からも、政四郎は倭の一族の仲間と協力し、各地を飛び回って地道な諜報活動を続けていた。 彼の報告の一つに、特に気になるものがあった。 ここ数年の威圧的な外交について、『ある人物』の不審な動きが目立っているのだという。 駐日イギリス公使『ハリー・パークス』。 パークスが関わっている外交に関しては特に、脅しとしか思えない過剰な武装――幾つもの戦艦を用いての強気の交渉を行なっているらしい。 このやり口が、黒船来航時の"魔"に憑依されたペリーのやり口と酷似しているのである。 また、パークスの身辺警備は厳重で、その警備を掻い潜ってパークスの身辺を探っていた政四郎や彼の仲間も、時には操られた人間に、またある時には魔族に命を度々狙われたようだ。 厳重過ぎる警備。あまりにも出来過ぎたタイミングでの襲撃。 それらは、パークスやその周辺に"魔"との関連性など、より深い疑念を抱かざるを得ない要素となった。 君は政四郎や土方ら倭の一族には、何から何まで助けてもらっている。 今目に前にいる2人の無事を喜び、此度の件で陰から支えてくれている者達の命を賭した諜報活動を労い、心の底から深く感謝するのだった。 [次へ](201) 201 政四郎は、引き続き仲間とこの件や京、その周辺から日本各地に至るまで、情報収集を行なってくれるそうだ。 土方もまた、これまでと変わらず新選組副長として活動する一方で、引き続き"魔"の動向を探り、戦う意思を示してる。 「お前さんは、これからどうする?」 土方が擦れ違いざまにそう尋ねてきた。互いに背を向けているため、表情は読めない。 それでも君には、土方の語調がこの男にしては珍しく、何処か楽しげな響きを含んでいるように感じられた。 ふと、ガドルガンの言葉が脳裏を過ぎる。 撤退直前のガドルガンが残した不穏な言葉は、京の何処かに依然として"魔"が潜み、日本を戦禍に巻き込む機を伺っていると君に確信させたのだ。 ――なれば、自分の答えは。 君は、真っ直ぐに前を見据え、口を開いた。 その返答は、土方と政四郎が聞き取れたのみで、あとは誰に聞かれることもなく、降りしきる雨音に混じって消えたのであった。 [エンディング](202) 202 元治元年7月19日に御所周辺で起こった戦いは、御所に集結した長州軍を幕府軍が圧倒的な兵力で鎮圧し、長州軍は多くの犠牲を出す形で大敗。 後の世に『禁門の変』と呼ばれた幕府軍と長州軍との戦いは、一日で閉幕することとなった。 この歴史的な大事件の裏側では、"魔"の暗躍があった。 長州藩の急進派を煽動し、利用した魔道士ヘルナーと"魔"将軍ガドルガンの存在である。 ヘルナーとガドルガンについては、君を含めたごく限られた者しか知らない。 君や倭の一族が"魔"と日夜戦っていることも、他者にとっては知られざる真実というものだ。 しかし、君たちは戦う。 "魔"の野望を打ち砕き、この日本を救うために。 幕末ソーサリアン絵巻『京都動乱』、これにて終幕。 これは京の闇に潜み蠢く"魔"との長きに亘る戦い、その幕開けに過ぎない。 %blue% **「参:京都動乱 完」**%/% 900 **特別ルール「青年との手合わせ」** 君の攻撃を回避し、いなしてくる青年に 竹刀の一撃を打ち込まなければならない。 このルールが提示されているSceneでは、%red% 魔法やアイテムは使用できない。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、「HP」を1回押す。%/% ②%blue%ダイスを1回振り、ダメージ式ボタンを1回押す。%/% ③%blue%君のHPが20まで減るか、青年のHPが0になるまで 上記①と②の手順を繰り返すこと。%/% ④%blue%君のHPが20まで減る前に青年のHPを0にできれば **「▲自分のHP20まで減る前に青年のHPを0にした」** を選んで次のSceneに進むこと。%/% 君のHPが20まで減る前に青年のHPを0にできなければ%/% **「▼自分のHP20まで減る前に青年のHPを0にできなかった」** を選んで次のSceneに進むこと。%/% 901 **戦闘ルール「ミノタウロスとの戦い」** ①%blue%ダイスを1回振り、「HP」を1回押す。%/% ②%blue%ダイスを1回振り、ダメージ式ボタンを1回押す。%/% ③%blue%君のHPまたはMPが0まで減るか、敵のHPが0になるまで 上記①と②の手順を繰り返すこと。%/% 902 **戦闘ルール「通常戦闘」** この戦闘では、%red%どの敵から攻撃しても良い。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、ダメージ式ボタンを1回押す。%/% ②%blue%君のHPまたはMPが0まで減らなければ君の勝利。%/% 903 **特殊ルール「牛頭・来島又兵衛との一騎打ち」** この戦闘では、%red%必ず決められた順番で攻撃すること。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、「牛頭・来島又兵衛」の「HP」を1回押す。%/% ②%blue%ダイスを1回振り、「牛頭・来島又兵衛」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ③%blue%ダイスを1回振り、「斬り潰す一撃」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ④%blue%君のHPまたはMPが0まで減るか、「牛頭・来島又兵衛」のHPが0になるまで 上記①~③の手順を繰り返すこと。%/% 904 **特殊ルール「牛頭・国司信濃との一騎打ち」** この戦闘では、%red%必ず決められた順番で攻撃すること。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、「牛頭・国司信濃」の「HP」を1回押す。%/% ②%blue%ダイスを1回振り、「牛頭・国司信濃」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ③%blue%ダイスを1回振り、「幻影の舞」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ④%blue%君のHPまたはMPが0まで減るか、「牛頭・国司信濃」のHPが0になるまで 上記①~③の手順を繰り返すこと。%/% 905 **特殊ルール「牛頭・久坂玄瑞との一騎打ち」** この戦闘では、%red%必ず決められた順番で攻撃すること。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、「牛頭・久坂玄瑞」の「HP」を1回押す。%/% ②%blue%ダイスを1回振り、「牛頭・久坂玄瑞」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ③%blue%ダイスを1回振り、「諦念の呪詛」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ④%blue%君のHPまたはMPが0まで減るか、「牛頭・久坂玄瑞」のHPが0になるまで 上記①~③の手順を繰り返すこと。%/% 906 **特殊ルール「"魔"将軍ガドルガン&魔道士ヘルナー」** ヘルナーは、ガドルガンと<黒真珠>を内包する結界を守っている。 ガドルガンは、<黒真珠>と繋がって攻撃を仕掛けてくる。 この戦闘では、%red%必ず決められた順番で攻撃すること。%/% ①%blue%ダイスを1回振り、「魔道士ヘルナー」の「HP」を1回押す。%/% ②%blue%ダイスを1回振り、「魔道士ヘルナー」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ③%blue%ダイスを1回振り、「火炎弾」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ④%blue%①~③の手順を、もう1回行う。%/% ⑤%blue%ダイスを1回振り、「魔道士ヘルナー」の「HP」を1回押す。%/% ⑥%blue%ダイスを1回振り、「魔道士ヘルナー」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ⑦%blue%ダイスを1回振り、「石化弾」のダメージ式ボタンを1回押す。%/% ⑧%blue%下記3つの条件のいずれかに達するまで、①~⑦の手順を繰り返すこと。 ●%red%君のHPまたはMPが0まで減った時%/% ●%red%石化中に石化を治す手段がなくなった時%/% ●%red%「魔道士ヘルナー」のHPが0になった時%/% 998 ### 条件不成立 **%red% この選択肢を選ぶための条件を満たしていません。%/%** 指定された条件を満たすと、選択肢を選べるようになります。 下記の『元のSceneに戻る』ボタンからお戻りください。 **【ステータスが条件を満たしていない場合】** 幕末ソーサリアンの各シナリオの実績を取得し、選択肢の解放条件となっているステータスを上げることで、選択肢が選べるようになります。 **幕末ソーサリアンのステータス強化ルール(簡易版)** ①次にプレイする幕末シナリオを開始してScene 1を開いている間のみ、 幕末ソーサリアンシナリオの実積率に応じてステータスを強化できます。 ②強化ルールの詳細は、BattleSheetを開いてご確認ください。 999 **幕末ソーサリアンのステータス強化ルール** **ステータスの強化ポイントについて** 「幕末シナリオ1本の実績取得率10%ごと」に 「対象のパラメータ1つ」を+1強化することができる ※幕末シナリオ1本につき、パラメータを合計+10強化可能 ※強化ポイントを割り振ることのできるパラメータは、 「STR、INT、DEX、KRM」の4項目のみ ※割り振り例)幕末シナリオAの実績取得率100%の場合、 STR+5、INT+1、DEX+3、KRM+1 幕末シナリオBの実績取得率50%の場合、 STR+1、INT+1、DEX+2、KRM+1 **ステータスを強化できるタイミング** 「次にプレイする幕末シナリオを開始してScene 1を開いている間」のみ **強化ポイントの振り直しができるタイミング** 幕末シナリオの最終章をhappyでクリアすると、 これまでの強化ポイントを振り直すことができる ※ただし、「最終章をhappyでクリアする毎に1度だけ」 101 **しまっ……!?** 振り向きざまに、背後からの一撃。 下位や中位くらいの魔物は、そう大したことがないと油断したのがいけなかった。 君はトドメを刺し損ねた魔物に背後から攻撃され、鮮血を吹き散らしながら地へと倒れ伏した。 「安藤殿!?」 政四郎が叫ぶ声が聞こえ、次に魔物の断末魔が響き渡った。 彼が残りの魔物を斃したのだろう。 「今、傷の手当を!」 君の横にしゃがみ込んだ政四郎は、君の傷の具合を確かめると、急ぎ懐から薬を取り出して君の体にかけた。 すると、君の体が淡い光に包まれ、各部位の傷口が見る見るうちに塞がり、あとは僅かにみみず腫れを残すのみとなった。 当然、今まで感じていた激痛も消え、傷痕が多少疼くくらいにまで落ち着いていた。 心なしか新たな魔力が全身を巡っているようにも感じる。 君が少し困惑した表情で政四郎を見ると、彼は安堵したように微笑み返し、空になった小瓶の蓋を閉めて懐に仕舞った。 「処置が間に合って良かった。 これは倭の一族に伝わる秘薬の一つで、 傷を癒し、魔力を回復させる効果が あるのです」 君は政四郎の説明に納得すると、彼に面倒をかけたことを詫び、助けてくれたことに深く感謝の意を伝えた。 そんな君に政四郎は穏やかな表情のまま「こういう時はお互い様ですよ」と微笑すると、手を差し伸べた。 伸ばした手と伸ばされた手が重なり、固く手を握り合う。 君は政四郎の手を借りて立ち上がりながら、頼もしき仲間の存在に心から感謝するのだった。 %blue%**▲<倭の秘薬>の効果でHPとMPが最大値の半分回復した!**%/% [御所に向かって再び走り出す](100) 154 **こ、これは……!?** 君は足を止め、眼前に広がる異常事態にそれ以上の言葉が出なかった。 御所門付近に辿り着いた時には、確かに敵味方が入り乱れて戦闘を繰り広げていたのだ。 それが、御所周辺に砲声が鳴り響いたと同時に、空が鮮血の如く真紅に染まった。 その場にいた敵も味方も足元から石化し、瞬く間に石像と化してしまったのだ。 動ける者が石像と化し、不自然に静まり返った空間は、恐怖と不気味以外のそれではない。 まさに異常。 刹那の間に引き起こされた惨状は、人ならざる者の力で引き起こされた異常であるとしか思えなかった。 君ははっとして自分の手足を確認するが、特に痺れもなければ、石化が始まっている様子もない。 思わず安堵の息が口から漏れるが、君はすぐに気を引き締める。 上位の"魔"による攻撃は、既に始まっているのだから。 君は敵の次なる攻撃に備えて油断なく辺りを窺うが、今のところ追撃の様子はなかった。 このまま先に進めば『${蛤|はまぐり}御門』がある。 確か、砲声が轟いたのも、この方角で合っているはずだ。 [蛤御門に向かう](156) 167 「久坂殿は、『${堺町|さかいまち}御門』の先にある 『${鷹司|たかつかさ}邸』に向かったはず……。 異国の武芸者よ、彼は前途ある優秀な若人だ。 事叶わねば引けと伝えてくれ……頼む……」 国司は君に頭を下げて、震える喉から絞り出した声で懇願した。 君は、この日本で旅をしてきて、日本の武人が誇りを尊ぶ存在であることを知っていた。 だからこそ、君は国司に『託された』と素直に思うことができたのだ。 君が国司の言葉に力強く頷き、願いを聞き届けたと伝えると、彼は安堵した様子で礼を言い、そのまま石化したのだった。 次の目的地は、決まった。 君は、国司が残した助言を頼りに、久坂玄瑞らが向かったとする『堺町御門』へと急いだ。 ちなみに、この国司信濃という長州藩の若き家老のことだが、史実では、中立売御門で戦っていた国司率いる軍は、駆け付けた薩摩藩の攻撃を受けて敗走している。 『禁門の変』終結後、長州藩は天皇に叛いた『朝敵』として扱われ、『第一次長州征伐』の引き金となった。 しかし、先の戦いと『下関戦争』にて大きな損害を受けていた長州藩は、総勢15万もの征長軍とは戦わずに降伏する。 その時、征長軍の参謀となっていた薩摩藩藩士『西郷隆盛』の意思を酌んだ条件が長州藩に提示された。 長州藩はこれに従い、『禁門の変』に関わった主導者たる国司を含む長州藩の三家老を切腹させたのだった。 国司は、『禁門の変』の責任を取らされる形で、23歳と若くしてその生涯を終えたのである。 [堺町御門に向かう](171) 152 **しまっ……!?** 振り向きざまに、背後からの一撃。 下位や中位くらいの魔物は、そう大したことがないと油断したのがいけなかった。 君はトドメを刺し損ねた魔物に背後から攻撃され、鮮血を吹き散らしながら地へと倒れ伏した。 「安藤殿!?」 政四郎が叫ぶ声が聞こえ、次に魔物の断末魔が響き渡った。 彼が残りの魔物を斃したのだろう。 「今、傷の手当を!」 君の横にしゃがみ込んだ政四郎は、君の傷の具合を確かめると、急ぎ懐から薬を取り出して君の体にかけた。 すると、君の体が淡い光に包まれ、各部位の傷口が見る見るうちに塞がり、あとは僅かにみみず腫れを残すのみとなった。 当然、今まで感じていた激痛も消え、傷痕が多少疼くくらいにまで落ち着いていた。 心なしか新たな魔力が全身を巡っているようにも感じる。 君が少し困惑した表情で政四郎を見ると、彼は安堵したように微笑み返し、空になった小瓶の蓋を閉めて懐に仕舞った。 「処置が間に合って良かった。 これは倭の一族に伝わる秘薬の一つで、 傷を癒し、魔力を回復させる効果が あるのです」 君は政四郎の説明に納得すると、彼に面倒をかけたことを詫び、助けてくれたことに深く感謝の意を伝えた。 そんな君に政四郎は穏やかな表情のまま「こういう時はお互い様ですよ」と微笑すると、手を差し伸べた。 伸ばした手と伸ばされた手が重なり、固く手を握り合う。 君は政四郎の手を借りて立ち上がりながら、頼もしき仲間の存在に心から感謝するのだった。 %blue%**▲<倭の秘薬>の効果でHPとMPが最大値の半分回復した!**%/% [御所に向かって再び走り出す](100) 94 ぴくり。 三毛猫の耳が君のいる方へと向いた。 すうっと薄目を開けた三毛猫は、その金色の瞳で君を一瞥すると、くわっと欠伸をしてから君へと顔を向けた。 「なんだい、あんた。 坊やの知り合いかい?」 そう、三毛猫が姐さん口調で君に話しかけてきたのだ。 **シャ、シャベッターーーーー!!** 君は感動してつい奇声(ボリュームやや控えめ)を上げてしまったが、ジト目になった三毛猫に「うるさい」と猫パンチを喰らってしまい、慌てて口を押さえた。 もちもち肉球で爪出さずのペチン。うむ、至宝なり。 [話が進まないのでささっと次へ](95) 95 場所はがらりと変わって寺の裏側。 三毛猫姐さんに導かれるままについて行ったら、この場所に着いたという訳だ。 三毛猫姐さんは振り返ると、君の目の前で町娘の姿に変化する。 君は思わず「おおっ」と感嘆の声を上げた。 三毛猫姐さんのその姿は、色が白く、ややキツい目をした美しい人間の女性そのもので、泣きぼくろは三毛猫の名残のようなものだろうか。 先が二又になった三毛模様の尻尾がなければ、誰もが皆、目の前の女性が猫の妖怪だとは思うまい。 「ふぅ。この姿の方が、 あんたも話し掛けやすいだろう?」 無愛想な表情のまま三毛猫姐さんが言った言葉に君は頷く。 「名乗るのが遅れたね。 あたしは猫又の『おみつ』。 と言っても、今の名前は、 総司坊やが勝手につけたもんさ。 まあ、存外気に入ってはいるけどね」 おみつの表情は変わらず無愛想であったが、その声色は優しかった。 [自分の素性も明かす](96) 96 君もおみつの誠意に応えて素性を明かすと、彼女の黒目が驚きで猫の時と同じように細くなった。 が、すぐに目を伏せて、苦い笑みを浮かべて肩をすくめた。 「ああ、どうりであたしが 見えていると思ったら、 あんた、倭の一族の祖先と 同じ国の生まれだったんだねぇ」 おみつが言うには、彼女はなんと戦国時代から生きている大妖怪らしい。 当時は人間を驚かせたり、からかったりして色々と悪戯を繰り返していたようだが、その頃にペンタウァからやって来たというソーサリアンにお灸を据えられ、人間を困らせることは止めたという。 彼女曰く、若く端正な顔立ちながらも、爽やかで人懐っこい笑みが似合う好青年で、そりゃあ大層な美丈夫であったらしい。 ハンサムはおみつさんの改心に効いた、という訳だ。 それからのおみつは、時に猫として、またある時には人間として、何人もの飼い主や亭主を看取りながら、今に至るまでの生きてきたという。 今は姿を消し、うどん屋の入り口で気ままに日向ぼっこするのが彼女のマイブームということであった(時々、君や沖田のように『見えてしまう者』もいるようだが)。 [次へ](97) 97 昔を懐かしむように、恋する乙女よろしく頬を桜色に染めながら語っていたおみつであったが、君がニマニマとして話を聞いていたことに気付くと、無言でぎゅむりと頬をつままれてしまった。 おみつさん、いたいいたい。 さて、おみつも気が済んだようで、頬をぎゅむぎゅむする手が離れる。 君が自分の頬を擦っていると、咳払いをして気を取り直したおみつが、自分の首の後ろに両手を回した。 「ねぇ、総司坊やのよしみで、 あんたにこれをあげるよ」 そう言っておみつは、首に巻いていた『鈴付きの首輪』を君の手に握らせた。 君は鈴を本当に貰っても良いのかと尋ねると、おみつは遠慮するなと言わんばかりに、鈴を握らせた手にぽんと軽く触れた。 「この鈴にはね、あたしの霊力が 宿っているのさ。 ちょっとやそっとの厄災なら 跳ね返せるくらいのね。 でも、霊力だって使えば減っちまう。 ゆめゆめ過信はしないことさ」 なんと、とんでもなく凄い物を貰ってしまったようだ。 君はおみつに深々と頭を下げて礼を言うと、鈴を大切に懐へと仕舞い込んだ。 鈴なのに振っても音がしないのが不思議だったが、どうやら霊力を使った時に鳴るのだとか。 ともかく、君の職業柄、普段は音がしないのは好都合であった。 **★<猫又の妖鈴>を貰った!** ※【使用回数:5回】猫又から貰った状態異常を5回無効にする鈴 (手動でSTATUSの状態を修正すること) [次へ](98) 98 「そうだ、総司坊やのことだけど」 おみつはそう言いかけて「……ごめん、何でもない」と口をつぐんだ。 どうしたのかと気になり、君が尋ねようとした時だった。 「それじゃあ、あたしはもう行くよ。 そろそろこの辺もきな臭くなってきたし ……そうさね、あたしも長く生きてきて、 人の生き死にを見るのも疲れてきちまった。 だから、自由気ままな旅に出るのさ」 話の流れが急で、君は驚いてしまった。 だが、彼女の言うとおり、この京の町には得体の知れない何かが渦巻いている。 それに、長い長い年月を生きてきたという彼女を引き留める術を、君は持ち得なかった。 「そうそう。 総司坊やには、黙っておいとくれよ。 坊やは寂しがりやだからね、 あたしが旅に出たと知れば、 きっと悲しませちまうだろうからさ。 じゃあね、ソーサリアン」 おみつは君の返事を待つことなく、一つ尻尾の猫の姿に戻ってそのまま走り去ったのだった。 [新選組屯所に戻る](75) 90000 戻る用Scene