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Presented By SORCERIAN Next team.
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2017-2020, SORCERIAN Next Team
0 **プロローグ** 一つの冒険を終えたソーサリアンの君は、<ペンタウァ>への帰路で 木陰に入り、休息を取っていた。 心地の良い涼やかな風を全身で感じながら、君はいつの間にか 夢の世界に誘われていたようだ。 そこで君は、不思議な声を聞く。 『ペンタウァの勇者よ……』 全身を包み込むような慈愛に満ちた女の声。 君は目を凝らすが、光を背にした声の主はよく見えない。 ただ、その女の声だけが君の耳に優しく響いた。 『ペンタウァの勇者よ……。 貴方を見込んでお願いがあります……。 勇者よ、正しき心を持つ人の子よ……どうか……』 **冒険の目的** ペンタウァへの帰路で休息していた君は、 夢の中で謎の女から何かを頼まれたようだ。 しかし、聞き取れた言葉は断片的だった。 女は一体何を望んでいるのだろうか……? ![魂の選択](soul01.png) [冒険に出発する](2) 2 ハッと目を覚ます。 何やら夢の中で美しい女性に何か大事なことを頼まれたような……? 君は眠気でぼーっとする頭のまま、夢の中のことを思い出そうとして いたのだが―― **「${sex?おとーさん:おかーさん}!」** ガバリッと。 君は小さな子供に抱きつかれて、そのあまりの脈絡のなさに体を 硬直させていた。 だが、これで君は思い出すことができただろう。 『どうか……と旅を……そして、人の……を……』 そう、君はあの女性の子供(?)を預けられた身だということを。 肝心な部分がよく聞こえなかったのは痛いところだが、 君がこの子供と共にいることには、何か意味があるらしい。 君はまだ硬直したままだったが、この子供がいる意味を理解した ことで、やや冷静になることができた。 **「${sex?おとーさん:おかーさん}!!」** ……とりあえず、色々と誤解されそうなので、まずは呼び方を変えて もらうことにしよう。 [次へ進む](3) 3 小さな子供改め、この子の名前はリュフー。 ひらひらとしたローブに、小さな肩掛け鞄を身に着けている。 そんなリュフーの瞳は緑柱石の色をしていて、腰まで伸びた薄緑色の 外跳ねした髪がふわふわと風に舞っていた。 驚いたことに、その髪からは狼のような耳がぴょっこりと見えている。 リュフーはどうも人間でもなければエルフやドワーフでもないらしい。 三種族が揃う<ペンタウァ>の地でも珍しい、見たこともない種族の 子供のようだった。 先程の出逢いからも解るように、リュフーとは意思疎通もできている。 リュフーは人の言葉を理解でき、喋ることもできるのは把握した。 ただ、発声することはどうも苦手なのか、片言でたどたどしく喋って いる状態だ。 それでも、呼び方も何とかソーサリアンに訂正してもらえて一安心だ。 ……しかし、謎の女性はこの小さな子供と共に、これから旅をしろと 仰せのようだが……。 君が次の行動を考えあぐねていると、ふいに服が引っ張られた。 「しょ……しょーさりあー……」 ソーサリアン、と言いたいらしかった。 リュフーに視線を移すと、その小さな指はある一点を差していた。 小高い丘の上から見える街道沿いの町<ウィルード>だ。 あそこに行きたいのかと訊ねると、リュフーは目をキラキラとさせて 頷いた。 そうだ、自分も今日はあの町で宿を取ろうと考えていた。これは良い タイミングと言ってもいいだろう。 だが、人間でもエルフでもドワーフでもないリュフーの耳は、 町中では特に目立つに違いない。 幸い、否、こういう事態を見越したあの女性の気遣いか。 リュフーはフードが付いたローブを着ている。 君は早速リュフーにフードを被るように言うと、すぐに「やっ」と 首を横にぶんぶんと振られてしまった。 それでも、君が粘り強く説得すると、彼女はしぶしぶといった様子で フードを被ってくれたのだった。 よし! 君は覚悟を決めた。 リュフーと手を繋ぐと、彼女の歩く速度に合わせてゆっくりと 歩き出した。 街道沿いの町<ウィルード>へと。 [出発!](4) 4 街道沿いにある<ウィルード>は、宿場町として栄えている町で、 様々な人々が行きかい、活気に満ちていた。 ソーサリアンである君も、冒険中に何度かこの町を訪れたことも あった。 君にとっては約一年ぶりの<ウィルード>であったが、その頃から 変わらぬ活気に安堵し、懐かしい気持ちで胸が躍った。 **ぎゅっ。** 手が強く握られたのに気づき、君はチラリと隣を見た。 リュフーが不安げに君を見上げている。 あまりの人の多さに驚いて怖がっているのかもしれない。 そう思った君は、人混みからやや遠ざかる。 そこでリュフーに優しく微笑みかけて、自分がついているから大丈夫 だと伝えた。 「そーさりあん……」 リュフーは相変わらず不安そうにしている。 暫し思案していた君だったが、ふと視界に入った光景――父親らしき 男に背負われている小さな子供だ――にポンッと手を打つ。 そうだ、おんぶしよう。 早速リュフーにおんぶを提案すると、リュフーはしゃがんだ君の背に がばりっと抱きついた。 君はそっと手を添え、ゆっくりと立ち上がる。 リュフーの体がぎゅっと縮こまったのが伝わってきたが、それも 一瞬のこと。 すぐに嬉しそうに足をばたつかせ、「たかーい!」と喜んでいる。 ご機嫌も治ったようだ。 リュフーはあっちこっちを指さして興味深々といった様子だ。 君はリュフーに町中を案内することにした。 [何処へ行こうかな?](5) 5 「そーさりあん、あれー」 リュフーが見つけたのは、建物と建物の隙間にある通路、その更に 奥にある看板だった。 よくあんなところにある看板に気付いたものだ、と君は感心する。 だが、流石にリュフーを背負ったままでは細い通路を通れそうにない。 君はリュフーを背から降ろし、一列になりながら占い屋の扉を開けた。 キィ……と油の切れた蝶番が音を立てる。 昼間だというのに店内は薄暗く、ランプに明かりが灯っていた。 「いらっしゃいませ」 黒っぽい色の布で仕切られた奥の部屋から出てきたのは、 女の占い師だ。 ローブを着た長髪の若い女性で、何処か憂いのある表情が美しい。 確か以前は年老いた男の占い師がいた筈なのだが、彼は引退した ということなのだろうか。 「お客様、何を占いましょうか?」 占い師に訊ねられ、君はハッとする。 特にこれといった理由もなく、ただリュフーが行きたそうにしていた から来店した。本当にただそれだけだった。 君が気まずそうにしていると、リュフーを見た占い師が優しく微笑む。 「そちらのお嬢さんの運勢を占いましょうか?」 ナイス気配り。それはまさにこの言葉のことを言うのだろう。 幸いなことに、リュフーは占いの意味は解っていないものの随分と 乗り気のようだ。 君は占い師にリュフーの旅の運勢を占ってもらうことにした。 [次へ進む](6) 6 占い師が言葉を選んでリュフーに占いのことを解り易く説明すると、 リュフーの返事は「やるー」と快くYESだ。 返事を聞いた占い師は優しく微笑む。 それから真剣な表情で目の前にある水晶玉に手をかざすと、暫く 呪文を唱え続けていた。 時々口元がつり上がっていたのが気になったが、一体どんな結果が 視えたのだろうか? 「お待たせしました。 お嬢さん、貴方を表す星が美しく輝いているのが視えました。 貴方の旅は、貴方の精神を成長させる良き標となるでしょう。 ただし、旅に無理は禁物です。 きちんと休憩することを忘れないでくださいね。 ペンタウァへ向かうのであれば、道中の木陰などお勧めですよ」 占い師の言葉に、当のリュフーはキョトンとしている。 君はリュフーに「良い旅になるが、無理はしないで休む時はしっかり と休むこと」と要約すると、リュフーはようやく意味が解ったのか、 「そっかー」とニコニコと嬉しそうに笑っていた。 君は占い師に占い料を支払いって礼を言うと、リュフーと一緒に店の 扉を開ける。 「良き旅路を」 旅の安全を祈る占い師の声を聞きながら、君達は店内から出た。 [武器と防具の店に行く](7 "oKRM4+") [次は何処へ行こうかな?](8 "oKRM5-") 7 「そーさりあん、あれー」 リュフーに催促され、カランッとベルの軽やかな音を立てて店内に 入る。 ここは武器と防具の店だ。 君もペンタウァに帰還する前によく立ち寄る馴染みの店である。 「いらっしゃい」と挨拶する中年の店主は、相変わらず無愛想だ。 いや、君が子供連れと見るや否や、店主がギラリと君を睨んできた。 「此処はガキの来るところじゃあないぜ」 店主は低い声でそう言うと、店の奥に行ってしまった。 もしかしたら怒らせてしまったのかもしれない。 確かに、誤って子供が触れたら怪我をする商品を扱っているだけに、 店主が怒るのはもっともだ。 君は店の奥に姿を消した店主に、聞こえているかは定かではないが、 一言謝った後、違う店に行こうとリュフーに言った。 だが、それは店の奥から戻ってきた店主の「待ちな」という言葉に 阻まれた。 君が驚いて振り向くと、店主は何かを投げてよこした。 それを反射的に片手で受け止める。 手のひらの中を見ると、そこには緑色の丸い石に革紐を通した首飾り があった。 「うちにはガキに売るモンはねぇからな。 それを持ってさっさと行きな」 君が首飾りの代金はいくらかと訊ねると、店主は君をギロリと睨み 付けて「ガキに売るモンはねぇって言っただろうが」とそっぽを向いて しまった。 君は店主に礼を言うと、背負っていたリュフーを降ろして首飾りを 着けてやった。 リュフーもまんざらではない様子で、首飾りをぺたぺたと触っては ニコニコしている。 君はもう一度店主に礼を言うが、店主は無視を決め込んで腕組みをしたままだ。 ――しかし。 「ありがと!」 リュフーがニカッと笑って礼を言うと、さしもの店主も無視はできない。 店主は「おう」と一言だけ返事をしたのだった。 **★<緑石の首飾り>を手に入れた!** ※【所持者リュフー】武具の端材と清められた石で作ったお守り ※リュフーが所持しているため、プレイヤーは使用不可 [薬屋に行く](9) 8 「そーさりあん、あっちあっちー」 占い屋から出たリュフーが次に興味を持ったのは――寺院だ。 冒険中に仲間が倒れた時、何か懺悔したいことがある時、 あとは神に祈りを捧げたい時や、寄付をしたい時に行く施設だ。 もし寺院に行くとすれば、ペンタウァに向かう前に神に祈りを捧げて おくのも良いかもしれないが……。 [▲祈る/KRMを手動で5まで上げた後にボタンを押す](10) [祈らない/違うところへ行こう](12) 9 「そーさりあん、あっちー」 リュフーの好奇心は次から次へと移り変わる。 君はハイハイと軽く返事をしながら、壁が蔦に覆われた小さな店に 入った。 ここはエルフのオババが営む年季の入った薬屋。 君にとってお馴染みの店でもある。 店内に入ると、当たり前のように様々な薬の匂いが混ぜこぜになって 漂ってくる。 「おや、これはこれは。珍しい小さなお客さんが来たねぇ」 カウンター越しに椅子に座っていたオババが、ニタリと笑いながら リュフーの方を見ている。 一方のリュフーは、君の後ろからオババの様子を見ている。 どうも怖がっているようだ。 「けっへっへっ、別にアンタを取って食おうって訳じゃあないよ。 ……で、お前さんはいつものかい?」 リュフーから君へと視線を移したオババは、やはりニタリと笑って 訊ねてきた。 君はその通りだと頷くと、リュフーを降ろし、道具袋から薬草を 取り出して薬の調合を依頼し、代金も支払った。 いつもと同じく、明日には薬を渡せるそうだ。 それからやり取りが済んだ後、オババは再びリュフーへと視線を 向ける。 「そうそう、アンタには特別にこの薬をタダであげようかねぇ。 これを飲むと一時的に肉体が空気と同化してね、 何者の攻撃も当たらなくなるんだよ。 もし危ない目に遭いそうになったら、これを飲むといい」 どうして貴重な薬をリュフーに? 君は不思議に思ったが、珍しい亜人のリュフーなら誰かに狙われても 不思議ではない。 相変わらず君の足にしがみついているリュフーだったが、君がオババ から聞いたことを説明して薬を渡すと、リュフーは両手で薬の瓶を 持って、拙い言葉遣いで礼を言った。 その様子にまたオババがニタリと笑う。 リュフーは驚いてまた君の後ろに隠れてしまった。 薬屋での用事が済み、君は扉を開ける。 その時、リュフーがオババに向かってバイバイと手を振っていたのを 見て、君は思わず笑みを浮かべたのだった。 **★<CHANGE AIR(薬)>を手に入れた!** ※【所持者リュフー】空気と同化して攻撃を受けなくなる薬 ※リュフーが所持しているため、プレイヤーは使用不可 [次へ進む](11) 10 君は寺院で神に祈りを捧げることにした。 まずはリュフーに寺院の説明をし、祈り方も説明してから寺院に入る。 見よう見真似でむにゃむにゃ祈りを捧げるリュフーの横で、君も神に 祈りを捧げた。 何だか頭がスッキリしたような気がした。 (ちなみにリュフーは『そーさりあんといっしょ、たのしー』と 祈っていたようで、祈りではないような気もするが、個人的に 嬉しかったので、祈りということにしておく) 祈りを終えて寺院から出ると、すぐ近くの建物の軒下で、いかにも お喋りそうな女性二人の世間話が聞こえてきた。 「ねーえ、最近怪物を見たって話が多いわよねぇ」 「そうそう! 体は人間なのに、首から上が蛇の頭だったり魚の顔 だったりって話でしょう? 恐いわよねぇ~」 「えぇ、えぇ。本当に気味が悪いったらないわよ~」 人間のようで人間ではない怪物? そんなものが出るなんて、一年前は聞いたことがなかったのだが。 物騒になったものだな。 君はそう思いながら、女性二人の横を通り過ぎた。 [武器と防具の店に行く](7 "oKRM4+") [次へ進む](12 "oKRM5-") 11 武器と防具の店から薬屋へ、それからは道具屋に露店にと大忙し だった。 おかげでソーサリアンの君も若干へとへとだ。 おや……こんな道、あったかな……? ふと目線をやった先に、道らしきものが見えた。大通りから 外れた細い道だ。 君は何度かこの町に来たことがあったが、こんな道を見付けたのは 今回が初めてだった。 道には草が生い茂っているが、良く見ると草が踏まれたような 形跡がある。 この先に一体何があるのだろうか? 君はリュフーと同じく好奇心に駆られ、リュフーの小さな体躯を 背負い直すと、細い道に入っていった。 道の突き当りは円状の小さな空間が拡がっていた。 そこにはひび割れて砕けた石の塊がゴロゴロと横たわっている。 苔生しているところを見ると、砕けてからそれなりの年月が経って いることが窺えた。 だが、この周囲だけは草が短く刈られ、花が咲き誇っている。 誰かの手が入っているような、そんな印象を受けた。 「おやまぁ、こんなところに人が来るとは、 珍しいこともあったもんじゃ」 来た道を振り返ると、そこには果物を持った老人が立っていた。 [次へ進む](13) 12 夕焼け色に染まる町中を、リュフーを背負ってゆっくり歩く。 あちこちの家から漂ってくる料理の良い匂いに、君の腹が小さく 鳴った。 リュフーを色んな場所に案内して、楽しかったがさすがに疲れた……。 観光で疲れて眠ってしまったリュフーを背負った君は、馴染みの 宿屋に入り、手慣れた様子で部屋を借りた。部屋は二階だ。 ベッドに寝せたリュフーが目覚めるまで待った後、君はぐーぐーと お腹を鳴らすリュフーと共に、宿の一階にある食堂に向かう。 壁際の小さなテーブルに着き、君は向かい側にリュフーを座らせると、 女将が用意してくれた大き目の布をリュフーの首元に巻いた。 リュフーは何だか落ち着かない様子だったが、 頼んだ料理――シチューとパン――がテーブルの上に置かれると 目の色が変わった。 だが、食べ方が分からないのか、君の顔を見ながら「そーさりあん! これ!」と必死に料理を指差している。 君がリュフーにスプーンの持ち方、スープのすくい方、 最初にフーフーと息を吹きかけて冷ますこと、パンはよく噛んで 食べることなどを丁寧に教えてあげると、リュフーはぎこちない動き ながらも料理を食べ始めた。 君も少し冷めたシチューを啜りながらリュフーの様子を見ているが、 案の定、顔はシチューでべたべただし、テーブルの上もこぼした シチューやパン屑が散らかっている。 多分床にもこぼしてしまっているだろう。 ご機嫌な様子で食事をするリュフーの姿は微笑ましいが、あちこち 汚してしまっているだけに内心ヒヤヒヤだった。 [次へ進む](14) 13 君は老人にこの場所について訊ねると、老人は朗らかな笑みを浮かべ ながらこの場所について話してくれた。 「此処はな、儂がまだ小僧で、この町が村だった頃に、 精霊様が祭られておった祭壇の跡地じゃよ。 その精霊様は気の良い御方ではあったのじゃが…… まあ、ちょいと『加減ができない』御方でのぅ……」 老人の話を聞けば、 「小麦を挽くために風車を回す風がもう少し強かったら」と祈った ところ、次の日には強風で風車が回り過ぎて吹っ飛んだ。 「春の暖かな風が気持ち良い」と人々が言えば、季節関係なくずっと 春の陽気が続いた年もあった。 誰かが「暑いなぁ」と言えば、何処からともなく現れた強風に さらわれたと思ったら、いつの間にか山のてっぺんにいて、 身も心も寒くなった……等々。 ……とまあ、サービス精神は旺盛だが、何とも空回りが激しい精霊様 だったようだ。 「それでな、そんな精霊様にほとほと困り果てた村人達は、 『精霊様は人の心が解らない!』と憤慨し、 祭壇を壊してとうとう精霊様を追い出してしまった訳じゃ。 実際、精霊様が去ってからこの村は安定して発展し、こうして 町として栄えておるのだから、皮肉ではあるのじゃが……」 そう語る老人の横顔は、何処か寂し気だ。 「儂はな、親が高熱で死にかけていたところを精霊様に助けられた ことがあってな、どうにも精霊様のことを憎めんのじゃよ。 いや、儂ばかりではない。 誰もが皆、精霊様を憎んでいた訳ではなかったのじゃが、 一方的に追い出そうとする者達を止められなかったのじゃ……。 あぁ、人間の都合で追い出しておいて虫の良い話だとは思うが、 許されることならば、精霊様に当時のことを詫びたいのぅ……」 いつの間にか日が暮れていた。 背負っているリュフーも寝息を立てている。どうも静かだと思ったら、 眠ってしまったのか。 君は老人に礼を言うと、別れを告げてその場を後にした。 歩きながら何となく振り向くと、老人が祭壇だった場所に果物を 供えているのが見えた。 [宿屋に行く](12) 14 食事を終えた頃、女将が君達のテーブルまでやって来た。 君はあちこち汚してしまったことを謝るが、女将の方は「いいって いいって!」と豪快に笑った。 「子供は元気が一番だからね! うちの飯が美味かったのなら何よりさ!」 リュフーもそんな女将の楽しげな笑いが面白かったのか、スープで べたべたの顔で嬉しそうに笑っていた。 それから女将は、君が以前の宿泊では連れていなかったリュフーの ことを訊ねてきた。 君は何と説明したものかとやや言葉に迷ったが、リュフーは旅の 途中で母親(?)から預かった子供なのだと話した。 女将は少し不思議そうな顔をしたが、それも一瞬のこと。 すぐに人懐っこい笑みを浮かべてリュフーの方を見る。 「そうかい、アンタは旅をしている途中なんだね。 小さいのにすごいねぇ。 それならさ、この町に来た時には、いつでもうちにおいでよ。 美味しい料理を腹いっぱいごちそうしてやるからさ!」 なるほど、深く詮索しないところは、さすが冒険者相手に商売を やっている女将だ。 君は女将の配慮に内心感謝しつつ、彼女に食事が美味しかったことを 伝えて、リュフーの口元を拭ってやる。 リュフーは君に口元を拭われている間も、女将の方を見て、 力強くウンウンと頷いてはニッコリと笑っていた。 それからお言葉に甘えて後片付けを女将に任せ、君とリュフーは 部屋へと戻ったのだった。 [次へ進む](15 "f02") [次へ進む](16 "-f02") 15 小鳥のさえずりが聞こえる。 うっすらと瞼を開けると、窓のカーテンの隙間から細い光の筋が 射し込んでいる。朝だ。 君は片手で目をこすりながら隣を見ると、そこにはぐっすりと眠って いるリュフーがいた。 昨日の夜、「そーさりあんといっしょー!!」と一緒に寝ると いってきかないリュフーの泣き声に君が折れた結果がこれだ。 そんなリュフーの手は、がっちりと君の服を掴んで放しそうもない。 君はため息をついて小さく笑った後、二度寝を決め込んだ。 ――それから暫くして。 リュフーを起こした君は、共に顔を洗って朝食を食べた後、 また部屋に戻って旅支度を整えた。 旅支度を終え、宿屋から出る。 その時に女将からサンドウィッチの包みを貰った。 ほんのりと温かい。まさに出来たてだった。 「最近、ここいらでは体は人間なのに、 顔は蛇だとか魚だとかっていう奇妙な怪物が 出ているって噂だからね、アンタ達も気をつけなよ!」 できればお目に掛かりたくはないものだが、気をつけるとしよう。 君は女将に礼を言うと、サンドウィッチの包みを大事にポーチの中に 仕舞ってリュフーと共に別れを告げた。 今度は薬屋に寄ると、オババは相変わらず不気味に笑いながら 完成した薬を出してくれた。 <HEALの薬>と<CUREの薬>の二種類だ。 君はオババに礼を言って店の扉を開ける。 リュフーもバイバイと手を振り、それを見たオババも手を振っていた。 どうやらもうオババのことが怖くなくなったようだ。 君は晴れやかな気持ちで一人頷きながら、手を繋いだリュフーと共に 薬屋から出て扉を閉めた。 これで準備は整った。 さぁ、ペンタウァに向かって出発だ! **★<手作り弁当>を手に入れた!** ※【使用回数1回】食べるとHPとMPが5回復するサンドウィッチ **★<HEAL(薬)>を手に入れた!** ※【使用回数1回】使うとHPが15回復する薬 **★<CURE(薬)>を手に入れた!** ※【使用回数1回】使うと毒状態を回復できる薬 [しゅっぱーつ!](17) 16 小鳥のさえずりが聞こえる。 うっすらと瞼を開けると、窓のカーテンの隙間から細い光の筋が 射し込んでいる。朝だ。 君は片手で目をこすりながら隣を見ると、そこにはぐっすりと眠って いるリュフーがいた。 昨日の夜、「そーさりあんといっしょー!!」と一緒に寝ると いってきかないリュフーの泣き声に君が折れた結果がこれだ。 そんなリュフーの手は、がっちりと君の服を掴んで放しそうもない。 君はため息をついて小さく笑った後、二度寝を決め込んだ。 ――それから暫くして。 リュフーを起こした君は、共に顔を洗って朝食を食べた後、 また部屋に戻って旅支度を整えた。 旅支度を終え、宿屋から出る。 その時に女将からサンドウィッチの包みを貰った。 ほんのりと温かい。まさに出来たてだった。 「最近、ここいらでは体は人間なのに、 顔は蛇だとか魚だとかっていう奇妙な怪物が 出ているって噂だからね、アンタ達も気をつけなよ!」 できればお目に掛かりたくはないものだが、気をつけるとしよう。 君は女将に礼を言うと、サンドウィッチの包みを大事にポーチの中に 仕舞ってリュフーと共に別れを告げた。 これで体力もしっかりと回復した。 さぁ、ペンタウァに向かって出発だ! **★<手作り弁当>を手に入れた!** ※【使用回数1回】食べるとHPとMPが5回復するサンドウィッチ [しゅっぱーつ!](17) 17 街道には既に荷馬車や冒険者の姿がちらほらと見えた。 君はリュフーと手を繋ぎながら街道を歩いている。 目的地は勿論<ペンタウァ>だ。 正直なところ、君はリュフーをこのまま<ペンタウァ>まで連れて 行っても良いものかと悩みもした。 だが、謎の女性はリュフーに旅をさせることを目的としていたよう だし、君としてもこんなに小さな子を放り出す気など毛頭ない。 連れていくなら責任を持って連れていく。それが筋というものだ。 それに、この街道は<ペンタウァ>へと続く街道の中でも大きな もので、モンスターも大して出ないという比較的安全な行路だ。 もしリュフーが歩けないようなら、自分が背負ってもいいし、途中で 馬車に拾ってもらうのもいいだろう。 街道を暫く歩き続けていると、町からから遠ざかったこともあるが、 歩いている人の姿も見えなくなっていた。 しかし、リュフーにはそんなことなど関係なく、とても楽しそうに、 元気良く歩いている。 「そーさりあん、ひらひらー! こっちこっち!」 「あれ! おいしそー! たべたい!!」 目の前を横切る蝶を追いたがるリュフーに付き合って寄り道したり、 道すがら自生している木の実を食べたりと、何とものんびりとした 旅路だ。 さて、そろそろ休憩しようか。 君はリュフーに休憩をしようと伝え、街道から少し外れた場所に 生えている木に向かって歩き出す……のだが。 **DEXで判定「直感」** %blue%ダイスを1回振り、2個のダイスの合計値+DEXの合計値が……%/% [▼2~14の場合](19) [▲15~22の場合](18) 18 **ッ!?** 君は背後に駆け抜ける悪寒に、直感でリュフーを庇って身を ひるがえす! それと同時に風切り音が君のすぐ横を抜け、『何か』が木の幹に 刺さった! 君は刺さった『何か』を横目で確認し、確信した。 間違いない、あれはナイフだ! 「おっと、避けられちまったか。 さすがはペンタウァの勇者様ってところかねぇ」 ナイフが飛んできた方角から、茶化すような声色をした男の低い声が 聞こえた。 君はリュフーを片手で庇いつつ、武器を手にして周囲を見回し、 警戒する。 君の瞳に人影が映る。 声を発した目付きの悪い痩せぎすの男が一人。 更にその背後に仮面をつけた黒づくめが二人。 いつの間にか三人の見知らぬ者が姿を現していた。 包囲されていないのは幸いだったが、直前まで気配を悟らせない 実力者であることには違いない。 君の喉が緊張でゴクリと鳴った。 そんな君を見る痩せぎすの男は、肩をすくめながらおどけたように 言う。 「アンタとそのガキに恨みはねぇが、これも依頼主の要望でな。 そのガキが合成獣の実験にどうしても欲しいんだとよ。 まあ、アンタがガキを素直に寄越せば手荒なことはしねぇが、 どうだ?」 [次へ進む](20 "i02") [次へ進む](21 "-i02") 19 **痛ッ!?** 突然、君は腕に鋭い痛みを感じ、顔を歪めた! 腕を見ると横一文字に赤い線が走り、そこから血が溢れ出してきた。 少し離れた草むらに『何か』が落ちたようだが、この傷口から見て 刃物か何かだろう。 「へへっ、命中っと。 ペンタウァの勇者様とはいえ、普通の人間と変わりねぇな」 『何か』が飛んできた方角から、茶化すような声色をした男の 低い声が聞こえた。 君はリュフーを片手で庇いつつ、武器を手にして周囲を見回し、 警戒する。 君の瞳に人影が映る。 声を発した目付きの悪い痩せぎすの男が一人。 更にその背後に仮面をつけた黒づくめが二人。 いつの間にか三人の見知らぬ者が姿を現していた。 包囲されていないのは幸いだったが、直前まで気配を悟らせない 実力者であることには違いない。 君の喉が緊張でゴクリと鳴った。 そんな君を見る痩せぎすの男は、肩をすくめながらおどけたように 言う。 「アンタとそのガキに恨みはねぇが、これも依頼主の要望でな。 そのガキが合成獣の実験にどうしても欲しいんだとよ。 まあ、アンタがガキを素直に寄越せば手荒なことはしねぇが、 どうだ?」 %red%**▼HPに3ダメージを受けた!**%/% [次へ進む](22 "i02") [次へ進む](23 "-i02") 20 **${sex?ふざけたことをッ!!:ふざけないでッ!!}** 君は語気を荒げ、凛然と言い放った。 「へいへい、交渉決裂ってね。 まっ、ハナから期待なんかしてねぇけどな?」 痩せぎすの男の、人を小馬鹿にしたような返事に合わせ、男の背後に いる黒づくめが左右に歩みを進める。 君はリュフーに<CHANGE AIR>の薬を飲むように耳打ちをすると、 リュフーは君の陰に隠れてゴクリと薬を飲んだ。 するとたちまちリュフーの体が透け、君の手ですらリュフーの体を 素通りする。 あの木の陰に身を隠すのだと君が小声で言うと、小さな声で 「うん!」と返ってきた。 よし、いい子だ。 君が男達の方を向き直ると、リュフーの姿が消えていることに 気付いた痩せぎすの男が顔にニタリと下卑た笑みを浮かべる。 「へぇ、生意気な真似してくれるじゃねぇの! よぉし、お前ら! 勇者様に痛い目見てもらおうぜ!!」 こんな男どもにリュフーを渡す訳にはいかない! さぁ、戦闘開始だッ!! [男達三人を倒した!](24) [HPまたはMPが20以下になった……](25) 21 **${sex?ふざけたことをッ!!:ふざけないでッ!!}** 君は語気を荒げ、凛然と言い放った。 「へいへい、交渉決裂ってね。 まっ、ハナから期待なんかしてねぇけどな?」 痩せぎすの男の、人を小馬鹿にしたような返事に合わせ、男の背後に いる黒づくめが左右に歩みを進める。 君は姿勢を低くしてリュフーを片手で庇い、男達を睨み付けながら じりじりと後退する。 それから小声でリュフーに、木の近くで合図をしたら木の陰に隠れる ようにと言い聞かせた。 「そーさりあ……」 不安そうな声で君を呼びながら見上げてくるリュフーに、君は安心 させるように一瞬だけニッと笑う。 ……よし、木の近くまで後退で来た。 君はリュフーを背に隠すようにして立ち上がると、トンッと リュフーの体を押した。 するとリュフーは木に向かって走り出し、木の陰に隠れた。 そうそう、いい子だ。 リュフーの姿が消えていることに気付いた痩せぎすの男が、 顔にニタリと下卑た笑みを浮かべる。 「何をコソコソやっているかと思えば、なるほどな。 まあいい、まずは勇者様にご退場願おうか!!」 こんな男どもにリュフーを渡す訳にはいかない! さぁ、戦闘開始だッ!! **特別ルール「防衛」** %blue%①リュフーを気に掛けながら戦うため、攻撃に徹し切れない。 STRとINTを1ずつ減らしてダメージを計算すること。%/% [男達三人を倒した!](24) [HPまたはMPが20以下になった……](25) 22 **${sex?ふざけたことをッ!!:ふざけないでッ!!}** 君は語気を荒げ、凛然と言い放った。 だが、その瞬間に腕の傷口が熱く疼き、視界がブレた。 「強気でいられるのも今のうちだぜ? さっきの一撃は毒をひと塗りしたナイフだからなぁ」 痩せぎすの男の、人を小馬鹿にしたような返事に合わせ、男の背後に いる黒づくめが左右に歩みを進める。 しまった、毒が塗られていたのか……! 君はグラグラと揺れ出す視界に必死で耐えながらも、リュフーに <CHANGE AIR>の薬を飲むように耳打ちをする。 リュフーは青ざめている君を不安そうな顔で見るが、君の陰に隠れて ゴクリと薬を飲んだ。 するとたちまちリュフーの体が透け、君の手ですらリュフーの体を 素通りする。 あの木の陰に身を隠すのだと君が小声で言うと、小さな声で 「うん……!」と返ってきた。 よし……いい子だ……。 君が男達の方を向き直ると、リュフーの姿が消えていることに 気付いた痩せぎすの男が顔にニタリと下卑た笑みを浮かべる。 「へぇ、生意気な真似してくれるじゃねぇの! よぉし、お前ら! 勇者様に痛い目見てもらおうぜ!!」 こんな男どもにリュフーを渡す訳にはいかない! さぁ、戦闘開始だッ!! **特別ルール「傭兵の猛毒ナイフ」** %blue%①この戦闘の間、Sceneが進まない代わりに 1回戦う毎にHPとMPに3の毒ダメージを受ける。 ②戦闘終了後は、通常の毒状態の処理と同じく、 Sceneが1進む毎にHPに1の毒ダメージを受ける。 ③<CURE(薬)>を使用した場合、 「傭兵の猛毒ナイフ」ルールを適用せずに戦闘の処理を行うこと。%/% [男達三人を倒した!](24) [▼HPまたはMPが20以下になった……](25) 23 **${sex?ふざけたことをッ!!:ふざけないでッ!!}** 君は語気を荒げ、凛然と言い放った。 だが、その瞬間に腕の傷口が熱く疼き、視界がブレた。 「強気でいられるのも今のうちだぜ? さっきの一撃は毒をひと塗りしたナイフだからなぁ」 痩せぎすの男の、人を小馬鹿にしたような返事に合わせ、男の背後に いる黒づくめが左右に歩みを進める。 しまった、毒が塗られていたのか……! 君はグラグラと揺れ出す視界に必死で耐えながらも、姿勢を低くして リュフーを片手で庇い、男達を睨み付けながらじりじりと後退する。 それから小声でリュフーに、木の近くで合図をしたら木の陰に隠れる ようにと言い聞かせる。 「そーさりあ……」 不安そうな声で君を呼びながら見上げてくるリュフーに、君は苦痛に 耐えながらも一瞬だけニッと笑った。 ……よし、木の近くまで後退できた。 君はリュフーを背に隠すようにして立ち上がると、トンッと リュフーの体を押した。 するとリュフーは木に向かって走り出し、木の陰に隠れた。 そうそう……いい子だ……。 リュフーの姿が消えていることに気付いた痩せぎすの男が、顔に ニタリと下卑た笑みを浮かべる。 「何をコソコソやっているかと思えば、なるほどな。 まあいい、まずは勇者様にご退場願おうか!!」 こんな男どもにリュフーを渡す訳にはいかない! さぁ、戦闘開始だッ!! **特別ルール「傭兵の猛毒ナイフ」+「防衛」** %blue%①この戦闘の間、Sceneが進まない代わりに 1回戦う毎にHPとMPに3の毒ダメージを受ける。 ②戦闘終了後は、通常の毒状態の処理と同じく、 Sceneが1進む毎にHPに1の毒ダメージを受ける。 ③<CURE(薬)>を使用した場合、 「傭兵の猛毒ナイフ」ルールを適用せずに戦闘の処理を行うこと。 ④リュフーを気に掛けながら戦うため、攻撃に徹し切れない。 STRとINTを1ずつ減らしてダメージを計算すること。%/% [男達三人を倒した!](24) [▼HPまたはMPが20以下になった……](25) 24 はぁ、はぁ、と荒い呼吸を繰り返す。 君は死闘の末、男達を倒すことができた! 「そーさりあん!!」 背後から聞こえた声に振り向くと、リュフーが君に向かって走って くるのが見えた。 リュフーが無事な様子に、君の顔が笑みでほころぶ。 ……が、その笑みは瞬時にして凍り付いた。 駆け寄ってくるリュフーの更に後ろ。 そこには、無防備なリュフーの後ろ姿を見つめる占い師の女の姿が あった。 何故この場所に占い師が!? そんな疑問が君の脳裏を過ったが、そこでチカッと光が瞬いた。 占い師の休憩場所を強調する助言。 この場所で待ち伏せていた傭兵達。 最近増えた奇妙な怪物の話。 傭兵の依頼主は合成獣の研究をする魔道士。 ――ああ、これで全てが繋がった。 占い師は、あの傭兵達の雇い主である魔道士だったのだ! それ以上は考える時間なんてなかった。 意識する間などなく、体が勝手に動いていた。 既にこの体には走る余力なんて残されていない筈なのに。 泣きながら安堵したように笑みを浮かべ、リュフーはこちらに 向かって走ってくる。 一方の本性を現した魔道士は、顔に不気味な笑みを貼り付けながら、 リュフーの背に向けて杖をかざす。 その崩れ落ちた笑みに美しさなど欠片もなく、ただただ歓喜と狂気に 満ちていた。 戦いでボロボロになった手を、リュフーに向かって必死に伸ばす。 君は喉が引き裂かれんばかりの大声で叫んだ。 **『リュフーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!』** 君の手がリュフーに触れる。 その体は小さく、華奢で、とても軽い。 リュフー。 これからすることは、少し痛いかもしれない。 だけど、今は、今だけは許しておくれ。 大きな影と小さな影。 それが重なり、瞬く間に離れる。 そして、大きな影だけが光に包まれた。 [・・・・・・](26 "f01,f02,f03,f04") [・・・・・・](27 "-f01,f02,f03,f04") 25 あぁ……もう、立っていられない……。 君の体は限界を迎え、地面へと崩れ落ちた。 抵抗も空しく、君の命の灯火は今、燃え尽きようとしている。 霞む視界には、血にまみれた己の手だけがぼやけて見えた。 もう体は動かない。血を失い過ぎたようだ。 ただ、耳だけはその場の状況を冷酷なまでに捉え続ける。 「そーさりあん! そーさりあん!!」 リュフーの叫び声が聴こえる。泣き叫んでいる。 こっちに来てはいけない。逃げて。 そう伝えたいのに、君の口は荒い呼吸しかできない。 「そーさりあん! そーさりあーーーーッ!!」 君も涙を流していた。 守れなかったと。申し訳ないと。 何度も何度も謝罪の言葉が心を埋め尽くし、己の無力を悔いた。 そして、君は薄れゆく意識の中で聞いた。 **『 ア"ア"ァ"ア"ア"ア"ア"ァ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア" 』** 空間を震わせ、引き裂く、狂いし獣の慟哭を。 何かが引き千切れる、嫌な音を聞いた。 何かが飛び散る、不吉な音を聞いた。 だが、そこで君の意識は――落ちた。 [・・・・・・](27) 26 優しげな声に呼ばれたような気がして、君は目を覚ました。 そして君の瞳に映ったのは―― 「目が覚めましたか、ペンタウァの勇者よ」 フードを目深に被った、しかし、その隙間から覗く顔立ちには 何処か見覚えがある、そんな女性の姿だった。 どうやら彼女の膝の上に頭を預けて横たわっていたようだ。 ……ああ、自分はこの声を知っている。 そうか、貴方は……。 君は彼女こそが夢の中で語りかけてきて、リュフーを自分に 預けた女性なのだということに気が付いた。 薄く霧がかかっているような意識が少しずつ鮮明になってゆく。 すると、君は口の中に血の味を感じて、思わず顔をしかめた。 口の端を手の甲で拭うと、そこには血が付着していた。 「ごめんなさい。傷付き、石化した貴方を救うには、 私の血を飲ませるしか方法がなかったのです」 そう申し訳なさそうにか細い声で謝る彼女。 君は自分が石化していたということにも驚いたし、彼女の血 によって怪我や石化が治ったということにも驚いた。 だが、その驚き以上に、君は彼女に命を救われたという事実に 感謝の念を抱いた。そして心から礼を言う。 彼女は驚いたようだったが、少ししてほっとしたように全身の 力を抜き、フードから覗く口元にはにかんだ笑みを浮かべた。 しかし、そこで君はリュフーと魔道士のことを思い出し、 表情を強張らせる。 『リュフーは!? 魔道士は!?』と声を荒げ、取り乱した 様子で慌てて辺りを見回す……のだが。 君の様子を見ていた謎の女性は、ふわりとした柔和な笑みを 口元に湛え、君の頭を優しく撫でる。 「ペンタウァの勇者よ、安心してください。 悪しき者達は、『私』が懲らしめました。 この通り、カチンコチンですよ」 君は草が茂る地に手をついて体を起こすと、彼女が手で示した 場所を見る。 確かにそこには四つの氷塊が草の上に転がっていて、その中で 奇妙な模様をした手のひら大の蛙が凍っているのが見えた。 [次へ進む](28) 27 狼と言うにはあまりにも大き過ぎる鳴き声。 しかし、それはあまりにも悲哀に満ち満ちている。 『幼子が泣きじゃくっている』。 巨獣の鳴き声が、君にはそんな風に聞こえたのだ。 ――瞼を上げる。 君の瞳に映ったのは、朱く、物寂し気な夕焼け空だった。 ここは草原。君があの傭兵達と戦っていた場所だ。 君は手足を広げた状態で仰向けに寝転がっている。 体はだるい。口の中も血の味がする。 だが、戦いで負った傷の痛みは一切感じなかった。 君は気だるげに辺りを見回すが、そこには『誰』もいない。 何とはなく、夕陽に向かって手を伸ばす。 その手に傷はなく、ただ赤黒い血の痕だけが残っていた。 『誰』もいない。そう、ここには『誰』もいないのだ。 夕陽にかざした手が細かく震えた。 その震える手の輪郭が、次第にぼやけて滲んでゆく。 強く噛み締めた唇から血が滲むのも構わずに。 震えが止まらぬ手で顔を覆う。 指の間から滑り落ちる光は止まらない。 喉の奥から漏れ出す嗚咽は止まらない。 草が潰れ、千切れ、無数の深い爪痕が残る地面。 滅茶苦茶に切り刻まれ、根本から折れて倒れた木々。 ひしゃげた剣に、折れた杖。 引き裂かれ、殴られ、磨り潰され、ぶちまけられた肉片と骨片。 赤黒く穢れたその場所が、ここで起きた惨劇を物語る。 しかし、不思議なことに君の倒れているところだけは、 そんな惨劇が起きたのが嘘のように汚れていないのだ。 そう、それはまるで『君だけを避けていたかのように』。 さぁ……、っと。 物寂しい音を立て、冷たい風が吹き抜ける。 ――そーさりあん!―― 君の記憶の中で、幼子が無邪気に笑う。 夕焼けの空の下で独り。 勇者は声を殺して泣いた。 %purple%**BAD END「狂える風の精霊リュフーティシア」**%/% 28 君はあの蛙が魔道士と傭兵達であることは理解した。 だが、肝心のリュフーは何処にもいない。 リュフーは……!? リュフーは何処に……ッ!? 君はリュフーを探すために立ち上がろうとするのだが、それは 彼女の言葉によって止められた。否、止まってしまった。 「あの氷漬けの蛙は、人間のことが好きになった『私』が、 拙いながらも必死に考え、導き出した答えなのでしょうね」 彼女は自身が魔道士達を懲らしめた筈なのに、その口ぶりが 何処か他人事のようで、君はその違和感に首を傾げる。 だが、彼女がローブの隙間から取り出し、愛おしげに触れている ものを見た君の口から小さな音が零れ落ちた。 彼女が触れているもの。 それは、リュフーが身に着けている筈の首飾りだった。 そう、彼女が身に着けているのは、確かにリュフーの首飾りで。 ひらひらとしたローブを着て、草の上に座っている彼女の すぐ横には、見慣れた小さな肩掛け鞄が置いてあって。 そして、そこに一陣の強い風が吹き抜け、「あっ」という彼女の 小さな声と共にフードが落ちる。 目が覚めるほどに純粋な光を宿す緑柱色の瞳は、少しだけ 赤みが差していて。 薄緑色の外跳ねした髪が風に舞い、ふわりと揺れる。 その髪の間からは、狼のような耳が見えていた。 「『私』は無事ですよ、ソーサリアン」 発音も綺麗であったし、口調も大人のそれだ。 だが、『ソーサリアン』と呼ぶ彼女の女神の如き美しい顔は、 君が今までに見てきた愛らしい少女の面影を残していた。 ああ、ああ、貴方は……いや、君は―― 『リュフー』と。 君が少女の名を口にすると、目の前の彼女は穏やかな笑みを 浮かべて小さく頷いた。 [次へ進む](29) 29 彼女は自らを風の精霊リュフーティシアと名乗った。 本来ならリュフーティシアとしての記憶も強大な力も リュフーの奥底に封印されているようなのだが、今はリュフーが 力を使い果たし、深く眠っていることから、一時的に姿を現すこと ができたのだと説明してくれた。 何故そんなことになっているのか。 リュフーティシアは、ぽつりぽつりと話し出した。 かつて彼女は<ウィルード>の守護者だった。 しかし、そこから追放された後は、ただの一精霊として生きて きたらしい。 追放された彼女は、人の心について長い間考えていたが、彼女が 出した答えは『人の心が解らない精霊としての自分の記憶を 封印し、今度は人として人の心を一から学ぶ』ということだった。 そして、心正しき人と共に過ごせば正しき人の心を学べるのでは と考えた彼女は、ペンタウァの勇者――つまり君のことだ――に 『リュフー』としてその身を預けたのだという。 君は胸が締め付けられる思いで、彼女の話を黙って聴いていた。 リュフーティシアは、精霊としての力も記憶も封印してまでも、 人の心を理解し、人と共に生きようとしていた。 リュフーのあの無邪気な姿の奥底で、固い決意を抱く精霊が 眠っているだなんて、まったく思いもしなかった。 「貴方を巻き込んでしまってごめんなさい……」 目を伏せて謝るリュフーティシアは、見た目こそ成人した女性 だったが、身を縮こまらせているその様子は、まるで叱られるのを 覚悟している子供のように見えた。 君はふっと体の力を抜くと、表情を緩めて左右に頭を振る。 確かに、目覚めたら突然小さな子供がいて、その子供と旅を することになるというのは、なかなかにない経験で驚きもした。 だが、天真爛漫な『リュフー』という名の彼女と過ごした 時間は、自分にとってとても充実した楽しい時間であった、と。 そうリュフーティシアに伝えた。 リュフーティシアは君のその言葉に驚き、少し目を見開いて 君の顔をじっと見つめていた。 だが、君が力強く頷くと、彼女は安心したように表情を和らげて 微笑んだ。その顔は今にも泣き出してしまいそうだった。 「あぁ」と彼女が呟く。その体は薄らと発光し始めていた。 君は突然の事態に目を丸くするが、彼女は優しく微笑んでいる。 「そろそろ${小さな『私』|リュフー}が目を覚ますようです。 貴方にはまた苦労を掛けてしまいますが…… よろしくお願い致します」 深々と頭を下げる彼女に、君は任せてと明るく笑った。 リュフーティシアはゆっくりと顔を上げる。 瞳からは涙が溢れ、それが宝石のように輝き、零れ落ちていた。 「最後に一つだけ。 私は再び人と共に生きることができるでしょうか?」 震える声で訊ねるリュフーティシアに、君は言った。 **${sex?『ああ! できるとも!』:『ええ! できるわよ!』}** 君の答えを聞いたリュフーティシアが君の名を呼んだ。 緑柱色の宝石から生まれ出でた光の粒が煌めき、宙を舞う。 君の首に柔らかな肌の感触が滑り、頬に艶やかな髪が触れた。 **――あなたにあえてよかった……!――** 少し幼く、舌足らずの声が君の耳に優しく響いて。 心地良い風が君を撫でると、眩い光は弾けて消えた。 しかし、温かさは消えていない。 この腕の中に確かに存在している。 君は静かに目を伏せると、腕の中で寝ぼけてむにゃむにゃと 言っている少女の頭を、優しくそっと撫でたのだった。 [おはよう、リュフー。](30) 30 リュフーとの出逢いから二月ほど経った。 君は<ペンタウァ>の宿屋の一室で、窓際に移動させた木の椅子に 座ってのんびりと寛いでいる。 そんな君の視線は、その手に持っている紙に注がれていた。 インクの染みだらけで若干よれた紙。 紙に並ぶ不格好な文字。 その紙というのは、君に宛てられた手紙だった。 二月前のあの日、君はリュフーティシアが再び眠りについた後、 リュフーを<ペンタウァ>へと連れて行った。 彼女が人と共に生活できるように、仕事をしながら一月ほど 彼女と一緒に暮らしていたのだ(ちなみに、悪党共はしっかりと 役所に突き出しておいたので安心して欲しい)。 それから君はリュフーを連れて<ウィルード>へと向かい、 精霊の祭壇跡に果実を供えていた老人の家を訊ねた。 君が老人と彼の家族に事情を話すと、全員が目を点にして 驚いていたのだが、彼らは快くリュフーを迎え入れてくれたのだ。 ――そう、これが約二月の間にあった出来事である。 君は口元を綻ばせながら手紙を読み進める。 手紙の送り主も、文字を書いたのもリュフーだ(さすがに宛名は 誰かに書いてもらったのか、文字も綺麗だった)。 手紙によると、どうやら彼女は老人の家族と一緒に楽しい 毎日を送っているようで、人が読み書きする文字も老人から 教えてもらったと手紙に書いてあった。 他にも、武器と防具の店の店主や薬屋のオババにお礼を言いに 行ったとか、老人達家族と一緒に宿屋の女将の料理を食べたとも 書いてあった。 誤字や脱字も見受けられるが、その文字や内容から、リュフーが 不慣れながらも一生懸命に手紙を書いている様子が目に浮かんだ。 一度は追放されてしまった風の精霊リュフーティシアだが、 いつの日かリュフーとして、またリュフーティシアとして <ウィルード>の人々と和解できるよう、様々なことを学んで いくのだろう。 人の心を理解するために、記憶と強大な力を封印した風の精霊。 そんな彼女に幸あれと君は願う。 君は最後の一文まで読み終わると、視線を窓の外に向けた。 今日もよく晴れていて気持ちがいいし、様々な種族が町を行き交う 様子や、店にずらりと商品が並んでいる様子は、いつ見ても胸が躍る というものだ。 そうだ、今度はあの店に案内しよう。 いや、少し気が早いか? 君はそんなことを考えながら、軽い足取りで部屋を後にするのだった。 %blue%**HAPPY END「人と生きる風の精霊リュフー」**%/%