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2017-2020, SORCERIAN Next Team
0 ここはペンタウァ。 王様の治める、平和な国。 些細ないざこざは絶えないが、大きな戦乱もなく平和な国である。 それもこれも、国を影から支える武人たちの活躍があればこそ。 その名も、ソーサリアン! さて、あなたはそのソーサリアンの一人。 今回も王様から受けた極秘の依頼を終了させ、 ペンタウァに戻ってきたところだ。 宿を探すあなたに、ぶつかる人影あり。 「あ……申し訳ありません……」 な、なんということだ。 確かに見た。その小柄な女性の腕が、 体からもぎ取れ地面に転がり落ちる所を。 慌てふためくあなたに声をかける。 「気になさらず。この腕は本物ではありません。 わたしは人ではありませんから」 ようやくそこで、彼女の姿の異様に気づく。 感情のうかがえぬ仮面のような無表情。ガラスの瞳。 旅でくたびれた服。その袖口にちぎれた腕。血は一滴も出ず、 何やら怪しげな配線が見えるのみ。 彼女は……人形だったのだ。 「わたしの名前はミナナ。 マスターのためにこの町に薬草を買いに来たのです」 ![人行き交う王都](01pixnio01.jpg) [次へ](1) 1 その体ではお使いも大変だろう。 責任の一端を感じたあなたは、彼女を手伝うことに決めた。 ちょうど新しい依頼もなく時間はある。 町を回り、助けになりそうなものを探そう。 「すみません。お気遣い感謝します」 [酒場](20 "-f1") [(済)酒場](20 "f1") [道具屋](21) [洋服屋](22 "-f2") [(済)洋服屋](22 "f2") 20 酒場に寄った。 隣国から来た旅行者、出稼ぎに来たもの、 今日の仕事を終わらせ喉を潤しに来たもの。 様々な客層が集まり、ざわざわと喧騒の尽きることがない。 「ここは食事を、取る場所ですね。 わたしは食事を必要としませんが、 食事をする時の人の顔を見るのは好ましくあります。 みんな楽しそうで」 ミナナは辺りを見回しながら言う。 「よう姉ちゃん! こっちきてお酒ついでくれよ!」 ふらふらと寄ってきた失礼な酔っぱらいを蹴り飛ばし、 ミナナの声に耳を傾ける。 「マスターは、食事の時間は大事にせよと申しておりました。 マスターのお屋敷に人はいません。みな、人形のみ。 わたしたちを、ただの道具としてだけでなく、 一体一体、大切に接してくれます」 表情は変わらずとも、主人のことを語るミナナはどこか楽しげだ。 人形にも心はあるのだろうか。 それとも、そうであってほしいという思いが、 そのように感じさせるのだろうか。 ここには特に必要なものはなかったようだ。 適当に切り上げて次に進もう。 ![賑やかな酒場](02yado-haitta.jpg) [戻る](1) 21 道具屋を訪れた。 いろいろなものが売っている。さて、何を買おうか。 ![道具屋](04konoka-F1000245.jpg) [丈夫なヒモ](31 "-f3") [(済)丈夫なヒモ](31 "f3") [薬草を買う(イベント進行)](32) [立派な箒だ](33 "-f4") [(済)立派な箒だ](33 "f4") [戻る](1) 22 洋服屋に入ってみた。 ボロボロの服ではあまりにかわいそうだ。 適当な服を見繕うことにする。 ![洋服屋](03konoka-F1000356.jpg) [ワンピース](221) [重装備の鎧](222) [動きやすい男装](223) 221 「こんな綺麗な服を……よいのですか」 リボンやフリルをあしらった、可愛らしいワンピース。 ミナナはふわりと回ってみせる。 思わず心を奪われる可憐さだ。 「屋敷にも、こういった可愛らしい服を着る少女の人形がいますよ」 「屈託なく笑い、周りに楽しさを共有してくれる、素敵な子。 あの子にはふさわしいでしょうが、 わたしには少し不相応なようですね」 そんなことはないと思うが。ミナナも十分かわいい、そう言うと。 特に返事はなかったが。 スカートの裾をぱたぱたと振っていた。 あれはどういう意味だろうか? [もう一度選び直す](22) [これでよい](224) 222 なんでも揃うペンタウァの洋服屋。 特別な意図があったわけではない。 なぜだかわからないが、気がつけば 無骨な重装備一式を購入していた。 「これは……身につけると勇気が出てきますね。 これでわたしも戦えます」 胸を張るミナナ。 「ああ、ああ。駄目です。重すぎます。動けません」 ガタガタガタ。崩れ落ちるミナナ。 わああ、失敗だ。 床に転がるミナナを慌てて助け起こす。 [もう一度選び直す](22) [これでよい](224) 223 「おや、これは男性の服では?」 手渡した服を着て、意外そうに自分の姿を眺めるミナナ。 「いえ、文句はございません。 こういう動きやすい服を 与えられたことはなかったものですから」 「軽やか。ピクニックにでも行きたくなりますよね」 スキップをしだす。 「わたし、夢があったんです。一度、こういう格好をして、 男の子のように泥だらけになるまで駆け回りたいなって」 変わった願い事だ。 いい大人が言い出したら、ちょっと笑ってしまうが、 彼女は人形。人とは違う。そういうものかもしれない。 いいんじゃないか。そう言ってみる。 「では、そのときはあなたも誘いますね」 変な約束を取り付けられてしまった。 [もう一度選び直す](22) [これでよい](224) 224 「ありがとうございます。 おかげさまで見違えるほどになりました。 ですが、もったいなくて普段は着られませんね。 大切な場面で使えるよう、大事にとっておきますね」 着てもらわなければ意味が無いのだが。 まあ、強要もできない。何を着るかは彼女に任せよう。 [戻る](1) 31 丈夫なヒモを購入した。 「必要なのは薬草ですよ? ……あ」 あなたは、落としてしまったミナナの腕をヒモで仮止めをしてあげた。 自由に動かすわけには行かないが、何もしないよりはマシだろう。 「あ……ありがとうございます。気を使ってもらってしまいました」 [戻る](21) 32 「ありました。この薬草が必要なんです」 品書きを読んでみる。 調合することで万病に効果のある薬となるようだ。 誰かが病気なのだろうか? 「マスターは、ここのところ体調が優れません。 大事に至る前に治療を受けていただこうと思うのです」 お使いというのは主人のための薬だったのか。 主人を大切にしている様子がありありと伝わってくる。 「おやおやぁ? 人ならざるものの匂いがしますねえ。」 カウンターで商品を物色していると、後ろから声をかけられる。 「人形、貴様の製作者は誰です? いーや、結構! 喋らんでも! こちらで勝手に判断します!」 身なりの良さそうな、着飾った格好。 顔には片眼鏡。 中年の男が店の入口に立っていた。 少年を二人連れている。従者だろうか? その男は無遠慮にミナナに近づく。 「んんん~? この特徴的な関節構造、手足の細さ…… 足裏を見せなさい!」 男はミナナの足をつかむと無造作にひっくり返した。 ミナナは声を上げる間もなく仰向けに転がる。 ガンッ 大きな音がする。頭を打たなかっただろうか。 なんという横暴だ。抗議の声を上げる。 「なんですか貴殿は? この人形のマスターではあるまい。 外野は黙っておきなさい!」 目をぐるぐるまわし、絡んでくる。 「人形であることは貴殿も承知しているでしょう? 少々手荒に扱ったからって、何なんです」 そういう問題ではない。あなたの文句などまるで気にせず、 ミナナの足を掴んで一人ブツブツとつぶやく男。 「やはり、予想通り。この趣味の悪さはビルヒルトの作品か」 見ているのは彼女の足裏。 そこには、数字と記号が彫られていた。 よくわからないが、製造コードのようなものだろうか? ミナナは特に抵抗することもなく、 頭を床につけた体勢で虚ろに天井を見つめているが。 会ったのはつい先程とはいえ、多少なりとも時間をともに過ごした関係。 人形だからと言われて、乱暴に扱われて黙ってはおれない。 離せ、と男の肩を掴み、力を入れる。 すると男はあっさりミナナを離した。 「相変わらず、作り込みの甘い作風なことです。 ムダも多い。おそらく、未だ全行程を手で作っているのでしょう。 参考にできることなど、一つもありませんね」 この偉そうな男は何者か。 男は髪をかきあげ、なんだかキザなポーズを決める。 「吾輩はモンテス。人形作りをなりわいにしておるものです。 職業病でしてね、他の人形を見ると確認をせずにはおれんのだ。 貴殿の気にさわったのなら謝罪しようじゃありませんか」 くるくると踊りだす。 もしかして、それで謝っているつもりなのだろうか。 気勢を削がれてしまった。上げた手を下ろす。 モンテスと名乗った人形遣いは、やりたいことも終わったのか、 大げさな礼をしたのち、行ってしまった。 大丈夫かと声をかけ、ミナナを助け起こす。 「お気になさらず。この程度では壊れませんので」 不思議そうに首をかしげる。 「人形のわたしに親切をしてくれてありがとうございます。 あなたは珍しいお方ですね」 「今度、お屋敷に来てくださいますか。 歓迎します。お茶でもお出ししますよ」 何事もなかったかのように、ミナナは帰っていった。 [次へ](4) 33 立派な箒が売っていたので思わず購入した。 用途は考えてもいない。 「箒……確かにわたしは、屋敷のお掃除も担当しますが」 困ったようにミナナは言う。 「今の、この腕では……あ、つまりこういうことですか」 スポッ 箒を落とした腕の方にはめる。 ぴったりだ。喜んでいいのかわからないが。 「ありがとうございます。これで掃除が捗ります」 チクチク。なぜだか顔を箒で撫でられる。 痛い、痛い。ちょっと、痛い。 もしかして、怒っている? 特に表情を変えることもなく答えるミナナ。 「怒りはしませんが、汚いものは綺麗にしないと」 怒っている……! 顔が穂先で傷だらけになる前に謝ったほうがよさそうだ。 [戻る](21) 4 2ヶ月後。 ここのところペンタウァを震え上がらせる事件あり。 おぞましき猟奇事件。 あるものは腕を奪われ、あるものは足を切り取られ、 体の一部が損壊した状態で死体が発見されるのだ。 国民は震え上がり、王宮に助けを求める声は 日に日に大きくなっていった。 夜のペンタウァ。ある任務を終えたあなたは、 夜になってやっと町にたどり着く。 早く食事にありつきたい。いや、それよりも宿を探さなくては。 今日は雲も多く、月が隠れている。 あまり外を歩いていたくない。 足早に町中を通り抜けていると、唐突に聞こえた。 ガタンと大きな物音。奥まった物置の方からだ。 駆け寄るあなた。そこにいたのは…… 闇夜にギラギラと輝く瞳。 関節を一つ増やしたかのような、不自然に長い腕。 異形の怪物の姿。 近くには気を失った紳士が倒れていた。 襲われている……! 撃退しなくてはならない。 あなたは武器を構え、異形の怪物に飛びかかる! ガキィン……! 怪物はなんと、腕で武器を受け止めた。 固い。生身の腕ではあるまい。 その時、雲の切れ目から月が覗き、わずかに灯りがさした。 「……!」 驚きのあまり、武器を握る力を弱めてしまった。 そのすきに怪物はあなたを振り払い、 塀を飛び越し、逃げ去ってしまった。 その姿は。その顔は。 この前、あなたがおつかいの手伝いをした人形のものだったのだ。 ![夜の街](05Gold-Fish-house-09.jpg) [次へ](5) 5 あくる朝。王宮におもむき、大臣に事情を説明した。 早急に討伐隊が編成される。 慌ただしく動き出す王宮。 そして、一人の男が召喚される。 「人形が人を襲うですってぇ? 製作者は誰です? 人形遣いの風上にも置けません!」 片眼鏡にギョロギョロと動く目玉。大げさでやや滑稽な仕草。 そしておつきの二人の少年。 専門家として呼ばれたのは、あなたも以前出会ったモンテスだったのだ。 あなたは人形の容姿や状況を説明する。 「ほう、ビルヒルトの人形が人を襲った? あのもうろくじじいめ! ついにとち狂ったか! 嘆かわしい、嘆かわしいことですね……!」 そう言うわりには、嬉しそうに哄笑するモンテス。 「ビルヒルトと言うのは変人の人形遣いでしてね。 人形遣いの集いにも出席せず、 一人森の奥にこもっておるような男です。 この前、貴殿が連れていたのもあやつの人形だったのです」 歩き出し、講師風に指を振るモンテス。 「人形はただの魔物とは違うのです。 対処を間違えれば、戦士といえども被害は免れぬ」 「よろしい、吾輩が討伐隊の指揮を取らせていただく」 事情を知るものとして、討伐隊に組み込まれるあなた。 そして何より、彼女のことを放ってはおけない。 [次へ](6) 6 向かうは森の奥の古びた洋館。 ビルヒルトはこの洋館で一人、人形と暮らしているという。 街道からもずれており、周辺には凶暴な獣も多い。 これは用がなければ立ち入るまい。 「人形遣いは吾輩を除き偏屈な人間が多いが、 彼のように全く人と会わないタイプも珍しい。 一人で暮らしているうちに、気でも狂ってしまったのですねえ」 あなたは疑問を口にしてみる。 今回の事件はビルヒルトが仕組んだのだろうか。 人形自身の犯行ではないと? 「なにをおっしゃる。当然ではありませんか。 人形は意志を持たぬ。 マスターの命令に従ってしか行動せんのです」 前にミナナと会った時、彼女には意志があったように感じたが…… 「人とは勘違いをする生き物でしてね。 ちょっとしたことで簡単に、対象に生命があると思い込む」 例えば、と前置きして。 「いらえがあること。会話が成り立つこと。 それだけで、意志があると思い込むのですよ」 そんな会話をしながら、うっそうとした森をぬける。 その時。 向こうから複数の影。 人形の群れである。 その全てが女性の姿をしており、清楚な給仕の装い、 きらびやかな貴婦人の装い、愛くるしい少女の装い…… 華やかで可憐な姿に心を奪われそうになるが、 その手に持つものがそんな雰囲気を台無しにしていた。 ノコギリ、棍棒、大なたなど、 思い思いの武器を振り回す姿はなんとも猛々しい。 交戦は免れない……! 「おっほ、お出ましですよ! 手厚い歓迎にハートが熱くなりますことですッ」 武器を構えるあなた。それを右手で制止するモンテス。 「ふふふ、人形には人形を。ソーサリアン殿の力は必要ありませぬ」 左手をパチンと鳴らす。声高らかに張り上げる。 「アルト、ソプラノ!」 するとどうだろう、モンテスに付き従っていた少年たちに変化が。 ガクガクと体を振動させ、体の節々から武器が出現した。 無数のナイフを取り出し、その姿はさながらハリネズミのよう。 あんな体で近づかれたらたまったものではない。 もう一体は、首がカクンと折れ、 そこからうねうねと暴れまわるムチが飛び出す。 ナイフの人形が敵陣に飛び込み、切り刻み、 ムチが、暴れまわり人形たちを粉々に粉砕していく。 彼らも人形だったのだ。 「吾輩の人形はコンパクトさと携帯性が売りでしてね。 二体もいれば、一個師団に劣らぬ活躍をしてあげましょう」 人形同士の激しい攻防。高速で回転する歯車。舞い上がる土煙。 あとには破壊のあと。動かなくなった人形、転がる手足。 もとの少年らしい愛らしさなどどこにも感じさせない。 そこにいたのは、ただの兵器であった。 援護をしようにも、入り込むすきもない。 下手をすれば巻き込まれかねない。 様々な戦いをこなしてきたあなたにも、 それはなかなかに異様な光景であった。 「アルト、ソプラノ! 戻れ!」 最後の人形を破壊し、武器を収納する二体。 変形し、少年の姿に戻っていく。 少年たちは華奢で物静かで、とても従順そうに見える。 一度見ているにもかかわらず、 あのような破壊を引き起こすとは信じられないほどだ。 「ムフフ。それこそが狙いなのですよ。相手を油断させ、 あっという間に命を刈り取る。残酷に、美しく」 屋敷はもう少しだ。 ![生い茂る森](06csl-Img-006.jpg) [次へ](7) 7 たどり着いた洋館。 外からでははっきりと言えないが、 静まり返っており人の気配はない。 人形を除けばビルヒルトは一人で住んでいるという。 今もそうなのだろうか。 とくに妨害もなく、屋敷の中に入ることができた。 そのとき。 バタン。 背後で扉が勝手に閉まる。 慌てて扉を開けようとするも開かない。 鍵が? 馬鹿な、鍵は内側だ。 なぜ開かない。ガチャガチャ、ドアノブを動かすもびくともせず。 そして吹き抜けから飛び降りてくる人影。 危ない! 思わず声をかけるも―― 降りてきた人物は顔をあげ、何事もないかのように立ち上がる。 その顔は。 禍々しい微笑。だがそれも口元だけで、 ギラギラと輝く目を見れば、決して笑っているとは思えない。 昨日会ったばかりの顔。ミナナ、とあなたはこぼす。 その声が届いたかわからない。 「おっほ! 主役がいきなり現れるとは。 探す手間が省けたというものです。 アルト、ソプラノ。準備なさい!」 「お前たちが外の人形を壊したな? 許さない。同じ苦しみを、 いやもっとひどい苦しみを与えてやる。 決して逃さない。壊して、廃棄所に送ってやる……!」 「はっ 逆恨みもいいところですねえ。 あなたこそ廃棄所送りにしてあげましょう!」 ミナナ! とあなたは声を上げるが、 彼女はまるで見向きもしない。 信じられない速度でモンテスのそばに駆け寄り、 「馬鹿なッ……うお、うお、守れアルト!」 半ば少年人形を盾にする形で攻撃を防ぐ。 ガガガガガガガ 凄まじい衝撃! そのまま彼女は拳を振り下ろす! それはアルトの懸命な防御で僅かに方向にそらされ、 床に叩きつけられる! ひび割れる床面! 足を取られ、倒れ込むあなた。 止まらぬ揺れ。再度の、激しい衝撃。 そして、崩壊した。 屋敷の床が衝撃に耐えられず抜けたのだ。 ぽっかりと、奈落の暗闇が覗く。 必死に縁に手を伸ばすも――届かない! あなたは、下の階層へと叩きつけられた! [次へ](8) 8 薄暗い部屋。カサカサと音がする。 ネズミ……だろうか。 あなたはゆっくりと目を覚ます。 天井から光が差している。あそこから落ちたのだろう。 思いの外、高い。あそこから登るのは無理そうだ。 モンテスたちともはぐれてしまったようだ。 仕方ない、道を探して、合流するしかない。 あなたは、上体を起こし、 「あ、大丈夫ですか。体を痛めたのではありませんか」 うわぁと気の抜けた声をあげてしまう。 小首をかしげ、不思議そうにこちらを見る。 薄暗闇に光るふたつのガラス玉が、 相手が人でないことを気づかせてくれる。 「また、会いましたね」 擦り切れた古いドレス。その格好は、ペンタウァで会ったときのもので。 ミナナ……!? あなたは先程の戦闘を思い出し、飛び起きて武器を構える。 「落ち着いて。……その様子では、すでに会ったようですね、カルナに」 ミナナは語りだす。 「カルナはわたしの後継モデルの人形です。 背格好や顔つきも同じ。いわば姉妹機といえるでしょう。 ただ、ずっと高性能で、戦闘も可能とか。 彼女の凶行は聞いています。 ペンタウァの人々に大変な恐怖を与えているとか。 わたしも大変心を痛めています」 そうだったのか。ともかく、ミナナが犯人でなくてよかった。 こんな状況だが、再開できたことを喜ぶ二人。 だが、そこで疑問が生じる。 カルナだけではない。他の人形も、襲ってきた。 それは、主人ビルヒルトの命令だからではないのか? ミナナはなぜ、その命令に従わないのか? ミナナは思わしげにうつむく。 「マスターは……お体の調子が悪いのです。 カルナは、マスターに特にかわいがってもらっていた個体。 マスターの体調が崩れてから、一番に看病を続けて、 ほとんどの人形に近寄ることすら拒むのです」 「何か、彼女だけの特別な命を受けたのかもしれません。 わたしはそれを聞くことができなかった。 わたしは、長いことマスターと直接お話できていないのです」 「お願いがあるんです。カルナを、マスターを止めてもらえませんか。 いかな理由があろうと、他の方々を傷つけてよいとは思えないのです」 もとよりそのつもりだ。 そして、やはりミナナはミナナであった。 人を思いやり、優しさを忘れずにいられる子であることを知り、 ほっと胸をなでおろす。 ともかく動かねばならない。 そのとき、遠くの方で破壊音がした。戦闘だろうか。 モンテスの方も行動を再開したのかもしれない。 「あれは、あなたのお連れ様ですか? ああ、悲鳴が……人形の悲鳴が聞こえます」 「お願いです。カルナに同調したのかもしれませんが、 他の人形もわたしの同僚なのです。 なんとか、彼らも助けてあげてもらえませんか」 ミナナには言えなかったが、 すでに森で多くの人形を破壊してしまっている。 すべての人形を助けるのは難しいかもしれない。 ならば――早くビルヒルトに会って、真意をただすことだ。 それが最善の選択。 あなたはミナナに道案内を頼み、急いで行動を開始した。 ![人形のある部屋](07ashinari-a0790-000151.jpg) [次へ](9) 9 道中、疑問に思っていたことを口にする。 なぜ、ミナナはこちらの味方をするのか。 ミナナから見れば、こちらは主人の身を脅かす敵ではないのか。 人形は主人の命令が最優先ではないのか。 そう言うと、彼女はかぶりをふった。 「それは、もちろん。 ただ……そのために、人を傷つけて良いとは思えないのです。 手足を奪えば、その後の生活に多大な支障が出ましょう。 奪われてしまっては、修理もできません。 そのような暴挙が、正しいとは思えないのです」 修理か。表現が、なんとも人形らしい発想だ。 そして、やはりカルナは人体を集めているのか。 一体何のために……? 「会えたのが、あなたでよかった」 階段に差し掛かる頃、ぽつりと、ミナナはいう。 「町で優しくしていただき、大変嬉しかったです」 なぜ、このタイミングでそんなことを? そんな大したことはしていない。 「あなたには伝えておかないと……」 ミナナはあなたの少し前を行き、正面を向いたまま。 そのままの姿勢で話す。 「先程の表現は、正しくなかったかもしれません。 長いことマスターと会っていないと。 それはカルナが拒むからではなく。 わたしが――マスターからもう必要とされていないから」 「カルナが作られたから。わたしは失敗作だから。 旧式だから。こうやって表情ひとつ変えることができないから」 「だから、今回のこともお声がかからなかった」 ミナナの告白。そんな、君はこんなにも主人のことを考えているのに。 この前だって、主人のために薬を買いに行ったではないか。 「あれも、正しく届けられているかどうか―― マスターには会えないので、カルナに手渡したのです」 「マスターのお役に立つため作られて…… その役目を失った人形は、一体どうすればよいのでしょうか? この屋敷で、わたしの居場所など―――」 その問いに答える言葉を持ち合わせず。 ただ、言葉は 拡散して消えた。 前を進む彼女。その表情はうかがいしれない。 いや、相手は人形。 回り込んで見れば無表情であることは容易に想像できる。 ただ、ただ それでも。 [次へ](10) 10 階段を上がり、ようやくもとの階層に戻る。 「むっ ようやく合流しましたね。 まったく、いてもいなくても大して役にたたぬのだから 迷惑にだけはなってほしく、おっと、口が滑りました。 おほほ……ま、これで先へ進めます。参りましょう」 そこには、モンテスたちがいた。 大変な言われようだが、いちいち相手にはしていられない。 そのとき、モンテスの目がぎょろりと飛び出し、 激しく指を突きつけられる。 「あなたッ……! その人形はなんですッ!」 説明するのを忘れていた。彼女はミナナ。 同じくビルヒルトの人形だが、協力をしてくれる。 彼女に道案内をしてもらおう。 そう言うや、いなや。 「協力ゥ!? 何を馬鹿な。 我々は、つい今しがた、その人形に襲われたですよォ!?」 「同じタイプの人形? はっ わかるものですか。 騙しているに決まっている。 だいたいね。ビルヒルトがこの騒動の首謀者なのです。 彼が作った人形など、はじめから全部壊すつもりでしたよ 吾輩は!」 なんというやつだ。 思わず、ミナナの盾になろうと一歩前に進む。 姉妹と違って戦う能力はないようだ。 彼女は敵ではない。壊させるわけにはいかない。 目を細めるモンテス。 「ほう……なんですか、その行動は。 薄々感じていましが、やはり貴殿も人形側というわけですね」 「犯罪者の肩を持つもの、許すまじ! 貴殿も始末して差し上げましょう! ――ゆけ!」 号令とともに襲いかかる二体の少年人形。 先程の戦いは見ていた。とても手に追える相手ではない! ミナナが叫ぶ声がする。 ミナナの腕を取り、駆け出す。そして、狭い廊下へ、放り投げる! いささか乱暴だが背に腹は変えられない。 そして絶対に通さない覚悟で攻撃を防ぐ。 廊下は狭い。人形は脅威だが、一度に二体の相手はせずに済む。 まず向かってきたのは、無数のナイフを体の節々からうごめかせる人形。 ソプラノ、だったか。 一本一本は単純な軌道とは言え、手数が多すぎる。 何より、人間の筋肉の動きを無視した軌道は、意表を突かれる。 弾き返した右手が、体の後ろを回って左から襲いかかる! 一切の油断ができない。 「ちぃぃい 小賢しい! 廊下に誘い込もうなどずる賢い!」 地団駄を踏む。かと思えば急にニヤリとする。 「だがまあ、それこそが人の限界と言うもの。 狭い通路ならば同時に襲われない? なぜ?」 モンテスが何か叫んでいるが、正直意識している余裕がない。 そして、はたとあなたは気づく。人形一体は交戦中だが。 もう一体、攻めあぐねいていたはずの人形が……いない。 そのとき、後方の廊下の壁が振動を起こし突き崩される! しまった……隣の部屋から回り込まれたのだ……ッ! 挟み込まれた! ムチの人形はミナナをターゲットにしたようだ。 ミナナ、逃げろと声をかける時間もなく。 残酷な人形のムチがしなり、 そして。 人形に阻まれた。 「!?」 廊下の奥から、何体もの人形が現れたのだ。 一体がムチの人形、アルトの体にまとわりつき動きを封じる。 一体では、倒するには至らない。 すぐさまアルトの猛攻にあい、ボロクズのように投げ捨てられる。 するとさらに一体が飛びつく。 「あ……みなさん……」 屋敷の人形が現れたようだ。 これだけの騒ぎを起こせば当然か。 ミナナを助けてくれているのだろうか・・・? 「ほれ見なさい。どう考えてもそこの人形は こやつらの一味なのですッ!」 彼らの真意などどうでもいい。 絶対の危機が回避できたのなら、 そのすきにとミナナの方に駆け寄るあなた。 しかし、屋敷の人形たちに阻まれ、達成できない。 ミナナを助けたからといって、 こちらの味方をしてくれるわけではないようだ。 そればかりか切りかかってくる。対応で必死だ。 「あっ」 人形の向こう側で、ミナナが声をあげる。 見れば、人形はミナナを抱きかかえている。 もがくミナナ。しかし力が足りない、振りほどくことができず、 人形は、ミナナを抱え込むと。 奥まで走り去ってしまった。 「なんだなんだ? 仲間割れか? よくわかりませんねぇ…… っと! それどころではないか! 今はこやつらをなんとかせねば」 モンテスは周りの人形と戦っていく。 一体では相手をしきれず、たまらず二体とも呼び寄せた。 「あ! こら! 貴殿! どこへ行く! こいつらの後始末をちゃんとしなさい!」 この機を逃すわけにはいかない。 周りの人形の相手をモンテスに任せ、あなたはミナナを追う。 嫌な予感がする。 [次へ](11) 11 「人間がうろちょろしていると思ったら、 お前が裏で動いていたのね。 今更何をしにきた。旧型――」 「あなたを止めなければ。カルナ」 廊下の奥。扉を開けた先。 広間で向かい合う同じ顔。 しかし、よくよく見ればまるで違う。 ミナナは無表情。およそ感情というものが欠落した、 まさに人形というべき姿。 一方カルナは。言葉に合わせとても滑らかに表情が変わる。 人間と言われても信じてしまいそうだ。 しかし、ギラギラと輝く瞳が感情豊かという表現を頑なに拒む。 ミナナを返せと、訴える。 「消えろ! 今ならまだ見逃してやる。 仲間を壊したお前たちにはやりすぎなくらい。ありがたく思え」 取り付くしまもない。 無駄かもしれないが、会話で時間を稼いでみる。 首謀者、ビルヒルトに会わせろ、と。その目的を問いただしてやる、と。 「マスターは関係ない。 これはわたしがマスターのために自分で行っていること」 これには、ミナナのほうが意外だったようだ。 「あなたの、独断? なぜ」 「わたしはお前のような旧型とは違う。 何がマスターにとって一番必要か、 自分で考え、そのために行動することができるのよ」 罪のない人を殺すことが、主人のためだと言うのか。 間違っている。 「間違ってなどいない! マスターはご病気なのだ。 ご病気を治すためには、多くの部品がいる!」 手をあげるカルナ。それに応じて、カーテンをめくる人形たち。 部屋の奥、隠されていたものが明らかに。 それは、ひとつの地獄絵図。 奥には、ひとつのベッド。そこに腰掛けるは。 干からびたミイラ。 そしてそれを彩る、おびただしい数の、人体の一部と見られるもの。 腕、足。そしてああ、なんということだ。 あのバケツに入っているのは、人の内臓ではないだろうか…… 「どれもマスターにあわない。動く部品が見つからない! もっと、多くの部品を合わせなくては!」 事件の全容が見えるに従い、めまいがしてくる。 なんということだ。これでは、ただの徒労ではないか。無駄。 死んだ人間が生き返るわけがない。 ミナナ、君は気づかなかったのか? カルナのこの奇行に気づいていれば、話も違っていたはずなのに。 そうしてミナナに声をかけようとして、背筋に冷たいものが走る。 「マスター、相変わらずお体の調子が悪いのですね…… ですが、カルナ。それで他の人に迷惑をかけるわけにはいきません」 ミナナに、驚きの仕草は何も見られなかった。 君の主人が死んでいたんだぞ。なぜ平然としているんだ。 まてよ……? 気づいてしまった。 ミイラ化。一体、何日経っている? 二人はそれを、わからないのか? 人の死と言うものが。 ただ、変化して、動かなくなっただけだと。そう思っているのだろうか? 手足を取り替えればまた動くと信じて――― めまいを感じつつも、あなたは訴えかける。 死んだ人間は、何をしても生き返ることはない。 人形じゃない。失った魂は、もうそこにはない。 「でまかせだ! マスターは必ず調子を取り戻される!」 お前が無慈悲に体を奪った人々はどうなったと思う。 みな、死んだ…… 体だけではない。命が奪われたのだ。 取り返しがつかない、もう二度と動くことはない…… ミナナは呆然と呟く。 「わたしたちは取り返しの付かないことを してしまったのでしょうか……?」 動揺が伝わったのか、周りの人形も動きが鈍る。 そこに、カルナの怒気。 「お前か? お前の言葉がわたしたちを惑わすのか? これは悪魔の言葉か?」 「動けなくしてやる。足をはねて。声を出せなくしてやる。首をはねて」 もう、お前の主人は生き返らない。戦い自体が無意味なのに。 声は届かず。戦う姿勢を崩さないカルナ。 どちらにしろ、これだけの罪を犯した人形を見逃すわけにはいかない。 ミナナとの約束が頭をよぎるが、時、すでに遅し。 あなたは武器を構える。 「あ……あ……あ……」 ミナナは動かない。 「カルナを、壊さないでください。大変なことをしてしまった。 それでも、彼女は、わたしの姉妹なのです」 無茶をいう。これだけのことをして許されるわけがない。 まして、ここで仕留めなければ、やられるのはこちらだ。 「わたしが説得します」 ……できるだろうか? できなかったからこそ、この事態を引き起こしたのでは。 ただ、ミナナの表情を見たあなたは。 変わらずの無表情に、強き想いを感じたあなたは。 ![あやしき広間](08ayaemo-european-in11-cloud-by-futureshape.jpg) [任せてみる](12) 12 「はっ マスターに捨てられたお前の言葉が、 今更わたしに届くと思って?」 「たしかに、わたしはもう忘れられてしまった」 「食卓でマスターとともに笑い、歌った、あの日々は帰ってこない。 わたしの胸の中にしか、残っていない」 「でも、そのおかげで、わたしは 少しだけ自由になったのかもしれません」 「自由? くだらない。誰かに尽くすこと。 愛すること、愛していただくこと。 それがすべて。それがない人形なんて、無意味だわ」 「わたしは、まだ存在できている。 そして、他の方の言葉にも耳を傾けることができた。 そこの方が言う死というものは まだわたしにはわからないけど。 その言葉が、嘘ではない。真実だとわかるのです」 こちらを振り向く。まっすぐ見つめ、問いかけられる。 「教えてください。死というのは…… どこか遠くに行ってしまうようなものなのでしょうか?」 そう。二度と帰ってこれない、遠い場所に行ってしまったのだ。 「ならば。わたしたちはマスターの門出を 静かに祝うべきなのではないでしょうか? これ以上は、マスターのご迷惑になってしまう……」 カルナは激しくかぶりをふる。 「わからない! 遠くへ行った? なにを! マスターは、ここにいるじゃない!」 静かに、妹を見つめる瞳。 「わたしは、あなたたちが心配なのです。ここに囚われ、未来が、ない」 感情を露わにして、姉を見つめる憎しみの瞳。 「わたしはマスターと一心同体なのよ。 マスターだけ行ってしまうだなんて耐えられない……!」 「あなたは……邪悪だわ。マスターの復活を阻み脅かす悪魔。 姉妹のよしみで見逃してあげてたけど……もうおしまい。 許してはおけない。」 説得は失敗だ! 素早くミナナの前に立ちふさがる。飛びかかるカルナを防ぐ。 「おのれ許さんぞ人間……!」 攻撃は相変わらず激しい。―――しかし。 その攻撃に、困惑を、感じた。僅かな、迷いを。 幾多の戦いをくぐり抜けてきたあなたが、それを見逃すはずがない。 一瞬のすきをつき、押し返し、足を払い、 「あっ」 返す刀で、腕を両断する! 「あああああ!」 胸は痛むが、これで無力化できた。 なんとか、完全に壊すことなく、戦いを終えられた。 「負けた……だと。好きにしろ‥…」 「カルナ。これからは自分のために生きるんです」 「自分のために? 人形が‥…? バカバカしい……」 戦闘中、あれほどの脅威を感じたカルナ。 今の姿からはまるで感じられない。 [次へ](13) 13 「やれやれ、ようやく追いついた。 ……! このありさまは。 なんとなんと、ビルヒルトはすでに死んでいたとは。 驚くべきことです」 モンテスらが広間に入ってくる。 事情を説明する。戦いは終わったのだ。 「なるほどなるほど、マスターの死を理解できずに、か。 悲しいすれ違いというわけですね」 顎に手をやり、思案げに頷くモンテス。 では、と間を入れ。 「全て燃やさねばなるまいな……!」 もう戦いは終わったのだ、そんなにまでして人形を壊したいのか……! 「貴殿こそ目が曇っているのではないか!? どうあれその人形が大量殺人の原因なのですよ。 どこの誰が、無罪放免で許してくれるというのです!?」 ギュルルルル! モンテスは人形を稼働させる。 「あくまで攻撃してくるつもりか……おとなしく壊されてやるものか!」 カルナが飛び出す。周りの人形もそれに呼応してすべて飛び出す! 「もうやめてください! もう戦う必要はないのに!」 ミナナの叫び。カルナは、もう十分戦えないはずなのに。 腕を落としたことが悔やまれる。 「戦う必要がない? 貴様も当事者なのに他人事ですねえ。 もちろん貴様も壊してさしあげますよ! 危険な人形、一つとして残してはおけない!」 「させるか!」 必死に少年人形に取り付くカルナ。それに語りかけるモンテス。 「どのみち、マスターを失った人形など……無意味。 その価値を失い、消え去るが運命でしょう。 ならば、引導を渡してやるのが、せめてもの優しさというモノ」 優しげとすら言える声色。 カルナは一層憎しみの形相。 「ほざけ……!」 ギリギリと、締め上げられる体。 加勢したいが、こちらにはもう一体が攻撃を仕掛けている。 ミナナを守るため、ここを離れることができない。 少年人形は強敵である。 目の前の人形、ソプラノに気を取られていると、横から、ガツン……! 殴られた……! 不意をつかれたあなたはもろにくらい、膝をつく。 ふらつく頭を振って見上げると、そこにアルト。 なぜ? この人形はカルナの相手をしていたはず…… カルナが戦っていた方を見ると。 「カルナッ……! ああそんな!」 カルナはすでに、首をはねられ機能停止していた! あのカルナが……一瞬で…… 力なく転がる、虚ろな表情の首。 「あああ……」 ミナナの嘆きが聞こえるが、そんなことより彼女自身だ。 戦闘力のない彼女では一瞬で壊されてしまう! なんとかして彼女だけはと、もがくも、 上からソプラノに踏みつけられる。 ミナナの顎を掴み、片手で持ち上げるアルト。 「うぐぐ……」 「ビルヒルトの人形はすべて壊すべし。 禍根をたち、シンプルにしてしまいましょう!」 モンテスの哄笑が部屋に響く。 やめろ、やめろ……! 押さえつけられた足は全くびくともしない。 地面に縫い付けられたまま、どうすることもできない! そのとき。 信じられないものを見た。 首を失い、力なく崩れ落ちていたカルナの胴体が。 突然立ち上がり駆け出し、アルトに取り付く。 「カルナ!?」 床に落ちたカルナの首からぼそりと声がする。 「こんなもの……自分では使うことないと思っていたのに。 よりにもよって、出来損ないのためなんかに」 「カルナ……?」 「自由……そんなものがあるだなんて最後まで信じられなかったけど。 もしもあるって言うなら…… 目指してみなさいよ……ミナナ、あんたは……」 カルナの体が光り出す! 不穏な気配にモンテスが叫ぶ。 「まずい、アルト! 離れろ!」 だが、きつく絡みついたカルナの体は決して解けることなく。 光が溢れ、カルナと、もがく少年人形は光に飲まれ―――爆発した。 近距離で爆風をくらい、吹き飛ばされるミナナ。 時間が止まったかのような。 気づけば押さえつけられる力が弱まっている。 動きの止まった少年人形を振りほどき、ミナナに駆け寄る。 ……よかった。焼け跡こそついたものの、目立った外傷はない。 だが、アルトは。カルナは。 破片が飛び散り、黒く煤けたそれは。 もはや人の形をしておらず、ただのゴミというべきもの。 絶叫が一つ。 「アルトぉぉおぉぉ!!」 よろよろと駆け寄るモンテス。 泣いていた。 亡骸を両手に抱え。 この男でも己の人形に涙することがあるのか。少々、意外に感じて。 「おぉお、おっ……おっ……」 よろよろと立ち上がり、そのまま亡骸とともに出ていってしまった。 もう一体もそのあとを追う。 残されたあなたとミナナ。 ミナナはしゃがみ込み、カルナの首を抱えている。 その表情はうかがい知れない。 こんな幕切れがあっていいのだろうか。 やりきれなさを感じた。 ミナナは。もはや動かなくなったカルナの首を抱え、語りだす。 胴体から切り離されたことで、 かえって損傷を受けることのなかったそれを抱え。 「カルナ……なぜあなたが……わたしを助けてくれた、のですか?」 その答えは、ない。 ミナナに比べ遥かに感情豊かに表情を変える人形であったが。 今は、なんとも言い難き、静かな表情をしていた。 ![その瞳が問いかけるは](09niur-dsc08288.jpg) [エピローグへ](14) 14 あなたは大臣に事の顛末を報告する。 すべてを話すといろいろ面倒になりそうなので、 ところどころはしょりながら。 「なんと、人形が自分で…… 世の中にはまっこと不思議なことのあるものよ。 ……よくやったソーサリアン。ご苦労であった」 「貴公の活躍により、またペンタウァの平和が守られたのだ。 ビルヒルトの屋敷はおって調査隊を送り、 残された人形については王宮で厳重保管、研究がなされることだろう」 ところで、と大臣が厳しい目を向ける。 「よもやと思うが、何か持ち出してはおるまいな? 彼の研究は危険なものだ。世に放つには危険すぎる」 なんのことかわからぬ、そういう感じで肩をすくめてみせる。 その後。 船着き場。人が賑やかしく行き交う桟橋にて。 あなたと、ローブをかぶる女性あり。 感情をうかがわせぬ無表情、ガラスの瞳。 ミナナであった。 「わたしは、壊されず、のうのうと存在してよいのでしょうか……」 難しいことはわからない。ただ、ミナナは死ぬべきではない。 そう感じたから、助けた。カルナだってそうだろう。 「自由……そんなものを、わたしに扱うことができるでしょうか。 もうお屋敷には戻れない。マスターもいない。 寄る辺を失い、自由とは、なんとも頼りないものなのですね……」 そんなものだ、とミナナの肩を軽く叩く。 もう一言。励ましの言葉。 ほとぼりが冷めたら、寂しさを感じたら。 またペンタウァに戻ってくればいい。いつでも歓迎しようと。 それを聞いても。表情など動かぬ。人形なのだから。 でも。そっとあなたの手を取って。 「ありがとうございます。会えたのがあなたでよかった……」 染み入るように、つぶやく。 そして手を離し、一歩下がり。 「行ってきます――」 ボーッ 蒸気船の音。 去りゆく船に手を振る。 振り返す手は、あれよあれよという間に小さくなって、 そして見えなくなった。 ![桟橋にて](10ashinari-a0035-000017.jpg) [END](15) 15 --シナリオクリア-- ![Congratulations](1434-8cae6fd305.png) (End)